壺の中にはご馳走を

文字の大きさ
50 / 72

顔半分③

しおりを挟む
 茉美が席を外している間、真也は壺を覗き込み、顔半分の女を探した。

 女の顔を確認できぬまま、茉美が戻った。

 
「どれだけ探しても見つからないぞ。もう壺が食べてしまったのさ。

 人間の執着とは計り知れないねぇ。これだけ様々な物に囲まれていれば、何か一つくらい依存してしまうのは当然ではあるが、それは時として負のエネルギーになる。

 特に男は野心に、女は恋慕に、それぞれ人生を狂わされやすいものだよ。

 恋人に裏切れたり捨てられたりした女の怒りは、凄まじい。それを馬場の友人は蔑んだのだから、女の怒りはますます増幅した。自分を捨てた男から、この世の男全てに執着の対象が拡大するくらいにな。

 
 強い執着を持った女は、死後『トゼツ』という妖怪になる。

 トゼツはその舌に災いをもたらす力がある。馬場はああ言っていたが、顔の全体を見るのが駄目なのではない。見てはいけないのは舌だ。トゼツは舌を大きく出した姿で描かれる。唇よりも真っ赤な舌を見た者は、数日以内に死んでしまう。

 こんな昔話がある。

 中国の皇帝は正妻と何十人もの妾を擁していた。最も長く連れ添ったのは、正妻だ。

 だが皇帝は正妻の低くしゃがれた声が大嫌いだった。正妻は子供を出産した際に、あまりの激痛に叫び声を上げ、喉を潰してしまったのだという。その子供は兄弟の中で最も体が丈夫で賢い人間に育つ資質を持っていた。世継ぎとして適任だったんだ。

 それを知る由もない皇帝は、いつしか綺麗な声の若い妾を優遇するようになった。

 家臣たちは多くの世継ぎ候補を生んだ正妻を蔑ろにした皇帝を諌めたが、全く聞く耳を持たない。挙句、皇帝に苦言を呈す者は反逆だと処刑された。

 皇帝の暴走を止める者がいなくなり、皇帝はいよいよ用済みとなった正妻を標的に選んだ。正妻は、家臣と不貞を働いたというでっち上げの罪を否定したが、相手とされる家臣は認めた。家臣は皇帝と口裏を合わせ、側近になることを条件に正妻の処刑に手を貸したのだ。

 正妻は王宮の全員が見ている前で、八つ裂きの刑に処された。正妻の体に硬く括りつけられた縄を持った家臣たちが、各々好きな方へ歩く。首や肩、手足に激痛が走り、正妻は絶叫した。

 寵愛する妾を傍に置いた皇帝は、醜い声が耳に障ると、家臣に命じて正妻の舌を引き抜かせた。舌を引き抜かれた正妻はぐったりとし、体のあらゆる関節が外された。

 処刑が終わったと皇帝が手を叩いて笑った時、王宮全体をあのしゃがれ声が包んだ。

 声は王宮を滅ぼすまで、ありとあらゆる厄災を引き起こすと告げた。

 これを恐れた妾たちは皇帝に、正妻を丁重に葬るように進言した。皇帝の許可を得て立派な墓に埋葬したが、どうしても引き抜いた舌だけは見つからなかった。正妻の血で染まる真っ赤な舌――。

 王宮には疫病が広まり、天候悪化による不作も重なり多くの人間が命を落とした。最終的には遊牧民に攻め込まれ、歴史から消えてしまった。

 正妻は最初のトゼツだ。トゼツは海を渡り、真っ赤な舌を持つ妖怪となった。この国でも哀れな女がトゼツになっているのさ」


 茉美は真也の目を見つめた。

「真也、お前も女には気を付けろ」

 そう言って、べえと出した茉美の舌は真っ赤だった。


「わぁっ!!」

 真也は驚いて、尻もちをついた。

 その様子を見て、茉美は大笑いした。

「アハハハハ!」



 茉美はポケットからある物を取り出し真也に見せる。

「くっ口紅!? もしかしてさっき奥に行ったのって」

「ハハッ! お前は本当にバカだねぇ~。アタシがトゼツなわけないだろ。あー笑い過ぎてお腹が痛い。アハハハハ」

 茉美の爆笑はしばらく治まらなかった。


 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...