異世界では香りに包まれて幸せに暮らします

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活気付く街

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 昼食を済ませた私たちは街の中心地にやって来た。

 真ん中には大きな噴水が存在感を放っている。

「噴水を中心にして放射線状に主要施設が作られているの。大通りから脇道を通れば隣接するブロックへ近道で行けるわ。ちなみにこの噴水からは香水作りに欠かせない精製水が湧き出ているのよ」

 放射線状に都市が形成されると聞くとパリを連想する。
 パラスリリーは負けないほど華やかでおしゃれだ。
 
 精製水が湧き出るのも、パラスリリーの人々の生活が香水と密接に関わっている証だ。

「今通ってきたのはレストランやバーが集まる飲食ブロック。屯所や図書館、研究所ブロック、一般居住ブロック、他にも行きたいところがある時はここに来て。看板に従えば迷わないから」

「図書館に行けばこの国ことがもっと分かりそう」

 子供の頃から本が好きだった私は図書館に興味を示した。

「図書館はあたしもよく行くの。香水の研究に役立つ資料がたくさんあって勉強にピッタリね」

 さっそく行ってみようと言いかけた時、それを見透かしたようにアリアが告げる。

「でも今日はそんな堅苦しいところには行かないわよ! 図書館なんていつでも行けるんだから、もっと楽しい場所に行きましょ!!」

 
 グイグイと腕を引かれて向かう先の看板には「マーケット」の文字。

「私マーケットには昨日行ったよ?」

「なーんだ初めてじゃないのね。でも昨日なんて忘れるくらい今日は楽しいから付いて来て」


 マーケットには昨日よりもっと多くの人がいた。
 彼らは何かを待ちわびているようでソワソワしている。

 老若男女の声が飛び交う。

「今回は何を買おうかのう……」

「ねえねえお母さん、キラキラの鳥さん買っていい?」

「仕方ないわね~。 でも鳥さんがいるとは限らないわよ」

「今回はクロエ嬢も同行してるらしいぞ」

 
 隣にいるアリアもワクワクしているようで、街の中心地とは反対側を見ている。

「ねえ、皆は何を待っているの?」

 弾んだ声でアリアは言う。

「今日はね、『キャボット商会』が帰ってくる日なのよ。商船で香水を売ったお金で、外の国の物をたくさん買ってきてくれるの。キャボット商会は一番大きい商会だから、品物も豪華で良い物は早い者勝ちよ!」

 昨日もマーケットにはたくさんの品物が並んでいたが、あれは売れ残りだったのか。

 
 アリアと話しているうちに前方の集団から歓声が上がる。

「おかえりー!!」

「今回の掘り出し物は何だい?」

「クロエ嬢こっち向いてー」

 マーケットはデパートのセール会場のように、各々思うがままの店舗に向かい、人の波に流されそうになる。

「さあ、行くわよ!!」

 アリアに手を引かれるがまま昨日オリヴァーにドレスを買ってもらった店の前に立つ。

「やっぱりおしゃれするなら『ローズスチューベン』よね。その服もここの物でしょ?」

 昨日は何も分からずオリヴァーに付いて行くだけだったが、私のドレスはいかにもこの高級そうな面構えの店で買ったものだ。

 
 商品の搬入が終わったのか、店の扉が開く。

 並んでいる商品は昨日とはガラリと変わっており、乙女心がくすぐられる。

「サクラー、これどう思う? フリルがとっても可愛くなーい?」

 アリアはオレンジ色が鮮やかなドレスを体に当てながらサイズ感を確かめている。

「それ可愛いね! あっ、この水色も清楚系でいい感じ。アリアに似合うと思うよ」

 久しぶりに女子らしいことをして異世界も悪くないと思える。


「サクラにはこれが合うんじゃない?」

 アリアが手に持っていたのは金の刺繍が上品なドレスだ。

「本当だ。可愛いー。でも私お金ないから今日はいいや」

 可愛い物は見ているだけでも心が癒されるのだ。

 買う意思を見せない私に、アリアは呆れたように言った。

「なーに言ってるのよ。お金はドクターに請求するんだから大丈夫。今日だってドクターに『可愛い服を選んであげて』ってお願いされてるのよ」

 昨日のオリヴァーを思い出す。
 確かにドレスを選ぶのに苦労していた様子だった。

「でもオリヴァーにはこのドレスを買ってもらったし申し訳ないよ……」

 惹かれるデザインではあったが、質素な研究所の中や食事内容を鑑みると、オリヴァーは華美な生活を避けている。
 国に補助されていると言っていたし、お金があったら贅沢するより研究に費やしたいのだろう。

 居候の私が可愛いドレスがあったからと浪費するのは気が引ける。

「サクラの考え方は素敵だけど、この国では楽しいことを思い切り楽しむことも大切なのよ? おしゃれを楽しんで心が充実すれば、研究にだって良い影響が出るもの。まずは数がなきゃおしゃれはできないんだし、ドレス1枚じゃ寝る時はどうするのよ~」

 昨夜はスーツに着替えて寝た。

 スーツの方がマシと思うほど、ドレスは寝心地が悪かったのだ。

 実用的な買い物なら、と罪悪感が薄れた。



 結局アリアの説得もあり、私たちは遠慮なくショッピングを楽しみ両手に荷物を提げることとなった。

「選んでくれてありがとう。お金まで立て替えてもらって」

「うふふ。あたしもサクラが楽しんでくれて良かった。新しいドレスを着て出かけるのが楽しみね! 次は美味しいもの食べに行くわよ!!」

 さっきは軽食だったため、まだまだお腹には余裕がある。

 私たちは荷物の重さも忘れて美味しい物巡りに繰り出した。  
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