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勝湖ぶどう祭りの夜(その3)
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陸達が次に見つけた露天はリンゴ飴、そしてその店を構えていたのは月読である。月読は近づいてきた陸を見つけると、嬉しそうに話しかけてきた。
「いらっしゃい、待っていたわよ。売っているリンゴ飴は二種類あるから、自分の好きな方を選んでちょうだい」
露天では普通の赤いリンゴと、青リンゴの二種類が売られている。しかしどちらも飴がかかっていない状態で、注文を受けてから飴をコーティングするシステムらしい。どちらを頼もうか悩んでいた陸は、トッピング用なのか何かの液体が入った瓶を見つけた。
「……なあ、これって飴の上からかけるのか?」
「いいえ、違うわよ。それは希望する人がいれば、飴の中に混ぜてあげるの。月読特製のハーブエキス、効果ばつぐんよ」
月読が何やら妖しい笑みを浮かべるので、陸はどんな効果があるのか聞いてみる。
「この瓶に入っているのは、主にイカリソウとダミアナから抽出したエキスよ。古来より媚薬や精力増強の効果があるとされているから……あとは言わなくても分かるでしょ?」
すると二人の会話を聞いていたらしいアベックの彼氏が、周囲を気にしながらリンゴ飴を買いに来た。
「あ、あの……。赤いリンゴ飴をひとつ、ハーブエキスも入れてください」
「はい、まいどあり」
彼氏が離れていくと次々と新しい客がやってくる、陸と月読の会話を聞いていたのは彼の他にも居たらしい。忙しそうなので陸がその場を離れようとすると、月読がリンゴ飴を三個手渡してきた。
「これはお駄賃、お金は貰ってないけど売り上げに貢献してくれたからね。例のエキスは入れてないから、心配しなくてもいいわよ」
陸は月読から受け取ると、次の露天を探しに回り始める。クゥとウミは無言でリンゴ飴をかじりながら、陸の顔をじっと見つめていた……。
三つ目の露天は焼きそばだったが、のれんに【完売】の札が吊されている。焼きそばを担当していたのが、食堂のおばちゃんこと大気都(おおげつ) 姫(ひめ)だったので当然といえば当然か。
「来るのが少し遅かったね。こっちは完売しちゃったから、大と武の方を手伝ってやってくれないかい?」
残る露天はわた菓子だが、陸は一抹の不安をおぼえる。この手のイベントで最後に残るのは、必ずと言っていいほど面倒な奴が多いからだ。そしてその陸のカンはこれ以上ないほどに当たっていたのである。
「おお陸、待っていたぞ! 何故だかみんな、買うのを躊躇して去っていくんだ」
店には【砲弾わた菓子】の看板が掲げられていた。口径別に五種類のサイズが書かれており、そして料金も五百円均一である。それなのに何故買うのを躊躇するのだろうか?
「どうやら皆、食べきれる自信が無いらしくてな。悪いが陸、一番デカい奴を食べて皆に見せてやってくれないか?」
祖父からの頼みとあっては断りづらい陸、渋々了承するが実物を見た瞬間にその場から逃げ出したくなる。
「あいよ! 四十六センチ砲サイズ、全長千九百五十五ミリのわた菓子お待ち!」
砲弾型の袋の中には、わた菓子がこれでもかというほど詰められていた。約二メートルの袋に圧倒されているのは、陸だけでなく見ていたギャラリーも同様である。
「陸、おまえだけが頼りだ。見事食い切ってくれ!」
「そう言われても、さすがにこれは……」
圧倒的な物量を前に尻込みしていると、見かねたクゥが陸の肩を叩いた。
「陸……ワタシも手伝う」
「クゥも一緒に食べてくれるのか? けれど二人でも相当な量があるぞ」
すると今度は反対の肩をウミが叩く。
「リク、まだワタシもいるヨ。ワタシ達は義兄妹ネ、三人ならきっと食べきれるよ」
すると周囲のギャラリー達から歓声が湧いた。
『頑張れ! おまえ達三人なら、きっと食えるぞ!』
『見事食い切ったなら、俺達も買ってやるぞ」
大勢のギャラリーの前で食べることになった、陸達三人。話を聞きつけてきたのか見物している人数も増えてきた。三人は目で合図を送ると、一斉にわた菓子を食べ始める。
(これは……想像以上に食いづらいぞ!?)
いざ食べ始めてみると、口のまわりや手がベトベトして想像以上に食べづらい。おまけに食べ進めていくうちに、唾液を消費して喉まで渇いてきた。悪戦苦闘しながら食べる陸が何気に横を見てみるとウミはコーラ、クゥも烏龍茶でわた菓子を溶かしてから喉の奥に流し込んでいる。
陸も二人を真似てお茶を口に含んでからわた菓子を食べるようにしてからは、わた菓子の消費スピードも格段に跳ね上がった。飲み物を使って流し込んでいた陸達に、最強最大の敵が襲いかかる。それはお手洗いであった……。
「リク、ちょっとお花摘みに行ってくる」
「ワタシも……」
ウミとクゥが早々に脱落して、離れた場所にある仮説トイレに向かう。その間、懸命に食べ進める陸ではあったが、すでに膀胱は限界に近い。二人のどちらかが戻り次第、陸もトイレに飛び込むつもりでいるが祭りのトイレは今の時間帯どこも大盛況。トイレという人気アトラクションの待ち時間も徐々に増えていた。
ここで陸は最後の勝負に出る。残ったわた菓子をビニール袋に移し替えると、彼は予備で持っていたお茶をその中に入れて、バシャバシャと振りながら全部溶かしてしまった!
