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アツモリ、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と会う

第100話 そう言いつつニヤニヤしてるのは何でですかあ?

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 次の日の朝、敦盛と満里奈はかなり早い時間から『海の神ネプトゥーヌス』の外で待っていた。いや、正しくは興奮のあまり信じられないくらいの早い時間に目が覚めたのだ。
 そんな敦盛たちの次に来たのはココアだ。

「・・・おーっす!」

 敦盛は右手を軽く上げたけど、その敦盛を見たココアはニコッとしながら
「おー、アツモリさん、マリナさん、おはようございますー」
「わおーっ!ココアちゃん、気合入ってるわねえ」
「そ、そうですかあ?」
 ココアは満里奈の指摘に惚けたフリをしてるけど、敦盛から見てもココアの気合の入れようが分かるほどだ。なぜなら、普段は男のような服しか着ないココアがスカートを履いているからだ。コペンと初めて話をした時には意識してスカートを履いたが、それ以外の時は「職業柄、スカートを履くと動きにくくなる」という理由で仕事がオフの時でもスカートを履かないと公言していた程のココアが、今日はスカートを履いている!
 そんなココアは
「・・・そういうマリナさんは、いっつもいっつも同じを着てるのは、今でも服しか持ってないって事なんですかあ?」
「ノンノン!これはオーダーメイドで作った特注品よ」
「へ?どういう事ですかあ?」
「エミーナちゃんが言うには、この国にはセーラー服という物が無いって言ってたから、ウチがファッションリーダーになってセーラー服を世界中に広めてやるわよ」
「マリナさーん、本気で言ってるんですかあ?」
「当たり前です!あのブティックのドマーニ店長が『スケバン様の服の専売特許を取りたい」ってエミーナちゃん経由で言ってきたから、昨日、ズバリ『セーラー服』という名前で専売特許の申請を上げたわよ」
「「マジ!?」」
「ホントだよー。手続きはエミーナちゃんがやってくれたけど、実際に申請が通るかどうかは別問題ね。もし特許が下りたなら、売り上げの20分の1を受け取る契約になってるからね」
「へえー」
「アクアさんは『妖精アクア』と呼ばれてるくらいの人だから、女性の間でも人気があってアクアさんが着ている服を買いたがる若い女性が相当いるみたいだし、アクアさんも色々な店から「これを使って下さい」とか言われるから、オフの日は副業でファッションモデルだって自慢してたよ」
「へえー、わたしは知りませんでした」
「ウチもそれなりにスタイルには自信あるし、この世界に1つしか無い服を持ち込んだ事と、向こうから話を持って来たから、これこそ『渡りに船』よ!」

 満里奈は鼻息荒くココアに自慢しているから、敦盛も苦笑するしかなかった。敦盛はこの話を全然知らなかったけど、こういうところは満里奈はシッカリしている。実際、下の姉である静香はモデルをやっているし、上の姉の秋絵は女優、さらに母方の祖父や叔父は超人気弁護士として業界では有名だから、そんな姉たちを間近で見ている満里奈が二人の真似をしているというのは容易に想像がつく。敦盛は「折角異世界に来たのだから」という理由で、わざと150年前にタイムスリップしたような服をオーダーメイドしたが、それを商売しようとも思って無く、ブティックの社長も店長も商品化する話を持ち掛けた事もない。
 ただ、今のアツモリは武士の恰好ではなく一般市民の服に『大蛇丸おろちまる』と『草薙剣くさなぎのつるぎ』だ。どこへ行ってもアイドル並み(?)の人気だから「ノンビリ飯を食えない」という心のボヤキを反映してるのだが、靴だけは相変わらず『幸せの靴ハピネスシューズ』だ。

