壺の中にはご馳走を

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35歳まで生きられない③

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「この話は、一族の女を通して語り継がれているのでしょう。

 祖母に至るまでに多少の脚色が入っていたとしても、一族の男が長生きできない原因は先祖にあるということでした。


 僕は今日死ぬって言いましたよね?

 明日が僕の35歳の誕生日、つまり今日が34歳最期の日なんですよ。

 生まれてすぐ亡くなった人もいるのですから、長いモラトリアムですね。

 昔から聞かされていたから、そのつもりで生きてきました。

 
 でも、人生を諦めてはいけない理由が僕にはできました。

 妻のお腹の子の性別が昨日分かりました。

 ――男の子でした。


 我が子を守るために僕は生きなければなりません。

 この呪縛から息子を解放してやらなければ。

 もう僕の代で終わらせないと!」


 堂本遼太は希望に満ちた表情で店を出た。

 先ほどまで降っていた小雨が止み、晴れ渡った空から柔らかな光が店内に差し込む。


「あっ、忘れ物してる!」

 真也が傘を手に取り、堂本遼太を追いかけようとする。

 
 普段は客が退店し、しばらくしてからゆったりと口を開く茉美が声を荒らげた。

「待てっ――!! 扉を開けるな!!」


 扉の向こうでドンッと鈍い音が鳴り、直後、ガシャーンと金属がへしゃげる音が聞こえた。


 驚いた真也は茉美を見る。

「……今の音、何ですか?」


「キャー、事故よー」

「早く救急車を呼んで!!」

「オイオイ……。ノーブレーキで突っ込んでたぞ。車も人もグチャグチャだ……」


 真也は外の異常事態を理解した。

「まさか、轢かれたのは……堂本さんですか?」


 茉美の沈黙は肯定を意味していた。

「どうしてですか!? 壺が祓ってくれたんじゃないんですか!!」


 茉美は大きくため息を吐いた。

「落ち着け、真也。お前の気持ちは分かったから」


「だが、新之丞は納得して女と契約を結んだんだ。女が新之丞を騙したか? 理不尽に契約を違えたか? これも憑き物でも呪いでもない。生者と死者の対等な契約だ。そこに祓うべき対象などいない。壺は生者を救うためにあるわけじゃないんだ」


 救急車の音が近くなる。

 守るものが増えると、人は選択を誤る。

 堂本遼太はティサを訪れたことが間違いだったのだろうか?

 残りわずかな人生を、家族ではなく赤の他人と過ごしたのだ。

 真也の胸に悔しさだけが広がった。


 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。
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