真実の愛は体を売って手に入れる所存

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ただ生きていてくれたら②

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 ハンスは左手で俺の頭を撫でた。

「いいよ……。病人があやしてどうすんだよ」

「やりたくてやってるのだから構わないだろう」


 俺はどうしても悔しくて、ハンスに聞いた。

 ハンスのことはハンスに聞けと、フレデリクも言ってたしな。


「なあ、オーケルマンはどうしてハンスにこんなことをしたんだ? 前だってハンスが来なかったら、ソール騎士団は解散してたかもしれない」

 この狭い部屋に押し込められているのも、オーケルマンのせいなのか?


 ハンスは氷のうを額から離し、体を起こした。

「寝てろって」

「いや、大事な話をするんだ。俺と宰相については少し長くなるが、聞いて欲しい」


「父上はかつてこの国の宰相だった」

 俺はしょっぱなから話を遮ってしまった。

「えっ!? 宰相は長らくオーケルマンが……」


「昔の宰相は二人体制だった。オーケルマンと父上は共に力を合わせながら王に仕えるはずだった。権力争いを避けるのに最も効果的な策は何だと思うか?」

「……王様が監視するとか?」

 俺は政治が分からないと、何度言えば……。


「等しく権力を分配することだ。他者の持つ権力が、自分の持つものと同じなら欲しくもならない。そういった意味では、2人の宰相を擁することは決して悪くない方針だった。しかし実現できなければ意味がない。机上の空論だったのだ」

 上手くいきそうだったけど、結局パワーバランスが壊れたのか。


「王は常に父上とオーケルマンを比較し、優れている方により強い権力を授けた。それはオーケルマンにとって耐え難い屈辱だった。父上はオーケルマンの謀略により、ありもしない罪で処刑された」

 何とひどいことだろう。

 オーケルマンは昔から卑怯なヤツだったんだな。


「そして残された俺たち家族は没落した。命があっただけ良かったと思うべきなのだろう。だが、我が身に起こったことだけを見れば、命があった故に不幸から逃れられなかった、と言える。

 母上は貧しさを知らない女性だった。いつも華やかなドレスを来て、本を片手に茶を飲むのが見慣れた光景だった。父上がいなくなり、母上は初めて貧困を知り、精神が壊れるまで追い詰められた。

 8歳の俺と4つ上の兄を育てるのは、荷が重かったのだろう。母上は後を追うように、父上が亡くなった半年後に自死した。生後間もなく亡くなり、俺が会ったことのないもう一人の兄と再会していることを願う。


 両親を失った悲しみに浸っている暇はなかった。常に腹が減り、頭の中はぼんやりとモヤがかかっていた。それでも喜怒哀楽が残っていたのは、兄があらゆる腐敗から守る盾となっていたからだ。

 その日生きていける分だけの食糧を確保するため、俺と兄上は盗みを繰り返した。

 10歳の時、店主に盗みが見つかってしまった。俺が一度に多くを盗もうとしたのが原因だ。店主は法律に従い、腕を切り落とすと言い放った。恐怖で失禁する俺の前に兄が立ち、店主は兄の腕を切り落としてしまった」


 兄は弟を守るために……。

 ハンスの悲惨な子供時代に俺は絶句した。


「腕を失った兄は高熱を出して動けなくなった。医者を呼ぶ金もなければ、安心して休めるベッドすらない。冷えた床の上で、兄は全身を震わせていた。傷口は道端で拾った布切れをぐるぐる巻きにするのみで、消毒はできなかった。兄が倒れて1週間が過ぎた頃には蛆がわいていた。


 兄はそのまま息を引き取った。今となっては腕を切り落としたからなのか、当時の流行病が原因なのか分からない。ただ俺は、最も弱い者がこの世に残ってしまったと嘆いた。

 ゴミを漁り、弱き者から奪う生活を何年も続けた。


 俺が物質的な貧しさから抜け出すのは、19の時だ――。純、今のお前とちょうど同じだな」
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