異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお

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第44話 ツオレまであと少し

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護達がバレッジの町の住人を連れて町を出発してから1週間近くになろうとしていた。ワイトの街を出てからで計算するともうすぐ1ヶ月になろうとしている。

「そろそろツオレの隣の町に着いてもいい頃なんだよな?バレッジの住人の中からもしも、その町に移住したい人が出てきたら出来る限りの援助をしてから出る事にしよう」

護は残る人が出るのか分からないのにも関わらず、心配をし始めている。こういう部分で護はやけに心配性になりやたらと気を使うがそれだけ少しでも関わった人間が困らない様にしたいのだろう。

「ねえ、ラメル。この次の町の名前は何ていうのかな?」

「ああ、まだ言ってなかったな。もうすぐ到着する町の名前はラーム、以前は周囲を森に囲まれた猟師町の筈だったのだが先日通りがかった際にはあちこちが開拓されて森が姿を消していた。畑が増えた代わりに森の獣達を狩って生活していた凄腕の猟師達が食えなくなって町から居なくなったと言っていたな」

「あれ、なんだか似た様な話が以前なかったっけ?」

「護、ほらあのドードの町の衛士として紹介した元野盗達ですよ」

「そうだ!ドードの町に紹介した元野盗の連中だ。そうか、あいつらはラームの町の出身だったんだな」

「元野盗って一体何があったんだ?」

「実は以前こんな事が有ったんだよ」

俺はラメルに元野盗に襲われたが彼らに同情してドードの町の衛士として紹介した事を話した。

「なるほど、そんな事が有ったんだな。護はツオレの村と同様に関わる者に何かしらの良い運命の流れを呼び込む才能か体質を持っているのかもしれないな」

「そんなお世辞を言われても返事に困るじゃないか、俺はただの心配性なだけだ。今までは上手く行っていただけで俺と関わった所為で不幸になる者だって出てくるかもしれないんだぞ」

「仮に不幸な目にあったとしても、その前に幸福だと感じる事が出来ていたのならやはりその者にとって良い運命だったとも考えられないか?」

「難しくて考えてもよく分からないや、出来るなら不幸な目にもあう事無く良い運命だと感じて欲しいと願うよ」

結局この日はラームの町に到着する事が出来なかった、一緒に歩いていたバレッジの年老いた住人が体調を崩してしまいその看病を優先した為だ。翌日、天照に呼び出してもらった癒しの神と薬の神のお陰で住人の体調もすっかり良くなったので再びラームに向け歩き始める。そして、お昼に指しかかろうとした時に目の前にバレッジよりも少しだけ小さい町が見えてきた。

「あれがラームの町か!」

「その通りだ、この道をそのまま進んで先に見える川に架かる橋を渡っていけばツオレまであと少しだ」

今度のラームでは一体何が待っているのだろう?期待と不安を抱きながら、町に近づく。

「おい、何だか変だぞ。川に架かっている筈の橋が見えない!」

ラメルに言われ先を見てみると、確かに道を進んだ先の川に橋が架かっていない。そして橋が在ったと思われる場所に大勢の人影が見えた。

「様子がおかしいからラームの町には入らずにこのまま橋が在った場所まで行ってみよう」

バレッジの住人を連れたまま、橋が架かっていた筈の場所にやってきた。すると立ち尽くす人達からこんな声が聞こえてきた。

「橋が流されるのは、もうこれで何回目だ!?」

「今まで森が在った頃は、こんな事など1度も起きなかった。森を開拓したのが原因に違いない!!」

「開拓に参加しようともしなかった癖に更に川の増水の原因まで俺の所為にしようって言うのかよ!?」

2番目の人の言っている事が正解だな、森の乱開発が原因だろう。

「川の増水の原因ですけど、森の無計画な開拓が原因だと思いますよ」

「何だお前!?急に話に割り込むんじゃねえ!」

「森は雨が降った際に水が川に流れ込むのを防ぎ水を貯めておく天然のダムの役割もしているんです。森を開拓した結果、水を貯めておく事が出来なくなり流れ出た水で川が増水したのでしょう」

