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アツモリ、強敵と戦う

第36話 バレンティノ聖騎士団流剣術

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 敦盛たちはその夜は『勇者ラレース亭』に宿泊したけど、繰り出した酒場で再び大勢の市民に取り囲まれ、2日前を上回る歓迎を受けた。何しろGTRには国民は相当不満を持っているのだが、王権を盾にやりたい放題のGTRに初めて鉄槌を食らわせた恰好なのだから、マイヤーの街の市民が敦盛たちを歓迎するのも無理ないのだ。しかも今回はエミーナもルシーダも大勢の市民に囲まれ、こちらもタダ食い、タダ飲みだ。
 ルシーダは聖職者らしく最初は拒否していたのだが、大勢の市民たちから『バレンティノの聖女様』などと称えられ、逆に断るとヒンシュクを買うと考えて市民たちのやりたいようにさせた。エミーナもルシーダと同様、市民たちから熱烈な歓迎を受けただけでなく『大魔導士様』などと呼ばれて称えられたから、最初から最後までニコニコ顔だった。
 そんな敦盛たちはアクシオに言われた通り、次の日は朝食を軽く食べてから伯爵の屋敷であるホワイトハウスに行ったのだが・・・事前の口裏合わせ通り、敦盛は「宴の前に伯爵殿と御手合せ願いたい」と言ってアクシオに試合を申し込んだ。アクシオはわざとらしく「それじゃあ、その試合を引き受けるとするか」などと言って、唖然としている母のセレスと妹のレビンを尻目に屋敷の裏庭で1対1の試合をする事になった。
 試合の立会人はソリオ、審判はアルファード卿だ。もっとも、敦盛はルミオンに「試合をやってもいい」と言っていた以上、ルミオンがアクシオだったからには約束を守ったに過ぎない。

 裏庭にはソリオだけでなくエミーナとルシーダ、それに主賓として招待されたサニー、来賓のテラノの姿もあるし、レビン、セレスも固唾をのんで試合を見ている。ソリオは悠然と腕を組みながら見ているけど逆にジイはノホホンと見ている程だ。

 アルファード卿の右手がサッと上がった!

「始め!」

 この声に2人同時に駆け出した!

” ギーーーーーーーーーーン! ”

 片手半剣バスタードソード大太刀おおたちがぶつかり合った時、青白い火花が飛び散った!

 アクシオの魔法の剣から発せられる波動は凄まじい物があるけど、そんな魔法の剣を受けても敦盛が持つ大太刀おおたちはビクともしない。
 アクシオは優雅な足運びで敦盛に近付いては距離を取るという、一撃離脱を繰り返している。敦盛はそれを寸でのところで見切って大太刀おおたちを繰り出しているが、アクシオの変幻自在の剣裁きに敦盛は相当苦戦している。

「・・・どうした、シエナ殿に勝ったほどの男が僕の剣に苦戦しているとは意外だぞ」

 アクシオは攻撃しながらも余裕の表情で敦盛に話し掛けている。敦盛は剣を受けるのに精一杯だから早くも肩で息をしているほどだ。

「・・・勘弁してくれよお、俺にとっては初見だから伯爵の剣の動きについていくのがやっとなんだぜ」

 敦盛はそう言って肩で息をしているけど、本当は足の動きは見切れているのだが、剣の動きについていけないのだ!どうやらアクシオの剣には剣速を早める効果があるようで、敦盛は全身全霊を使ってアクシオの剣を受け流す事しか出来ないのだ!

「だが、この程度の事で息切れしているようではシエナ殿がガッカリするぞ!」

 アクシオはニヤリとしたかと思ったら、右手1本で剣を持ってそれを自分の眼前で垂直に立てた。敦盛は一瞬、何をしたいのか分からなかったが、何かを仕掛けるつもりだと直感した!

「バレンティノ聖騎士団流 至高の構え 十字架クルス!!」

 アクシオは剣を上下左右に、まるで十字を切るかのように結んだかと思ったら素早く間合いを詰めてきた!敦盛は寸での所で左にかわしたけど、アクシオは立て続けに技を繰り出して敦盛に迫るから、敦盛は防戦一方だ!しかも大太刀はアクシオが持つ片手半剣バスタードソードより刃渡りが長いから攻撃には有利だけど防御には不利だ。

「ちいっ!」

 敦盛は咄嗟に右足を繰り出してアクシオを蹴飛ばしたから、アクシオは後ろに弾き飛ばされた格好だ。

「おいおいー、剣の勝負に蹴りは無いだろー」
「わりーわりー」
「だが、蹴りは禁止というのを申し合わせてないから文句は言えないか」
「サラリと言わんでくれ!俺はこういうのは初めてなんだからさあ」

 そう、敦盛に絶対的に足りないのは真剣を使った試合の経験だ。明らかにアクシオは真剣を使った試合をやった事がある。実戦経験もあるかもしれないし、人を斬った事もあるかもしれない。昭和の日本では銃刀法じゅうとうほう違反で逮捕されるから、敦盛は武士の子孫というだけの理由で大太刀を振り回す事も出来ないのだ!