「陸!」
孫が何をしようとしているのか分かった大は陸を止めようとするが、盛り上がった観客の声援にかき消されその声は届かない。そして覚悟を決めた陸は水あめ並の甘さとなったお茶を、一気飲みし始めたのだった……。
「いらっしゃい、待っていたわよ。売っているリンゴ飴は二種類あるから、自分の好きな方を選んでちょうだい」
露天では普通の赤いリンゴと、青リンゴの二種類が売られている。しかしどちらも飴がかかっていない状態で、注文を受けてから飴をコーティングするシステムらしい。どちらを頼もうか悩んでいた陸は、トッピング用なのか何かの液体が入った瓶を見つけた。
「……なあ、これって飴の上からかけるのか?」
「いいえ、違うわよ。それは希望する人がいれば、飴の中に混ぜてあげるの。月読特製のハーブエキス、効果ばつぐんよ」
月読が何やら妖しい笑みを浮かべるので、陸はどんな効果があるのか聞いてみる。
「この瓶に入っているのは、主にイカリソウとダミアナから抽出したエキスよ。古来より媚薬や精力増強の効果があるとされているから……あとは言わなくても分かるでしょ?」
すると二人の会話を聞いていたらしいアベックの彼氏が、周囲を気にしながらリンゴ飴を買いに来た。
「あ、あの……。赤いリンゴ飴をひとつ、ハーブエキスも入れてください」
「はい、まいどあり」
彼氏が離れていくと次々と新しい客がやってくる、陸と月読の会話を聞いていたのは彼の他にも居たらしい。忙しそうなので陸がその場を離れようとすると、月読がリンゴ飴を三個手渡してきた。
「これはお駄賃、お金は貰ってないけど売り上げに貢献してくれたからね。例のエキスは入れてないから、心配しなくてもいいわよ」
陸は月読から受け取ると、次の露天を探しに回り始める。クゥとウミは無言でリンゴ飴をかじりながら、陸の顔をじっと見つめていた……。
三つ目の露天は焼きそばだったが、のれんに【完売】の札が吊されている。焼きそばを担当していたのが、食堂のおばちゃんこと大気都(おおげつ) 姫(ひめ)だったので当然といえば当然か。
「来るのが少し遅かったね。こっちは完売しちゃったから、大と武の方を手伝ってやってくれないかい?」
残る露天はわた菓子だが、陸は一抹の不安をおぼえる。この手のイベントで最後に残るのは、必ずと言っていいほど面倒な奴が多いからだ。そしてその陸のカンはこれ以上ないほどに当たっていたのである。
「おお陸、待っていたぞ! 何故だかみんな、買うのを躊躇して去っていくんだ」
店には【砲弾わた菓子】の看板が掲げられていた。口径別に五種類のサイズが書かれており、そして料金も五百円均一である。それなのに何故買うのを躊躇するのだろうか?
「どうやら皆、食べきれる自信が無いらしくてな。悪いが陸、一番デカい奴を食べて皆に見せてやってくれないか?」
祖父からの頼みとあっては断りづらい陸、渋々了承するが実物を見た瞬間にその場から逃げ出したくなる。
「あいよ! 四十六センチ砲サイズ、全長千九百五十五ミリのわた菓子お待ち!」
砲弾型の袋の中には、わた菓子がこれでもかというほど詰められていた。約二メートルの袋に圧倒されているのは、陸だけでなく見ていたギャラリーも同様である。
「陸、おまえだけが頼りだ。見事食い切ってくれ!」
「そう言われても、さすがにこれは……」
圧倒的な物量を前に尻込みしていると、見かねたクゥが陸の肩を叩いた。
「陸……ワタシも手伝う」
「クゥも一緒に食べてくれるのか? けれど二人でも相当な量があるぞ」
すると今度は反対の肩をウミが叩く。
「リク、まだワタシもいるヨ。ワタシ達は義兄妹ネ、三人ならきっと食べきれるよ」
すると周囲のギャラリー達から歓声が湧いた。
『頑張れ! おまえ達三人なら、きっと食えるぞ!』
『見事食い切ったなら、俺達も買ってやるぞ」
大勢のギャラリーの前で食べることになった、陸達三人。話を聞きつけてきたのか見物している人数も増えてきた。三人は目で合図を送ると、一斉にわた菓子を食べ始める。
(これは……想像以上に食いづらいぞ!?)
いざ食べ始めてみると、口のまわりや手がベトベトして想像以上に食べづらい。おまけに食べ進めていくうちに、唾液を消費して喉まで渇いてきた。悪戦苦闘しながら食べる陸が何気に横を見てみるとウミはコーラ、クゥも烏龍茶でわた菓子を溶かしてから喉の奥に流し込んでいる。
陸も二人を真似てお茶を口に含んでからわた菓子を食べるようにしてからは、わた菓子の消費スピードも格段に跳ね上がった。飲み物を使って流し込んでいた陸達に、最強最大の敵が襲いかかる。それはお手洗いであった……。
「リク、ちょっとお花摘みに行ってくる」
「ワタシも……」
ウミとクゥが早々に脱落して、離れた場所にある仮説トイレに向かう。その間、懸命に食べ進める陸ではあったが、すでに膀胱は限界に近い。二人のどちらかが戻り次第、陸もトイレに飛び込むつもりでいるが祭りのトイレは今の時間帯どこも大盛況。トイレという人気アトラクションの待ち時間も徐々に増えていた。
ここで陸は最後の勝負に出る。残ったわた菓子をビニール袋に移し替えると、彼は予備で持っていたお茶をその中に入れて、バシャバシャと振りながら全部溶かしてしまった!
「陸!」
孫が何をしようとしているのか分かった大は陸を止めようとするが、盛り上がった観客の声援にかき消されその声は届かない。そして覚悟を決めた陸は水あめ並の甘さとなったお茶を、一気飲みし始めたのだった……。
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