真実の愛は体を売って手に入れる所存

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辞世の歌

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 久しぶりの王宮は人で賑わっていた。

 俺はこれが野次馬であることを直感した。


 野次馬が集まった理由は、処刑――。

 処刑の準備が整い、後は罪人を待つだけの状況。


「間が悪いな。人混みをかき分ければ、王宮内に入れる」

 ハンスはそう言ってくれたが、

「いや、俺はちゃんと見るよ」

 と断った。


 恐らくこの処刑台はオーケルマンを待っている。

 全てを終わらせるため、向き合う必要があるんだ。


 ソール騎士団員は解散し、賊を牢に入れるなどしているが、フレデリクは俺たちと残り処刑に立ち会うようだ。

「一つの時代が終わるんだよ。宰相は良くも悪くも、この国の顔だったんだ」


 俺たちはソール騎士団という肩書きを借りて、一番前を陣取らせてもらった。

 団長に死刑宣告が下るというセンセーショナルな事件。

 しかし、オーケルマンの悪事が発覚したことで、ソール騎士団の名声はさらに上がったようだ。

 女性たちのハンスやフレデリクを見る目も以前と変わらない。

 王宮裁判で発覚した男娼との逢引き云々は、有耶無耶になったんだろう。


 フレデリクが思い出したように話す。

「そういえば、宰相の死後も妾は王宮に残って良いらしいよ。新王の懐の深さをアピールするのに、ちょうど良いんだろうね」

 政治的アピールでも何でも良い。

 数多くの妾の生活が保障されるんだから。

 王宮に帰ってきた以上、俺もそこに含まれるんだよな。


「その代わり、新王は大変気難しいお方で、妾を持つのを許さない。だから今までみたいに誰かの妾になって豪奢な生活を満喫することはできないよ?」

 俺は誰の妾にもなるつもりがないから大丈夫だ。

 フレデリクも分かってるだろうに、人をからかうのが好きだなあ。


「妾はちゃんとした名前を持って、希望のところで王国にお仕えするんだ。使用人でも良いし、王の侍従でも良いってさ。キミはどこに行きたい? キミは賢いから文書管理の役人とか向いてると思うよ?」

 やりたいことか……。

 そもそも俺は真実の愛を手に入れるため、この王宮に来たんだ。

 王国のために何ができるかなんて考えたことがなかった。


「フレデリク。純はたった今帰ってきたばかりなんだ。そう急かすな」

 とハンスが割って入らなければ、俺は「進路未定」で提出するところだった。




 手錠と足枷で拘束された人物がのそのそと歩いて来た。

 げっそりとやつれたオーケルマン。

 それに……あれはサリアン!?


「どうしてサリアンさんが!?」

「キミ、彼を知ってるの? 宰相が大パウガル共和国へ送った間者だよ」

 そんな……!

 サリアンはオーケルマンの妾を辞めたんじゃなかったのか?


「大丈夫か、純?」

 動揺し足元がぐらつく俺をハンスが支える。

「俺、サリアンさんと一度話したことがあるんだ。あの時、気付けていれば……」

 死罪とまではいかなかったかもしれない。


「お前が悔やむことではない。王国に仇なす者を王国が裁くだけだ」

「……見るよ。逃げずに、最後まで見る」


 処刑台へと誘われるオーケルマンが、俺たちを発見した。

「お前らッ! ワシをこんな目に遭わせて愉快か!? お前らのような汚れた畜生共は、いつかこの世で最もおぞましい仕打ちを受けるッ!」

 罵倒するオーケルマンであったが、腹は立たなかった。

 これから死にゆく者が、野次馬たちから大ブーイングを浴びせられている。

 あまりにも哀れじゃないか。


 抵抗も怯えもしないサリアンと目が合った。

 どうしてこんなことを?

 無表情からは何も読み取れない。

 俺のことを忘れたのかもしれないな。


 処刑台に磔にされてからも、オーケルマンの罵倒は続いた。

 徐々に単語を羅列するだけとなり、呂律が回らなくなり呪詛のように恨みだけが響く。

 俺たちへの怒り、燃え尽きることのない野心、死への恐怖――。

 仮にも宰相という高い地位を誇った人間だ。

 だが、今はその面影はなく、これが本当のオーケルマンだったのだと妙に納得してしまう。


 死刑執行人が黙るように命じても、オーケルマンは逆らっている。

 諦めてこのまま槍を突き刺そうとした時――。

 サリアンが美しい声で歌った。


 生まれし時から鈍色の羽根

 海も砂漠も知らぬこの目で

 数多の喜びと憂いを知った

 夢はやがて覚めゆく定め

 主人に繋がれた鎖では

 空を飛ぶことなどできぬ

 断ち切れぬ運命が

 我が羽根を黒くした


 サリアンの歌は野次馬さえも鎮めた。

 オーケルマンの罵倒は続いていたが、誰もが歌に聞き惚れ、これが処刑であることを忘れた。

 サリアンは歌い終えた後、俺を見て、少しだけ口角を上げた。

 そして脇腹を槍で突き刺され、引き抜かれ、再び突き刺された。

 それを何回か繰り返すうちに、サリアンはぐったりとして息絶えた。

 
 死刑執行人が首を刎ねる瞬間、ハンスが俺の目を塞いだ。

「もう十分だ」

 その手が温かくて、俺は涙が止まらなくなった。

「ありがとう。俺はもっと強くなりたい……!」


 ロマーリア王国の元宰相アッサール・オーケルマンと、その妾オユン、現サリアンの処刑が終わった。
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