「だが、『至高の構え』の第1段で苦戦しているようでは勝負は見えている!」

 アクシオはそう言うと再び剣を眼前で構えた。敦盛は一瞬、さっきの技をまた繰り出してくるのか思ったが、直後に『ハッ!』と気付いた。左右の足の構えがさっきとは逆なのだ!

「バレンティノ聖騎士団剣術 『至高の構え 十字軍クルセイダー』!」

 一瞬、敦盛の視界からアクシオが消えた!
 敦盛は『ハッ!』と自分から見て左に殺気を感じたから咄嗟に後ろにかわしたけど、その自分の目の前を突風のような物が吹き抜けた!
「・・・へえー、よく僕が動いた事に気付いたねえ」
 いきなり敦盛は左から声を掛けられたから左を向いたけど、そこにはアクシオが悠然と立っていたのだ。
「・・・偶然が2回も3回も続くと思うなよ!」
 アクシオはそう言ったかと思ったら再び剣を眼前で垂直に立てた!

「バレンティノ聖騎士団剣術 『至高の構え 十字軍クルセイダー』!」

 敦盛の視界から再びアクシオが消えた!
 敦盛は今度は右からアクシオの殺気を感じたから咄嗟にかわしたけど、自分のすぐ背後を突風が駆け抜けた!アクシオは次々と場所を変えているから、敦盛は殺気を感じた瞬間にかわすが、髪の毛が何本か飛び、頬や手の甲から血が噴き出した!
 でも、アルファード卿はアクシオの勝利宣言をする気配が全くない。しかもアクシオの殺気は次々と場所を変えているにも関わらず、敦盛と殺気の距離は殆ど変わらない!それも殺気が立つ場所はのだ!

「・・・わ、分かったぞ!この技の意味が!!」

 敦盛は叫ぶと同時に左に真っ直ぐ走り出した!それを見たアクシオも走り出したけど、アクシオは敦盛と一定の距離を取りながらも全然近付く事をしないのだ。

「・・・『至高の構え』の第2弾、それは立ち止まった相手に対して素早く移動し、前後左右の4か所の位置から1つの点に向かって攻撃する事!すなわち、十字を描くようにして衝撃波を飛ばす事だ!!」
 敦盛はアクシオに叫んだけど、アクシオはニヤリとした。
「・・・よくぞ気付いたな、その通りだ!」
「という事は、俺が足を止めない限り、その技を繰り出す事は出来ない!」
「その答えは不正解だ!」
 アクシオはそう叫んだかと思ったら、走りながら右手を眼前に構えた!
「バレンティノ聖騎士団流剣術 『至高の構え 十字軍クルセイダー』!」
 アクシオは右手を振り下ろしたが、その衝撃波は敦盛の遥か左を駆け抜けて・・・と思ったら急に向きを変えて敦盛が走っていく方向、つまり左から襲ってきた!
「冗談だろ!」
 敦盛は咄嗟に前方に飛んだが、着地した瞬間、足が止まった格好になった!
「し、しまった!」
 敦盛は嵌められたと直感したが、その瞬間、アクシオの殺気が自分の左にあった!
「ちいっ!」
 敦盛は咄嗟に左手を殺気のする方向に向けた!

阿佐あさ揚羽あげは流秘奥義 『天狼てんろう』!」

 敦盛の髪の毛が揺れたかと思ったら、左手の先の景色が歪んだ!
 その景色の歪みが真っ直ぐ進んでアクシオが放った衝撃波を重なった時、爆音と共に辺りに旋毛風つむじかぜのような物が巻き起こった!

