壺の中にはご馳走を

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仲直り③

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「足元の襖が開き、パッと電気が点きました。

『大丈夫か!』

 小声でしたが力強い義父の声で、私の金縛りは解けました。

 同時に猿もいなくなっていました。


 電気が点いたことで夫も目が覚め

『何だよ』

 と声を発すると、義父は

『静かにしろっ! 母さんが起きる』

 と小声で諌めました。


『今すぐ車で帰れ!! 母さんが起きる前に!!』

 義父のあまりの剣幕に押され、私たちは寝巻きのまま車に乗って帰りました。

 車の中で、夫に変なモノを見なかったかと聞きましたが、やはり彼はあの異常事態の中で眠っていたようです。


 その2日後、義父から連絡がありました。

 帰らせて早々申し訳ないが、もう一度来てくれ、と。

 指定されたのは精神病院でした。

 義母が入院したのです。


 義父は人目を憚らず土下座した後で、全てを明らかにしました。

『10年以上も、母さんが連絡を取らなかったのは、お前たちのことを認めたからではない。何一つ諦めていなかった。秀一も、――美穂さんをいたぶることも。

 お前たちが顔を見せなくなってから、魔術やら呪いやら胡散臭いものに手を出し始めた。金をドブに捨てる行為だと呆れていたが、それで心が休まるならと思ったんだよ。

 だが最近になって様子が変わった。成功したと嬉しそうに話す顔の母さんは、狂気そのものだった。

 美穂さん、何か食べ物を受け取らなかったかい?』


『チョコレートのことですか?』

『あぁ、それだよ。その中には野良猫の腎臓とアゲハ蝶の幼虫をすり潰したものに、鶏の生き血を混ぜていたものが入っていた。それを口にすれば、人間には分からないが、絶対に消えることのないニオイを放つそうだ。

 ニオイは魔に届き、後は美穂さんが体験した通りだ』

 義父は虚ろな目でヨダレを垂らすだけの存在となった義母を見て、涙を浮かべました。

『美穂さんはこうなる予定だったんだ。……本当にすまない』


 私は気味の悪い体験を早く忘れたくて、猿のことを夫に話していませんでした。

『どういうことだよ? 魔術? 呪い? 親父はそれを知ってて俺たちを呼んだのかよ!! 謝りたいってのは嘘だったのか!?』

 感情的になり暴走しそうになった夫を制止し、義父に伝えました。

『あの時、助けていただきありがとうございました。電気を点けてくれたのは、お義父さんの良心だったと信じています。でも二度とあの家に入ることはありません。顔も見たくないです。……お義母さんはずっと私を憎んでいたんですね』

 それが義両親との最後です。


 ここでお話したから、義母は元に戻ってしまったのでしょうか。

 でも私にこびり付いたニオイを取ることが最優先ですよね。

 お祓いを受けられて本当に良かったです。

 もう二度と仲直りなんてしません――」


 田島美穂は深いお辞儀の後で店を出た。


「チョコレート出さなくて良かったですよ~」

 真也は美穂が口にした呪いのチョコレートの味を想像しながら、苦々しい顔をした。


 真也が皿を片付け仕事が一段落したのを確認して、茉美は話した。

「秀一の母親が行っていたのは、呪法の一つ、使い魔だ。

 使い魔は主人の意のままに動くと思われがちだが、術者が未熟だと予想外の行動に出る。標的を変える、なんていうのはよくあることだ。

 壺が祓ったお陰で、今頃母親はピンピンしているだろう。

 だが使い魔が消えたわけではない。これから持て余したソレをどう扱っていくのか見物だねぇ。これからが本当の嫁姑戦争の始まりだよ。


 美穂が行っていた『家ですか?』は『贄ですか?』の聞き間違いだろうな」


 茉美は指で毛先をクルクルと回し遊んでいる。


 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。
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