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第18話 スパイダー系能力を活かした狩りの模索

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「最初は冗談かと思ったが本当にスライムを喰うのだな、ハジメ様は」

「そう言いながら俺の真似して喰う奴もどうかと思うぞ、ラン」

「だが本当にステーキとやらの味がするのか知りたいと思って試しに食べる奴は居らんかったのか、ほれあの勇者とか?」

「普通の奴じゃスライムの酸で内臓が溶けて死ぬわ!」

「あの勇者は普通とは到底呼べぬと思うが?」

1日掛けて行うつもりだったビーフステーキ食べ放題(ブラウンスライム狩り)がランが参加者として加わったら半日掛からずに終わってしまった・・・。スライムの持つ強力な酸が怖くて普通の人間なら怖くて食べる事などしないが、ランは繰り返しになってしまうが魔王の娘で普通の人間では無い、ハジメの言う通りステーキの味がする事を知るとハジメの倍以上のペースで食べ始めたのである。

「今まで倒すだけで喰おうとは思わなんだが、これなら何匹でも喰える。ハジメ様、魔界にはブラウンスライム50体が融合して生まれるキングブラウンスライムも生息しておる。【大型転移陣(ビッグゲート)】が完成したら魔界に遊びに来ぬか?きっとお前様の糧となるモンスター共と巡り会えると思うぞ」

(キングブラウンスライムか・・・どんな味なのか試しに食べてみたいな)

後日、ハジメは魔王とランの招待で【大型転移陣(ビッグゲート)】周辺のモンスター試食会に呼ばれた際にこのキングブラウンスライムを実際に食べる事となる。



「でもランは何でモンスターを食べて平気なんだ?ステータスとかが高いからなのか?」

「多分お母様からの遺伝の影響だと思う、昔お母様が魔界に来て間もない頃にドラゴンの襲撃を受けた事が有ったらしいのだがお母様はそのドラゴンを丸焼きにした後に塩を振り掛けてその足に齧り付いて喰ったらしいのだ」

「ドラゴンを丸焼きにして喰った!?」

やってる事が既に人外と化している前勇者であるランの母親アーシュラ。だが何故だろう、今までの話を聞いているとこの人ならそれ位やりそうだと思えてくるのは・・・。

「それで一口だけ食べたら『思ったよりも美味くない、あとはあなたが全部食べなさい』と父上に残りのドラゴンの肉を喰わせたそうです。それで父上の力が跳ね上がり魔王の地位も磐石となったみたいですが、その父上でさえ今でも軽く袋叩きにするお母様を魔族の者達の一部では【王妃の姿をした破壊神】と呼んでいるそうです」

始のしていた事など子供のお遊びレベルにしか感じられなくなってきた、でも何で魔王と結婚する気になったのかな?

「それで、何でお母さんのアーシュラさんは父君の魔王の妃になったの?」

「多分聞いたら凄く呆れますよ?」

「一応聞いておきたい」

「無関係の人族が魔族の軍隊を再訓練する事が出来ないのを知ったお母様は『じゃあ、あなたの妻になれば再訓練しても誰も文句は言わないのね?なら今すぐ式を挙げるわよ!』そう言って、父上をボコボコにしたその日に籍を入れてしまったらしいです」

ハジメは呆れを通り越して思考が停止した。自分よりも弱かった魔王に怒って再教育すると単身で魔界に乗り込み、魔族関係者でないと魔族の軍隊の教育に関われないと知るとその場で魔王と結婚するなんて正気の沙汰じゃない。バトルジャンキーというよりも【狂った武の化身】が妥当なのかもしれない。

「その血がランにも流れている訳か」

「ハジメ様、そんなに見つめられると照れてしまいます」

(ドラゴンを喰った女性の娘なんだから、スライムぐらい喰えてもおかしくないか)

「でもアーシュラさんが健在なのに、何で始の奴が新たな勇者として召喚されたんだ?」

「それはきっと弟のラーセッツが成人して次代の魔王候補筆頭になったのが原因かもしれません」

(ラーセッツ・・・らせつ、羅刹ね。歴代最狂の魔王にでもなりそうだな)

だが、そのハジメの予想は覆される。

「でもラーセッツは『僕はこの有り余る力を活かして荒れ果てた土地を開墾している方が性に合っています、もしも僕が魔王になったら軍隊を解散して農業に力を入れようと思っていますがそれでも良いですか?』と公言しているのでシスティーナに攻め入る事はしないと思います。むしろ農業方面の技術交流をしようとするかもしれませんね」

何、その農業男子!?ランの弟が魔王になったら、魔界ではきっと飢える人は現れないだろう。食料が豊富になればそれだけ国力も増す、将来的には今の魔王の治世よりも別の意味で恐れられる魔王になるかもしれない。