「な、何が起こったのだ!」

 アクシオは何が起こったのか全然分からず、思わず声を荒げてしまったけど、敦盛は澄ましている。
「『至高の構え 十字軍クルセイダー』と言っても、元をただせば所詮は自らの生体エネルギーを剣の乗せて放つ技!言うなれば『気』を剣に溜めて剣で撃ち出すのと同じだ!」
「『気』?何の事だ?」
「『気』も生体エネルギーの一種だからな。もっとも、さっきみたいに自在に向きを変えられたら相殺できなかったのは認める」
 敦盛はニヤリとしたが、アクシオは『チッ!』と舌打ちした程だ。
「剣の試合では、相手の体に武器が触れたら勝負ありだ!離れた位置から攻撃するから技が決まっても勝った事にはならない。『至高の構え 十字軍クルセイダー』を使った攻撃では、いわば格闘戦のように相手をノックアウトさせるまで決着がつかない事になる。ちょっと卑怯だぞ」
「おいおいー、それを言ったら終わりだぞ。この攻撃を卑怯と言うなら『至高の構え 十字軍クルセイダー』どころか『至高の構え 南十字星サザンクロス』は完全な禁止技になるぞ」
「その3つ目の技が何なのかは知らないけど、『至高の構え 十字軍クルセイダー』が合法なら俺も使わせてもらうぞ」
「ちょ、ちょっと待て!今、何と言った?」
「ん?『至高の構え 十字軍クルセイダー』を使わせてもらうと言っただけだ」
「ハッタリだろ?アツモリ殿の体の動きは間違いなくバレンティノ聖騎士団剣術ではない!冗談は口だけにして欲しいものだ!!」
「冗談ではないというのを、今から証明してやる!」
 敦盛は再びニヤリとしたかと思ったら、右手1本で大太太刀を持ってそれを眼前に構えた。アクシオはそれを見た瞬間『ハッ!』となった。

「バレンティノ聖騎士団剣術 『至高の構え 十字軍クルセイダー!」

 アクシオの視界から敦盛が消えた!
 アクシオは敦盛が右に動いた事に気付いたから、咄嗟に『至高の構え 十字軍クルセイダー』を左に放って防いだが派手な爆音が響いた。敦盛は次から次へと場所を変えては衝撃波を放つから、アクシオは『至高の構え 十字軍クルセイダー』で相殺するのが精一杯で足が止まった!しかも敦盛は時折衝撃波を斜め方向に撃ち出しては方向を変えるから、立ってる気配と衝撃波が飛んでくる方法が全然違うのだ!攻守が完全に入れ替わった!
「!!!!!」
 アクシオの右と後方から衝撃波が飛んできたから、咄嗟にアクシオは斜め左にかわしたけど、さっきまで自分が立っていた位置で派手な爆音がしたかと思ったら凄まじいまでの突風が吹き荒れた。だが、次の衝撃波が飛んでこない!
 アクシオは一瞬、何が起こったのか分からなかったけど、突然、自分のすぐ真後ろに誰かが立っている事に気付いて振り向こうとしたが、既に手遅れだ!
 敦盛はアクシオの背中に大太刀おおたちで軽く平打ひらうちした。

「勝負あり、アツモリ殿の勝ち!」

 アルファード卿はサッと右手を上げて敦盛の勝利を宣言したから敦盛はニコッとしたけど、アクシオは憮然とした表情になった。
「・・・勘弁してくれよなあ。『至高の構え 十字軍クルセイダー』を同時に2つも使うとは卑怯だぞー」
 アクシオは後ろを振り返りつつボヤいたけど、敦盛はニコニコ顔のまま
「それにしても2か所から飛んでくる事によく気付いたな」
「空気が右と後ろから押し出されてる事に気付いただけだよ。さすがシエナ殿に勝っただけの事はあるな。正規の訓練を受けてないにも関わらず『至高の構え 十字軍クルセイダー』を習得していたとは、僕も脱帽するしかないよ」
「ノンノン、あれは『至高の構え 十字軍クルセイダー』じゃあないよ」
「はあ!?どういう事だあ?」
 アクシオは思わず間抜けな声を上げてしまったけど、敦盛はニコニコ顔のまま
「足の動きは阿佐揚羽流の技の1つ『神速しんそく』だし、剣の衝撃波ではなく手で秘奥義『天狼てんろう』を放っていただけだ」
「だから『十字軍クルセイダー』などという訳の分からん事を言ったのかよ!?」
「その通りだよー」
 敦盛はそう言うとニコッとしながら右手を差し出した。アクシオもニコッと微笑むと剣を左腰の鞘におさめ、そのまま敦盛とガッシリ握手した。

 サニーとテラノ、それとセレスは拍手をしてエミーナは歓喜の表情で両手を突き上げたけど、ルシーダは聖職者らしく背筋をピンと伸ばしたまま軽く頷いただけだ。ソリオは満足そうに頷いただけだし、ジイは相変わらず澄ました表情でいるけど、逆にレビンは憮然とした表情だ。
 敦盛の傷はルシーダが治した。アクシオも『天狼てんろう』で受けた傷をルシーダに治してもらったけど、ルシーダが治療の為にアクシオに触れた時、レビンがあからさまにルシーダに向かって不機嫌な顔をしたから、アクシオも苦笑するしかなかった。
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