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勝湖ぶどう祭りの夜(その2)
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なんとか無事に鳥居の最上段での点火に成功した陸は、足下に気をつけながら山の斜面をくだっている。点火と同時に花火も打ち上げられ、間近で見る大輪の花に表現出来ない感動をおぼえた。
「……花火をこんな近くから見れるとは思わなかったな」
山の中腹で花火に見入っている陸の肩に最上段を推してきた有志の方が手を回すと、祭の感想を聞いてくる。
「ご苦労さん! 初めてここから見る花火の感想はどうだ?」
「なんというか……凄いの一言です。遠くから見る花火大会の花火と違い、こんな間近で見ることが出来るなんて。それに花火のドーンという音が、ここからだとその振動まで身体に伝わってくる。ようやく俺も祭に参加している実感が湧いてきました」
「そう言ってもらえると嬉しいな、聖火ランナーは高校生以上でも参加が出来る。来年も可能だったら参加してくれ。おっと、あまりここで長居していると下で待機してる消防団の先輩方に迷惑かけちまうな。名残惜しいかもしれないが、急いでくだろう」
有志の方にうながされ、陸は再び斜面を下り始めた。そしてふもとで待機していた消防のポンプ車に乗せられると、勝湖中学校手前の交差点まで移動する。聖火ランナーはここで終了らしく中学の体育館で弁当と飲み物を受け取ると、陸は少し遅い夕食を食べながら上の広場から聞こえる賑やかな声に耳を傾けていた。
「リク、こんなところにいた! 急いでそれを食べきらないと、時間切れになってしまうかもしれないヨ」
「時間切れ?」
ずっと探していたのだろうか、陸を見つけたウミが慌てた様子で駆け寄ってくる。薄手の服を着ていた所為か、汗で服の内側がほんの少しだけ透けてみえた。気付かないふりをしながら、陸は何の時間切れが近づいているのか聞いてみる。
「リク、もう忘れたの? 天照から言われたデショ、四カ所の露天を回るようにって」
「ああっ、そうだった!」
陸は残っていた弁当を急いで食べ終えると、ウミの手を取ると広場で待っているクゥと合流すべく体育館をあとにしたのだった……。
「……二人ともおそい、待ちくたびれた」
「悪い悪い、下の体育館でもらった弁当を食べていたんだ」
広場のわきに設置されたベンチに腰かけて待っていたクゥに、陸は遅れてしまった理由を話す。それなら仕方がないとベンチから立ち上がろうとした時、彼女は陸がウミと手を繋いだままでいることに気がついた。
「陸……ウミと付き合うことにしたの?」
「な、なんでそうなるの!?」
「だって二人とも、手を繋いだままでいるから……」
言われてようやくそのことに気付いた陸は、その場で手を離すと頭を掻きながらウミに詫びる。
「ご、ごめん。急いでいたから手を掴んだままだった」
「気にしないでいいよ、リク。それに普段と違って、ワイルドで格好良かったヨ」
お互いに顔を赤くしている二人。するとクゥが頬を膨らませながら、右手で陸の左手を掴んできた。
「ク、クゥ!?」
「ウミばかりズルイ、今度はワタシの番」
思わぬクゥの嫉妬に、陸は少なからず動揺する。会ってまだ数ヶ月しか経っていないのだが、彼女は思ったよりも独占欲が強いのかもしれない。ウミは両手を上げ降参のポーズを取ると、クゥに陸の隣をゆずった。
「今日のところはワタシの負けネ、陸の隣はクゥにゆずるよ。でも来年は陸の隣はワタシのモノね」
「……来年も再来年も、陸の隣はワタシのモノ。ウミにも絶対に負けない」
「よし! 時間も残り少ないから、急いで露天に向かおう。一番近い露天はどこかな?」
かわいい女の子二人から取り合いにされて男冥利に尽きるかもしれないが、祭りの最中に大勢の人の前でやられると目立ってしょうがない。周囲の野郎共の殺気混じりの視線に耐えきれなくなった陸は、天照達が開いている露天に急いで向かうことにした。
「三人とも遅い! 大事な任務をほったらかしにして、どこで遊んでいたのですか!?」
最初におとずれた露天では天照が慣れた手つきで、たこ焼きを焼いている。八個入りで五百円と若干高い気もしたが、陸達はそれぞれ千円札を出しておつりの五百円玉を貰う。
「祭りの残り時間も一時間を切っております、残りの三カ所も急いで回ってください」
会話もそこそこに次の露天へ向かおうとした陸だったが、たこ焼きをひとつ口に運ぶとあまりの美味さにその場で大声を出してしまった。
「うまっ!? 表面はカリッとしてるのに、中はトロッとしていてオマケにタコも大きい。五百円でちょっと高い気もしたけど、これなら納得だ!」
陸の解説を聞いていた客達の視線が、天照の露天に集まる。すると全部売り切るつもりなのか、天照は周囲に聞こえる声でたこ焼きを値引きし始めた。
「は~い! 祭りの残り時間もわずかとなりました、ただいまからこのたこ焼きを四百円に値下げします。この機会にどうぞ食べていってください」
