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アツモリ、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)とデスマッチをやる

第112話 超VIPの来場

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 ユーノスはさっきまでのヘラヘラした顔から一転して真面目な顔で敦盛に尋ねている。

 敦盛は正直、どっちにしようか迷った。
 たしかに今のままでもユーノスは敦盛を圧倒しているのは認めざるを得ない。しかもヘラヘラと笑っていたのだから。そのユーノスが本気を出したら一瞬のうちに自分を切り刻んで終わりになるのでは?
 だが、このままでは遊び相手になっただけで終了だ。折角の機会を無駄にするのは惜しいし、自分の技量を測るのに丁度いい機会でもあるから勝負を受けるべきだ。ゲームや小説では『死者の復活』は普通にあるけど、それがリアルにあるというのは信じられないけど、ユーノスもレクサス支部長も当たり前の如く言ってるのだから『郷に入っては郷に従え』の典型、この世界では常識なのだ。それはルシーダも子爵の別荘へ行く前日、トランプをしながらサラリと言っていたから敦盛も満里奈も一瞬、互いの顔を見合わせた程だ。
 ただ、ルシーダが真面目な顔をして言ってたけど、聖職者の中でも『蘇生リバイバル』の呪文を使えるのは世界中を探しても100人にも満たない数しかいないらしく、そのうちの一人がコペン高司祭だけど、バレンティノ教団でも蘇生リバイバルを使えるのはアバロン最高司祭を含めて4人しかいなく、冒険者ギルドでも支部に1人か2人しかいなくて、ファウナ支部ではシエナのパーティ『疾風イル ヴェント』の『大海原の覇者フェンディ』の司祭プリメーラと、もう1つの白金プラチナパーティ『テンペスト』の『月の女神ヴィヴィアン』の司祭バモスだけなのだ。教会は神の力が強く働く場所だから普通の司祭でも蘇生させられるが、その寄進額は半端ない。それを平然と「どっちが死んでも俺様が払うからさあ」と言うユーノスの金銭感覚には苦笑せざるを得ないが、それが白金プラチナクラスの貫禄なのだ。

 それなら、

 常識が違うとは、こうも恐ろしいというのを改めて思い知らされた格好だ。敦盛は思わず「はーー」とため息をついたけど、ユーノスを始めとした他の連中は何故敦盛がため息をついたのか分かってない。ただ、敦盛が一瞬だけ、チラッと満里奈を見たから、満里奈は敦盛の考えに気付いた。満里奈は血の気が引いて一瞬だがグラッとなって倒れそうになったが、辛うじて倒れるのは免れたけど、その満里奈の変化に気付いたのは誰もいなかった。

 だがその時、試合場を囲むギルドの連中が騒ぎ出した。

 敦盛もユーノスも「何があったんだ?」と互いの顔を見合わせてしまったほどだけど、ギルドの連中が道を作るかのようにして間を空けた所から現れた人物は・・・セレナ王女だったのだ。
 敦盛は一瞬、自分の目を疑ったが、ユーノスはセレナ王女を見た事がないようで「誰が来たんだ?」と言わんばかりの表情だ。
 ここでアキュラが両手をサッと上げて「試合を一時中断します」と宣言した。試合をしている両者が戦闘行為を行っていないのだし、超VIPの来場なのだからアキュラが試合の中断を宣言したのも頷ける。
 さすがのユーノスも名前は知っていたから、セレナ王女の求めに応じて珍しく真面目な表情で丁寧に対応した。もちろん、結界が一時的に解かれた格好だから、回復呪文などが使われないようレクサス支部長やアキュラが周囲に目を光らせていたけど。
 そのセレナ王女は敦盛とユーノスに「試合が終わったらお二人にお願いしたい事があるので、お時間を頂けませんか?」と声を掛け、敦盛もユーノスも了承した。
 結界が戻され、最前列には椅子が用意されてセレナ王女が着席した。セレナ王女の右側にはシエナ、左側にはフィットという両支部が誇る白金プラチナの剣士が立ち、レクサス支部長とティアナが後方に控える形になった。

 敦盛とユーノスは定位置に立ったけど、敦盛は短く「完全決着で決めよう」と言い、ユーノスは「サンキュー」と応じてレクサス支部長も無言のまま首を縦に振った。
 アキュラの右手がサッ!と上がった。

「始め!」

 ユーノスはその声に左腰の鞘から片手半剣バスタードソードを一気に抜いたが、今度は動かない。敦盛も大太刀『大蛇丸おろちまる』を抜いたけど、ユーノスが足を動かさないから構えただけだ。

 そのユーノスは『ニヤリ』としながら敦盛を見て、そのまま左手を右手に持つ剣に触れた。

【・・・捌きの鉄槌、我が剣に宿れ】
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