壺の中にはご馳走を

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エピソードトーク

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「飯田さん、お笑い芸人やってるんですか?」

 真也は目を輝かせている。

「ゆうても売れへん芸人やけどな~。コンビでやってますぅ~。『すっとこどっこい庄吉』て聞いたことある?
 名前だけでも覚えてって」


 飯田和吉はペラペラと一通り話した後で、本題に入った。

「僕が今日来たのは、洒落にならん怖い体験をしたからなんですよ。

 僕売れない芸人でしょ?

 無駄に芸歴ばっか長くなって、何とかせなあかんなーって思うわけですよ。

 ほんで相方と話して、とりあえずどっちか一方が一発当てて、売れてる方とそうじゃない方っちゅう枠組みで、コンビで地上波に出るっていう作戦を立てたんです。


 本業のお笑いでは鳴かず飛ばずなもんで、相方は料理、自分が怪談で勝負に出ることにしました。

 怪談師の中には芸人の先輩もいてはるし、上手く話せたらトーク番組にも呼ばれやすくなるんですよ。

 まず怖い話を集めたわけです。

 でも有名な話は皆知ってるし、先輩から奪うわけにもいかなくて、上手く話すことよりネタ集めがムズイ……。


 で、僕はええこと思いついたんですよ。

 自分で創作したらいい。

 それも自分が見た夢が元ネタなら、そうそう被らへんやろ、と。


 ただ怖い夢なんて、見よう思って見れるもんちゃうでしょ?

 夢って記憶の整理やから、大抵の夢は脈絡のないワンシーンの連続なわけです。

 そこで何の変哲もない夢に、幽霊を出現させる方法を思いついた。


 例えば、お笑い劇場で相方と何やネタを披露している夢を見たら、観客席に幽霊がいたことにする。

 その幽霊に今でも付きまとわれてるって、霊媒師に言われたってエピソードに改変する。

 昔、通ってた小学校の夢やったら、自分の席に幽霊を座らせる。

 ほんで僕は座る席がなくて、チャイムがなると同時に同級生に一斉に睨まれる。

 そいつらも全員白目で、口から呪詛を唱えていた。


 こんな風に夢やと言わずに、実際あったことように話せば、僕も霊感のある芸人の仲間入りですよ!

 ディテールにこだわって創作すれば、臨場感も出るもんで、試しに相方に話してみたら怖がってました。

 自分の夢をネタにできれば、まさに金のなる木!!


 僕は毎日ぐっすり寝て、起きてすぐにメモを取る生活を繰り返しました。

 実際に覚えているのは断片的なシーンでも、幽霊を登場させる、怖い体験も盛り込む、この2つを入れるだけで1つのストーリーが出来上がる。

 YouTobUにアップしたら、オカルト好きな人が見てくれるし、着々と地上波への道を進んでったんです。


 でもね、最近、この生活辞めた方がええんちゃうかって思うんです……」
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