百円値引きのコールを合図に、天照の露天には客が殺到する。笑顔の天照が陸に親指を立てながら一言。
「グッジョブ♪」
無事最初の露天でサクラの任務を果たした陸達三人は、次の露天をめざして広場を回り始めたのだった……。
「……花火をこんな近くから見れるとは思わなかったな」
山の中腹で花火に見入っている陸の肩に最上段を推してきた有志の方が手を回すと、祭の感想を聞いてくる。
「ご苦労さん! 初めてここから見る花火の感想はどうだ?」
「なんというか……凄いの一言です。遠くから見る花火大会の花火と違い、こんな間近で見ることが出来るなんて。それに花火のドーンという音が、ここからだとその振動まで身体に伝わってくる。ようやく俺も祭に参加している実感が湧いてきました」
「そう言ってもらえると嬉しいな、聖火ランナーは高校生以上でも参加が出来る。来年も可能だったら参加してくれ。おっと、あまりここで長居していると下で待機してる消防団の先輩方に迷惑かけちまうな。名残惜しいかもしれないが、急いでくだろう」
有志の方にうながされ、陸は再び斜面を下り始めた。そしてふもとで待機していた消防のポンプ車に乗せられると、勝湖中学校手前の交差点まで移動する。聖火ランナーはここで終了らしく中学の体育館で弁当と飲み物を受け取ると、陸は少し遅い夕食を食べながら上の広場から聞こえる賑やかな声に耳を傾けていた。
「リク、こんなところにいた! 急いでそれを食べきらないと、時間切れになってしまうかもしれないヨ」
「時間切れ?」
ずっと探していたのだろうか、陸を見つけたウミが慌てた様子で駆け寄ってくる。薄手の服を着ていた所為か、汗で服の内側がほんの少しだけ透けてみえた。気付かないふりをしながら、陸は何の時間切れが近づいているのか聞いてみる。
「リク、もう忘れたの? 天照から言われたデショ、四カ所の露天を回るようにって」
「ああっ、そうだった!」
陸は残っていた弁当を急いで食べ終えると、ウミの手を取ると広場で待っているクゥと合流すべく体育館をあとにしたのだった……。
「……二人ともおそい、待ちくたびれた」
「悪い悪い、下の体育館でもらった弁当を食べていたんだ」
広場のわきに設置されたベンチに腰かけて待っていたクゥに、陸は遅れてしまった理由を話す。それなら仕方がないとベンチから立ち上がろうとした時、彼女は陸がウミと手を繋いだままでいることに気がついた。
「陸……ウミと付き合うことにしたの?」
「な、なんでそうなるの!?」
「だって二人とも、手を繋いだままでいるから……」
言われてようやくそのことに気付いた陸は、その場で手を離すと頭を掻きながらウミに詫びる。
「ご、ごめん。急いでいたから手を掴んだままだった」
「気にしないでいいよ、リク。それに普段と違って、ワイルドで格好良かったヨ」
お互いに顔を赤くしている二人。するとクゥが頬を膨らませながら、右手で陸の左手を掴んできた。
「ク、クゥ!?」
「ウミばかりズルイ、今度はワタシの番」
思わぬクゥの嫉妬に、陸は少なからず動揺する。会ってまだ数ヶ月しか経っていないのだが、彼女は思ったよりも独占欲が強いのかもしれない。ウミは両手を上げ降参のポーズを取ると、クゥに陸の隣をゆずった。
「今日のところはワタシの負けネ、陸の隣はクゥにゆずるよ。でも来年は陸の隣はワタシのモノね」
「……来年も再来年も、陸の隣はワタシのモノ。ウミにも絶対に負けない」
「よし! 時間も残り少ないから、急いで露天に向かおう。一番近い露天はどこかな?」
かわいい女の子二人から取り合いにされて男冥利に尽きるかもしれないが、祭りの最中に大勢の人の前でやられると目立ってしょうがない。周囲の野郎共の殺気混じりの視線に耐えきれなくなった陸は、天照達が開いている露天に急いで向かうことにした。
「三人とも遅い! 大事な任務をほったらかしにして、どこで遊んでいたのですか!?」
最初におとずれた露天では天照が慣れた手つきで、たこ焼きを焼いている。八個入りで五百円と若干高い気もしたが、陸達はそれぞれ千円札を出しておつりの五百円玉を貰う。
「祭りの残り時間も一時間を切っております、残りの三カ所も急いで回ってください」
会話もそこそこに次の露天へ向かおうとした陸だったが、たこ焼きをひとつ口に運ぶとあまりの美味さにその場で大声を出してしまった。
「うまっ!? 表面はカリッとしてるのに、中はトロッとしていてオマケにタコも大きい。五百円でちょっと高い気もしたけど、これなら納得だ!」
陸の解説を聞いていた客達の視線が、天照の露天に集まる。すると全部売り切るつもりなのか、天照は周囲に聞こえる声でたこ焼きを値引きし始めた。
「は~い! 祭りの残り時間もわずかとなりました、ただいまからこのたこ焼きを四百円に値下げします。この機会にどうぞ食べていってください」
百円値引きのコールを合図に、天照の露天には客が殺到する。笑顔の天照が陸に親指を立てながら一言。
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