スライムばかり食べてた俺は、今日から少し優雅な冒険者生活を始めます。

いけお

文字の大きさ
62 / 84

第62話 初めての魔界と不穏な影

しおりを挟む
「ほぼ半月ぶりに見たけど、大分仕上がってるな【大型転移陣(ビッグゲート)】」

サリーネやマリアは初めて見る巨大なゲートに圧倒されている、ミリンダやセシリアも装飾が一切されていない頃のゲートしか見ていなかったのでその外見の変わりように目を丸くしていた。

「ほう、見事な細工だ。こんな良いものが雨風に晒されて形を変えるのは忍びないな、少しだけ手を加えてやるか」

そう言うとガルフはゲートに使われているパーツ1つ1つに小さな点を打っていった。

「まあ、こんなところで十分だな。俺が全て作った訳じゃないから完全には無理だが長くこの美しい装飾を拝める筈だ」

一仕事を終えたガルフがゲートに向かって跪拝した、プライドが高く滅多な事では褒めたりしないドワーフに最大限の敬意を表された事でまだ作業中の魔族の中には感激のあまり涙を流し始める者まで居た。

「どうだハジメ様、魔族の装飾技術も中々にレベルが高いであろう?」

ランが自信有り気にハジメに話しかける、純白の大理石で出来たゲートには大小様々な花の模様の装飾が為されており見た者の目を奪う。しかし、その何十種類と在る模様の中の目立たない場所に桜・菊・蘭の3種が固まる様に彫られていたのにハジメはすぐに気が付いた。

(アーシュラさんにとってランは、何だかんだ言っても亡くなった妹と同じ位大切な存在なのだろうな)

母親のそんな気持ちに気付く筈も無いランは、ハジメだけに飽き足らずサリーネやマリアの前でも自分が彫った訳でもないのに自慢を続けた為アーシュラさんのお仕置きをその後受ける事となった・・・。



「さて、今回の魔界訪問の目的の1つとして馬車に人を乗せたままでも無事に通る事が出来るかの実験が何気に含まれている事を先程聞かされた訳ですが・・・」

ハジメはチラリとアーシュラを横目で見ると、アーシュラさんは惚けた顔で口笛を吹いていた。

(ぐぬぬ、しかし迂闊な事を言って馬車を蹴られでもしたら折角この馬車を作ってくれた商業ギルドの方々に怒られるから大人しくしておこう)

「まあ、目の前でゲートに蹴り込まれたカルーラさんの無事も確認されたので馬車に乗って準備しましょう」

10分ほど前、ハジメ達にゲートを通る際の注意事項を説明していたカルーラさんをアーシュラさんはいきなりゲートに蹴り込んでいた。

ゲシッ!

「あなたが実際に見本を見せれば良いのよ!」

「うわぁあああああああ!!」

目の前で魔王が足蹴にされているのを見ても動じない魔族の作業員達、最早見慣れた光景なのだと理解出来た。そして簡易転移陣を通って魔界側の作業員がカルーラさんの無事を報告に来たので今度はハジメ達の番となったのだ。

馬車を曳くのは勿論ヒッポちゃん、そして馬車に乗るのはハジメ達6人と米麹を探す為に魔界に同行する事となったガルフとアーシュラさんの計8人である。

「婿殿、この馬車は凄いわね。馬車の中に屋敷が収まっているだなんて思わなかったわ」

「俺も最初に渡された時は正直驚いたよ、でも採算度外視で作った奴らしいから実際に注文したら恐ろしい金額を請求されると思うぞ」

「それでも注文する価値は充分に有るわ、だって魔族が人族の作った乗り物を愛用すればお互いの警戒心を少しずつ解いていくキッカケにもなるから」

アーシュラさんは先を見通して馬車の効果を考えていた、人族と魔族で争う必要の無い世界を恒久的なものとしたいのだろう。出来るのならばシスティナが謝罪と贖罪を果たし、人に歩み寄る未来も訪れて欲しいと願うがそれこそ本当の意味で奇跡といえるかもしれない。

「では、そろそろ行きましょうか婿殿。入る際の衝撃とかも気にしなくても良いわよ」

「分かった、それじゃあ出発だヒッポちゃん」

『・・・・・』

普段だと反撃の1つや2つ来てもおかしくないのだが、今日は珍しく攻撃をしてこなかった。流石のヒッポちゃんも初めて魔界に渡る緊張の方が上回っているらしく、ハジメに何と呼ばれていたのか気付いていないのだろう。

「【大型転移陣(ビッグゲート)】起動!」

魔族の担当が係に指示を与えると【大型転移陣(ビッグゲート)】の中央に紫色の光を放ちながら螺旋状の渦が発生した。膨大な魔力を消費する事でシスティーナと魔界を一時的に繋げる仕組みとなっている。ゆっくりと渦に入ると衝撃を受ける事も無くすんなりと中へと進めた。ゲートの内部は薄明るい紫の光で包まれており暗闇では無かったので安心して進む事が出来た。そして馬車で進む事およそ5分、目の前に白い光が見えてきた。