「ラン、午後は新しい狩りの仕方を考えようと思うから何もせずに後ろから見ていてもらっても良いか?」

「それは構わないが、何をするつもりなのだお前様?」

ハジメが今回試そうとしている能力は以下の6つ、【粘糸生成】・【鋸糸生成】・【糸渡り】・【導火糸】・【麻痺糸生成】・【捕縛網】

これらを組み合わせれば罠を仕掛ける事も可能ではないかとハジメは考えた、そしてまず最初に試したのは【粘糸生成】・【導火糸】・【麻痺糸生成】・【捕縛網】の組み合わせだ。

木々の間隔がある程度離れている林を見つけると、周辺にどんなモンスターが居るか調べてみた。するとこの林の中では蝶の羽を持ち人の姿をした妖精系のモンスターが生息している事が分かった。

「ほう、妖精系の奴らがこんな所に居るとはの。高い知能を有し言葉を操れるが同族以外の者は敵とみなすからな、多少狩っても問題は無い。ただこやつ等は魔法も使うからあまり近づかぬ方が良いぞ」

ランから得た情報で先程の組み合わせはかなり有効だと思えた。ハジメはまず見つからない様にしながら木の上にジャンプすると隣の木に糸を飛ばした。そして【糸渡り】を使いながら粘糸と麻痺糸を組み合わせた巨大な蜘蛛の巣を作り上げる。そして茂みの中で隠れる事1時間、ピクシーと呼ばれる拳大の小さなモンスターの1匹がまず網に掛かった。

『きゃあ、何これネバネバするし身体も痺れてきたよ。誰か助けて~!』

仲間に助けを呼ぶと周囲に居たピクシーが一斉に集まって網に掛かった仲間を助けようとする、しかし糸に触れた者達も次々と粘着する糸が離れなくなり身体が麻痺すると更に多くの仲間を呼び始めた。その隙にもう1つの罠を作り終えるとハジメは群がっているピクシー達に向かって【捕縛網】を投げた!

『きゃあ、何するのよ。離しなさいよ!』

もがくピクシー達を見ながらハジメは捕縛網に繋がる1本の糸に火を付けた。

「発火」

糸に火が付くとその火はあっという間に大量のピクシーを捕まえている網に伝わり次の瞬間ピクシー達は火に包まれた。

(導火糸の組み合わせも上手くいったが、結構残酷だな。多用は控えよう)

燃え尽きるのを茂みの中で待っていると、人間大の大きさの妖精が慌てて飛んできた。

『お前達、今すぐ助けてあげるから待っていなさい!!』

「ほほ~あんな大物がルピナスの近くに居たとは予想外じゃ、ハジメ様あれは妖精系の女王ティターニアだ」

「ティターニア?」

「父上には劣るかもしれないが、相当な魔力を持っており使用出来る魔法の種類も豊富だ。あれを喰らえばハジメ様はもっと強くなるぞ」

人型で言葉を話す奴を喰うのは一瞬気が引けたが既にゾンビやスケルトンなどを食べていたので、その憂いはすぐに消え去った。

「しかし、あのティターニアに【捕縛網】の類は効かぬと思うがどうするつもりだ?」

「多分もうすぐかなりエグイ物を見るから、胃の中のスライムを戻さないでくれよ」

「?」

ハジメの言っていたエグイ物、それはすぐに判明した。ティターニアが未だに燃えているピクシー達に近づいた瞬間、何かに触れた。

『えっ!?』

だが、その場で止まる事の出来なかったティターニアは数秒後バラバラに切り刻まれその血が付着した透明な蜘蛛の巣が現れた。

「これは・・・確かにエグイ。お前様は一体何をしたのだ?」

「あれは・・・極限まで細くした【鋸糸】で蜘蛛の巣の罠を仕掛けておいたのさ。助けに来た奴を細かくする為にね」

しかしティターニアを殺してしまったのは失敗だった様で、周辺に居た他の妖精系のモンスター達が一斉に林を飛び立ってしまい別の場所に移動してしまった。

「女王が死んだ事でこの林に住んでいた妖精らを統制する者が居なくなり逃げ出したと見える、これ以上近づいてくる者は居らんみたいだから女王らを喰らってくればどうだ?ハジメ様」

「ああ、そうだな。じゃあ喰ってくるよ」

ハジメはまず焼けたピクシーの1匹を掴むと口に運んだ。

(この味は・・・もしかしてリンゴ?)

焼けたピクシーの味は焼きリンゴに近い味だった。

「ラーン!この焼けたピクシー、お前も食べてみろよ焼きリンゴの味がするぞ」

「本当か!?私もぜひ食べてみたい!」

焼きリンゴ(ピクシー)を食べている間に細かく切り刻まれたティターニアを串に刺して焼く、念の為塩コショウで味を調えると芯まで火が通るまで待つ事にした。焼きリンゴ(ピクシー)を食べ終えたハジメ達はいよいよ本日のメインディッシュとなる焼きティターニアを食べようとしていた。

「ハジメ様がどんな能力を手に入れるのか楽しみだ」

「それよりも先にちゃんと喰えるかどうかが問題だ、一体どんな味なんだろうな?」

ハジメは焼けたティターニア串を1本取ると、ゆっくりと口に運んだ・・・。
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