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第44話 【ダイナス恐怖の10日間】~6日目午後の部その1~

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洞窟に足を踏み入れてから50mも歩かない内に外の光が届かなくなり視界が闇に包まれた。ハジメは暗視能力や熱感知を持っているので闇の中でも苦にならないが他の3人は足元が良く見えない為、歩幅も極端に狭くなっている。

(松明を点けると組織の連中に気付かれる可能性も有るから使えないし、どうすれば良いだろう?)

ハジメがそんな事を考えていると、熱感知に反応する物体を見つけた。3人をその場に待機させて近付くとその物体はかつてモンドール村で村人の目を盗んで食べていた物だった。

「懐かしいな、パープルスライムだ」

そういえばこのスライムを食べてから目が良くなった気がする、味もブルーベリーだったし。セシリア達にも食べてもらえば松明を点けずに済むかもしれない。ハジメはそう考えると粘糸を使って生け捕りにするとセシリア達の許に戻った。

「なあ、試しにこのスライムを食べてみてくれないか?こいつを食べてから俺、暗い中でも目が見える様になったから」

「でも、こんな紫色のスライムをよく食べようと思いましたね?」

セシリア達は食べるのを躊躇した、急に食べろと言われても流石にスライムの場合は怖いのか。マミーはガツガツ自分から食べた癖に・・・と言うと後が怖いのでハジメは言わなかった。

「まあとりあえず食べてみてよ、ブルーベリーって果物の味がして美味しいからさ」

「果物ですか?それなら試しに食べてみても良いですよ」

果物の味がすると言ったら途端に食べる気になる3人、フルーツにはやはり目がないみたいだ。

「「「いただきます」」」

3人は同時に言いながら切り身にしたパープルスライムを口に運ぶ、すると急にセシリアがハジメの肩を掴んだ!

「ハジメ!今すぐ他のパープルスライムを探してきてください、この機会に私達は暗い中でも見える様になろうと思いますので出来るだけ大量に生け捕りにしてくださいね」

「ああ、分かった。少し待っていてくれ」

「「「やった~♪」」」

ハイタッチして喜ぶ3人、ブルーベリー(パープルスライム)食べ放題を楽しむ状況じゃないのに・・・。



「ハジメ、ようやく私も見える様になりました」

ブルーベリー(パープルスライム)を食べ始めてから21匹目、3人の最後でセシリアもやっと暗視能力が身に付いた。他の2人は早々に身に付いていたのに結局食べるのを止めなかった。

「「デザートは別腹ですから」」

そんな事を言うミリンダとサリーネ。

(お前らが喰ったのはスライムであってデザートではないぞ)

ほんの数日しか一緒に居ない筈なのに、サリーネがどんどんセシリア達に感化されている気がしてならない。いずれサリーネの尻に敷かれる未来も近いだろう、ハジメは何となくそんな予感を感じた。

「暗視能力を持つとこんなに暗い洞窟の中でも明るく見えるのですね、飛んでいるコウモリもよく見えます」

サリーネの指差した先でコウモリの群れが飛んでいた、しかしコウモリにしてはヤケに大きい。

「おい、あれはコウモリじゃなくてモンスターだぞ!」

ハジメが思わず声を上げるとコウモリ型のモンスターが反応して襲い掛かってきた、4人は身を伏せて最初の攻撃を避けたが次の攻撃も避けれるかは分からなかった。

「少し俺から離れてくれ」

洞窟内の狭さを利用してハジメは真空の刃で倒す事にした。

「テンペスト」

無数の刃がコウモリの群れに向かう、コウモリ達は逃げようとしたが狭い天井の所為で逃げ場を失い次々と切り刻まれて地面に落ちてきた。


パープルバット=闇夜に紛れて人を襲い、生き血を吸うモンスター。単体では倒される恐れが有る為、群れで行動する事が多い。


さて、地面に大量に落ちているパープルバットの肉。やはり怪物料理人(モンスターコック)の血が騒ぐのかセシリアが何も言わずに手に取って口に運んでいた。だが最初に一口食べて妙な顔つきをするので、ハジメも不安になったが更に二口三口と食べ進めるのでどんな味か聞いてみる事にした。

「セシリア、それは一体どんな味がするんだ?」

「これは・・・甘辛さが絶妙で何というかご飯と一緒に食べたい味です」

ご飯と一緒に食べたくなる味?ハジメはどんな味か気になったので早速食べてみた。モグモグモグ・・・食感は現物とは違うが味は確かにご飯の共に最適だろう。

「うん、これは海苔の佃煮の味だ」

「海苔の佃煮?」

こっちの世界、特に内陸部の人に海苔の佃煮を説明しようとしても上手く言えそうも無い。『ご○んですよ!』や『ア○!』を食べ慣れている人ならすぐに分かるかもしれないが、食べた事も無い人に海苔の作り方から教える時間も余裕も無い。

「時間が有ったら、ルピナスに戻る前に始を連れてきて保存しよう。多分、始の奴もこいつと一緒にご飯を食べたいと言う筈だから」

「?」



その後、洞窟内をかなり進んだがミリンダが育てられた組織の連中と鉢合わせする事が無かった。普通だったら見張りの1人や2人居ても不思議では無いのだが様子が少しおかしい。

「ちょっと何か変じゃないか?暗殺者を育てる組織にしては見張りも居ない、もしかして待ち伏せされているかもしれない。気を付けろ」

だがそのハジメの杞憂は無駄に終わった、何故なら4人はすぐに人間の溶けた骨が落ちているのを見つけたからだ。

「見張りはパープルスライムのエサとなって既にこの世に居なかったみたいですね」

淡々とした口調で話すミリンダ、しかし見張りが戻ってこないのなら仲間が様子を見に来る筈だが骨を見る限り何ヶ月も放置された感じだ。

「数ヶ月も洞窟の中で生活出来るだけの食料を貯め込んでいるとは考えにくい、もしかして組織の連中はモンスターに施設を襲われたんじゃないか?」

周囲に気を付けながら更に進むと、施設の址らしき物が見えてきた。入り口は鉄の扉で作ってあったみたいだが片方が溶けた状態となっている、どうやら強い酸で溶かされたらしい。

「ミリンダ、残念だけど多分中に居た子供達はスライムの襲撃で命を落としたか食料が無くなって餓死しているだろう。だがこの組織が他の場所にも施設を作っていたらマズイから一旦この建物の址を捜索して記録か何か残っていないか調べよう。出来れば、襲われる前に子供達だけでも助けたかったな」

「ええ、そうですね。身元が分かる物でも残されていれば、ぜめて両親の元まで届けてあげましょう」

ハジメ達4人は施設址の入り口で手を合わせて黙祷すると、残された痕跡を調べる為に施設の中に入っていった。
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