「・・・おーい、おはよう」

 敦盛たちは逆方向から声を掛けられた格好になったから振り向いたが、歩いて来たのはルシーダだけで一緒に住んでいるはずのエミーナはいない。
「あれっ?ルシーダ、エミーナは?」
「ん?いないわよ」
「昨日の夕飯を食い過ぎて『お腹が痛い』とか言ってベッドで唸ってるとかあ?」
「違う違う、昨日の夜遅くに魔法電話マジックフォーンで呼び出しがあったから、そっちへ行くって言ってたわよ」
「それ、誰からの連絡?」
「私も知らないわよ。エミーナが言うにはらしいけど、相当ボヤいてたから、シエナさんから見たらリベロさんみたいな人からの連絡じゃあないの?」
「ふーん」
「『イズモ亭』の場所はエミーナから何となくだけど聞いてるし、というより、早朝から人が並んでるから『漁港に行けば分かる』って言ってたよー」
「それじゃあ、4人で行くとするかあ?」
「それもそうね」
 敦盛はそう言うと漁港方面へ歩き出したが、ルシーダが右に並ぶ形で歩き出したけどその表情はニコニコ顔だ。でも、ココアと話をしていた満里奈が二人が歩き出した事に気付いて小走りに追いかけてきたが、その満里奈は敦盛の左側に並んで立つと
「・・・ちょっとルシーダちゃん!下がりなさい!!」
 満里奈は喧嘩腰でルシーダに怒鳴ってるし、敦盛から見てもコメカミがピクピクしているのが分かる。これに気付いた瞬間、敦盛は『ヤバイ!』と直感したが、既に手遅れだ。
「へっ?何かあったの?」
「何かあったもヘッタクレも無いわよ!どうしてお兄ちゃんと並んで歩くのかって聞いてるのよ!」
「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりそんな事を言われても・・・」
「お兄ちゃんの横に立っていいのは、後にも先にもウチだけ!いい、分かった!!」

 満里奈はそう言うと敦盛の左腕を『グイッ!』とばかりに自分の右腕で引き寄せたし、ルシーダに向かって『フン!』とばかりに顔を背けたから、さすがのルシーダも『カチン!』と来た。
「アツモリの妹だからと言って我慢してましたけど、その態度、神に仕える神官を冒涜しているとしか思えません!」

 そう言うとルシーダも敦盛の右腕も自分の左腕で強引に引き寄せたから、思わず満里奈も「うわっ」とばかりにヨロケた。しかもルシーダは敦盛の腕を自分の胸の辺りで強引に抱え込んでるから、敦盛からしたらルシーダのふくよかな胸の感触がモロに伝わってくるじゃあないですかあ!
「あーーっ!お兄ちゃんに向かって何をエロイ事してるのよ!」
「そっちこそ妹でありながら兄に対する態度とは思えません!風紀を乱しているとしか思えない行為をバレンティノ神はお許しになりません!今すぐ懺悔ざんげしなさい!」
「そっちこそ神の名を勝手に使ってるだけだあ!」
「私は正義の至高神に仕える者として注意しているのです!兄妹きょうだいなら兄妹きょうだいらしく振舞うのが礼儀です!」
「ウチはお兄ちゃんの妹だけど義理の妹よ!別に全然おかしくなーい!」
「義理の兄妹きょうだいだろうが実の兄妹きょうだいだろうが、神を冒涜するのは許しません!」
「神の名を勝手に使って、本当はウチに嫉妬してるだけでしょ!」
「そんな事はありません!」
 満里奈とルシーダは敦盛を挟んでキャンキャン怒鳴り合ってるから、朝早くからストリートを歩いている一般の市民は笑って3人を見ている始末だ。敦盛も周囲の視線が気になってハラハラしている。そりゃあそうだ、誰が見ても修羅場そのものなのだから。レクサス支部長の言葉ではないが、敦盛の返事次第でパーティがバラバラに成り兼ねないのだから二人の口論に迂闊に口を挟めない。

 敦盛は後ろを振り向いて
「・・・おーいココア、何とかしてくれ」
「べっつにー。こういう事を仲裁するのは親か聖職者の役割ですから、財宝発掘家トレジャーハンターの仕事ではありませーん」
「そこを何とか、な」
「アツモリさんはそう言いつつニヤニヤしてるのは何でですかあ?」
「はあ!?俺は別にニヤニヤしてないぞ!」
「その言葉、鏡を見てから言って下さいねー」
「勘弁してくれよお」

 敦盛はココアにブーブー文句を言ってるけど、ココアは両腕を頭の後ろで組んでニヤニヤしながら歩いている。
 敦盛は「はーー」とため息をついたけど、満里奈とルシーダの口論は一向に終わる気配がなく、敦盛は再び「はーー」とため息をつくしか無かった。
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