「それじゃあ、木の苗でも植えておけばすぐに増水は止まるんだな!?」

「無理に決まっているでしょ!あなた方が切り倒した木がそれだけの大きさまで成長するのに一体何年掛かっていると思うのですか?森に対する感謝の気持ちを忘れて簡単に木を切り倒す思い上がりへの天罰です」

俺は生活を奪われた元野盗達が町を出る前にきっと言いたかったであろう言葉を言う。しかしこの程度で反省する様なら、何度も橋が流される事にはならなかった筈だ。

「しかし護、これではツオレに向かう事が出来ません。どうしますか?」

「それに橋を作りたくても、肝心の森を開拓して木を手に入れられなくしちゃっているんだから本末転倒よね」

トリーは呆れかえり、開拓していた住人にわざと聞こえる様に言う。

「ふん、こんな橋が無くなろうと俺の知ったこっちゃねえや。悪いが畑の世話に戻らせてもらうぞ」

男は反省する様子も無く、この場を立ち去ろうとするので天照が久しぶりに怒った。

「あなたの畑も橋と同じ様に流されてみないと分からない様ですね」

「はあ!?あんた頭大丈夫かい?」

「土木の神、治水の神よ来たれ!この男の全ての畑を橋と同じ様に流してしまいなさい」

ワイトの街で見た時と同様に白い光の玉が2つ川を遡っていく、それからしばらくすると川の流れが変わり目の前に広がっていた畑で育てられている作物を次々と流し運び去っていった。

「そんな・・・何故急に川の流れが変わって俺の畑が流されるんだよ!?」

おいおい、お前が片っ端から森の木を切り倒して畑にしていただけだったのかよ!?

「下流まで歩いていけば、あなたの畑の作物はまとめて置いてあります。これに反省して幾つかの畑に木を植えてゆきなさい、何もせずにいる様でしたら川が増水する度に橋では無くあなたの畑だけが流れていくでしょう」

天照は淡々と男に話すと、俺の隣までゆっくりと引き返してきた。

「反省しない様でしたら、ワイトの住人と同様に見捨てます。これから新しい橋を架ける為に橋の守護神たる橋姫を呼び出しますので少し離れてください」

すぐに天照は橋を復旧させる為に動き出す、呼び出された橋姫は増水している川を見て呆れていた。

『誰よ、森を片っ端から開拓しちゃった馬鹿は!?これじゃあ、来年もきっと川が何度も増水しちゃうわよ』

「お手数掛けますが橋姫、増水に強い橋をここに架けて頂けませんか?」

『良いわよ、そこの男が畑に木を植えて新しい橋の材料を用意するまでの仮橋を架けてあげる。災害復旧用のだからすぐにでも用意出来るわ」

橋姫はそれからたった2時間ほどで仮橋を架けてしまった。しかし、橋の守護神の橋姫が最新の災害復旧用の仮橋まで司るとは思いもしなかった。

「それじゃあ、橋も架かった事だし渡るとするか。バレッジの住人の中でここラームの町に住みたい人は誰か居るかな?」

「来年も川が増水するのが分かっているのにとても住めません、このままツオレの村まで同行します」

俺達はラームの町に立ち寄る事も無く、そのまま道を進んでいった。俺達が見えなくなった後、男は下流まで流された作物を拾いに行き数日後に町まで戻ると他の住人達の姿が見えない事に気が付いた。

『川の増水がいつ町の中にまで押し寄せてくるのか分からない以上、ここに住み続ける事は出来ない。お前は開拓した畑に木を植えて元の町の姿に戻す義務が有る。それが終わるまでツオレの村に来る事は許さない』

男の家の前に誰が書いたのか分からない手紙だけが残されていた、ラームの住人達は護達を追いかける様にツオレに向かう事を選び残された男の方は逃げる様にしてバレッジの方面に立ち去ってラームの町も無人と化したのだった。
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