「あれがゲートの出口でもあり魔界の入り口よ」

魔界に足を踏み入れる瞬間が徐々に近づいてくる。緊張しながら白い光に飛び込んだ瞬間、強い光に包まれたかと思うとハジメ達を乗せた馬車は小高い丘の上に立つ【大型転移陣(ビッグゲート)】の前に居た。

「これが魔界?」

初めて見る魔界は一言では言い表せない雰囲気だった、空には真紅と深青に光る2つの月が昇り闇を照らしている。そして丘を下った先には広大な森が広がっており少し離れた所からは虫の鳴き声がする。

「まずはキングブラウンスライムが繁殖している地域に向かいましょう、こっちよ」

アーシュラさんの案内でカルーラさんが待つ魔族軍の駐屯地へ向け、ハジメは再び馬車を進ませるのだった。




一方その頃、ルピナスでは不穏な影が動き始めていた。

(ハジメの奴はどんどん強くなっているのに、俺は未だにブラウンスライムさえ命がけの下級冒険者に過ぎない。ソニアやキャシーにも負担を掛けっぱなしだし、いい加減愛想を尽かされて他のパーティーに逃げられてしまうかもしれないな。こんな駄目なお兄ちゃんが妹のアンナをずっと守ろうと考えるのはお門違いなのだろうか?)

ミシェルは1人自室で思い悩んでいた、いつまで経っても上がらないレベルと腕前。反対に目の前で一足飛びに強くなっていく異世界からやって来たという新しい友人と次々と増えていく彼の美人妻達。その妻の中にはギルド長として恐れられてきたミリンダまで含まれているのだから更に驚きだ。

そんなハジメとの差が大きく開くにつれミシェルの心の中で長年過ごしてきたソニアとキャシーだけでなく妹のアンナまでハジメに心奪われて自分の元から去ってしまうのではないか?そんな焦りと嫉妬が大きく渦巻き始めていた。

「止めよう、こんな事を考える様ではハジメの友人失格だ。あいつが魔界から帰ってくるまでに少しでも強くなっておかないとな」

後ろ向きな思考に陥りかけていたのを振り払おうと、新たな決意をミシェルが口にすると背後から何者かの声が聞こえてきた。

『その願い、私が叶えてあげましょうか?』

「誰だ!?」

驚いて振り返るとそこには半透明の美しい女性が立っていた。

「お、お前は何者だ?」

『私の名は女神システィナ、この世界を統べる者。あなたのその願い、この私が叶えてさしあげましょう。その代わり、私の頼みも聞いて頂きたいのです』

システィナが右手を差し出す、ミシェルは底知れない恐怖を感じるが己の意思に反して手が勝手に動き出し女神の手を掴んだ。

『これであなたの心と身体は私の思いのまま、心の奥底の欲望に従いこの世界で自由に振舞うのです』

システィナの声が頭の中に響いたかと思うと、視界が暗転しミシェルはその場で倒れた。数分後、目を覚ますとミシェルの瞳は赤く光り先程言っていた決意とは程遠い言葉を口にする。

【ソニアもキャシーもアンナも俺の所有物だ、ハジメの奴に渡してなるものか。異世界から来た者にこの世界で生きる資格など無い、根絶やしにしなければいけない】

その晩ミシェルはソニアとキャシー、更には妹のアンナを拉致すると消息を絶った。そして実家の宿には父親の変わり果てた姿が残されていたのだった・・・。
しおりを挟む
感想 242

あなたにおすすめの小説

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜

鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。 (早くない?RTAじゃないんだからさ。) 自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。 けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。 幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。 けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、 そもそも挽回する気も起こらない。 ここまでの学園生活を振り返っても 『この学園に執着出来る程の魅力』 というものが思い当たらないからだ。 寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。 それに、これ以上無理に通い続けて 貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより 故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が ずっと実りある人生になるだろう。 私を送り出した公爵様も領主様も、 アイツだってきっとわかってくれる筈だ。 よし。決まりだな。 それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして…… 大人しくする理由も無くなったし、 これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。 せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。 てな訳で……… 薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。 …そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、 掲示板に張り出された正式な退学勧告文を 確認しに行ったんだけど…… どういう事なの?これ。

婚約破棄して廃嫡された馬鹿王子、冒険者になって自由に生きようとするも、何故か元婚約者に追いかけて来られて修羅場です。

平井敦史
ファンタジー
公爵令嬢ヘンリエッタとの婚約破棄を宣言した王太子マルグリスは、父王から廃嫡されてしまう。 マルグリスは王族の身分も捨て去り、相棒のレニーと共に冒険者として生きていこうと決意するが、そんな彼をヘンリエッタが追いかけて来て……!? 素直になれない三人の、ドタバタ冒険ファンタジー。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...