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アツモリ、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)とデスマッチをやる

第111話 この試合、完全決着制にさせてくれ!

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「勘弁してくださいよお。もしかして『小手調べのつもりだった』などと言わないでしょ?」
「当たり前だ。俺様は半分以下しか力を出してないぞ」
「冗談でしょ?」
「そりゃあそうだ、同じだからな」
「どういう意味だ?」

 敦盛はユーノスが言った意味が分からず思わずキョトンとしてしまったけど、ユーノスはニヤニヤ顔から急に真面目な顔になった。
「・・・ドルチェガッバーナ王国の騎士団が使う剣術は、元々は神聖バレンティノ帝国騎士団が使ってた『帝国騎士団剣術』から発展した剣術で、基本の構えはどの国の騎士団でもほぼ同じだ。俺様はその剣術を知ってるけど、お前の剣の構え、明らかにどこの騎士団でも使わない構えだ。しかも、そんな剣裁きは見た事がない。逆に言えば、その構えからどうやって『至高の構え 十字軍クルセイダー』を繰り出したのか、俺様の方が知りたいくらいだ」
「悪かったですね!俺の阿佐あさ揚羽あげは流には騎士団もクソもねえ!」
「アサアゲハリュウ?何だそりゃあ?まだ大陸西側に知られてないモンゴリア帝国かイズモの国の流派の事かあ?」
「分からなくて結構です!」

 敦盛はそう言いながら、阿佐家に伝わる阿佐揚羽流の技を次々と繰り出した。阿佐揚羽流は剣道ではなく、古武道の1つだ。合戦・決闘・護身や戦闘で使命を果たすための心身鍛錬が本来の目的とされているから、現代武道からは「危険である」との理由で除かれた技法や攻撃も含まれている。しかも『気』の技は、本来は戦場で武器を失った時に戦う手段として編み出された物だから、秘術中の秘術なのだ。それを衆目に晒すのは出来れば避けたい。草薙剣くさなぎのつるぎを抜くのと同じくらいの秘術なのだ。

 相変わらずユーノスは余裕の笑みで打ち返している。敦盛は額から汗を流しながら懸命になって頑張ってるけど、ユーノスは殆ど稽古をしているかのような余裕の笑みのままだ。
「・・・おーいアツモリさんよお、お前、本当に『至高の構え 十字軍クルセイダー』を使ったのかあ?」
 ユーノスは敦盛の大蛇丸の攻撃を受けながら揶揄い気味に話してきたから、さすがの敦盛も『カチン!』と来た!
「そこまで疑うのなら、この場で使いますよ!」
「面白い、そうでないとツマラナイ試合に終始するだけだ」
 敦盛はユーノスの繰り出した剣を避けるかのようにして右に跳ねると、そのまま大蛇丸を素早く顔の正面で正眼に構えた

「バレンティノ聖騎士団流 至高の構え 十字軍クルセイダー

 敦盛の姿が一瞬、消えたからユーノスは『ハッ!』という表情になったけど、左に跳んで衝撃波、正しくは敦盛が打ち出した秘奥義『天狼てんろう』をギリギリのところで避けたが、敦盛は素早く『神速』で場所を変えつつ時には『天狼てんろう』を左右の手で撃ち出す大技まで繰り出すが、ユーノスはそれを寸でのところで交わすから当たらない!ユーノスの髪が舞い、腕や頬が切れて血がにじんでるが、武器が触れた訳ではないから敦盛が勝った事にならない!

 だが、『気』は言い換えれば生体エネルギーであり無限ではない。敦盛はこれ以上『十字軍クルセイダー』を使い続けると、体力と気の両方がスッカラカンになるのが分かりきってたから、技を止めて距離を取るしかなくなったのだ。
 ユーノスは肩で息をしながらも、同じく肩で息をしていた敦盛に向かってニヤリとしながら
「・・・まさかあんな構えから『至高の構え 十字軍クルセイダー』を繰り出すなんて全然思ってなかったから、正直に言うけど俺様も焦ったぞ」
「勘弁してくれ、一発も当たらないないどころか接近も出来ないなんて勝負にならねえ!」
「『至高の構え 十字軍クルセイダー』の技を知ってたからアツモリの動きが読めただけだ!これが普通の相手だったらカウンターで切り返せたけど、アツモリの構えは見た事が無いから、逆に近づくのがヤバイと思ってカウンターが仕掛けられなかっただけだあ。マジでヤバかったあ」
 そう言ったかと思ったらユーノスは構えを解いてしまった。敦盛も「あれっ?」と思って剣を下ろしたけど油断は禁物だ。

 そのユーノスは、試合場の結界外の最前列で腕を組みながら黙って見ていたレクサス支部長の方に左手を上げながら怒鳴った。
「おーい、支部長さんよお、ルールを変えてもいいかあ?」
「何事だ!今になってルールを変えたいとはどういう意味だあ?」
「このままだと、決着つかずで姉ちゃんが『引き分け』を宣言しかねないぞ。アツモリはそれで満足かあ?」
 ユーノスは視線を敦盛に向けたけど、敦盛は即座に首を横に振ったから、ユーノスも『ニヤリ』としてレクサス支部長を向き直った。
「だ、そうですよ。だいたい、ここにいる連中は揃いも揃って引き分けで満足するようなツラをしてないなろ?」
「まあ、たしかにオレもそれは認める」
「そう言う事だから、この試合、完全決着制にさせてくれ!」
「はあ!?完全決着といったら、相手が戦闘不能になるか死ぬまでやる時間無制限のデスマッチの事だぞ!いくら『竜殺しドラゴンスレイヤー』のユーノス君の頼みでも、支部長として認める訳にはいかぬ!」
「どっちが死んでも、俺様が教会への寄進の金を支払うからさあ、頼むよー」
「そこまで言うなら支部長としては認めるが、あくまでアツモリ君が同意したら、という条件付きだ」
「だ、そうですよ。アツモリさんよお、あんたは俺様の提案に同意してくれるかあ?」
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