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合間の話2
4.やはり義兄は駄目だった(アンナリーナ)
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「申し訳ありません」
義兄がなぜか謝っている。今日も安定の挙動不審さだ。頭を下げながら、ちらっとライザさんを上目で見た義兄は、頬を染めてすぐさま俯いてしまった。それでも、倒れてしまわないだけましかもしれない。
せっかくクレイヴン侯爵夫人とディマス様が楽しそうな話を振ってくれたのに、義兄はそれを活かすこともなく無駄にしてしまった。
ライザさんのご家族の前で、愛しているとはっきりと言うのは恥ずかしいかもしれないけれど、ほのめかすくらいはできたはず。本当に義兄は根性がない。
あまりの義兄の情けなさに思わず睨んでしまったけれど、義兄は俯いていたのでそのことに気がつかなかったようだった。
「アンナリーナさんは、ちゃんと自分の仕事を評価してくれるような人がいいのよね?」
義兄が気の利いた返しができないものだから、侯爵夫人は私に話を振ってきた。
「はい。そうです」
ガイオ副所長のように、駄目なところはちゃんと怒ってくれて、良いところは褒めてくれるような人が素敵だと思う。
「わかるわ。私の夫もそうなのよ。私の実家は騎士の家系で、体だけではなく頭の中も筋肉が詰まっているような人ばかりなの。そんな家に生まれた私は、少し体が弱かったものだから、本当に大切にしてもらったわ。それには感謝しているけれど、聖魔法が少し使えたので十五歳になった時宮廷医師団に勤めようとしたら、辛い思いをして働くことなどないと止められたのよ。それがとても辛かった。でも、家出覚悟で医師団へ行ったの。私が使えるのは治癒魔法ではなく、解毒魔法のみだったから、薬師として勤めだしたわ。父と兄は私を連れ戻そうとしたけれど、母が働くことを認めてくれたので、父も兄も渋々許してくれたの。その時私を指導してくれたのが当時副薬師長の夫だった。指導は本当に厳しかったけれど、初めて薬の調合に成功した時は、心から褒めてくれたのよ。それが本当に嬉しかったの。守られているばかりだった私が世の役に立てるのだって」
薬草は薬と毒の成分を併せ持つものが多いと、ガイオ副所長から教えられた。そして、解毒魔法を使いながら薬効成分だけを抽出して薬を作り出すのが薬師の仕事であることも。
「素敵な旦那様ですね」
私には侯爵夫人の気持ちが痛いほどわかる。義兄に『辛かったら植物研究所を辞めればいい』と言われた時、私は本当に傷ついた。義兄に悪意はなく、私を守ろうとしているのはわかっている。それでも世の役に立つことができない無用の人物だと言われているようで悲しかったから。
「ええ。彼ほど素敵な人はいないと思うわ。夫は十歳近く年上だけど、ちょっと変人だったので未婚だったから、私が押しかけて結婚したのよ」
自信にあふれている侯爵夫人ならば、押しかけ結婚も可能だと思う。ライザさんの母親だけあって本当に美しい女性だ。二人もお子さんを産んだとは信じられない。それに、騎士団長の妹で侯爵令嬢なので、身分も釣り合っている。
私はタウンハウスを維持できるほど豊かではない地方の子爵家の娘。ガイオ副所長は伯爵とはいえ、公爵家の次男である。私とはとても身分が釣り合わない。
侯爵夫人が羨ましくて妬んでしまいそうだけど、私は無理やりにでも笑顔を作った。だって、こんなことで嫉妬なんてすれば自分が惨めになるだけだもの。
「お母様、こんな場で惚気ないでください。少し恥ずかしいです」
ライザさんが侯爵夫人を不満そうに見ている。でも、そんな姿も美しい。義兄が惹かれるのもわかる気がする。そして、気後れしてしまうのも当然かもしれない。
「でもね、夫が素敵な人だというのは本当のことよ。嘘を言っているわけではないから」
「そうかもしれないが、貴族女性の慎みというものがあるでしょう? 本当に申し訳ない」
ディマス様も恥ずかしそうに謝ってきた。
「公爵閣下ご夫妻は本当に素敵なご夫婦で羨ましい限りです」
義兄は少し辛そうにして、すぐに笑顔を作った。
義兄は父親の愛人だった母親に虐待されて育ったらしい。父親は子どもできたと知ると母親を捨ててしまった。そして、母親に刺されて殺されてしまう。義兄は両親に愛されることなく幼少期を過ごしていたので、やはり侯爵一家が羨ましかったのに違いない。
義兄が私の家に引き取られたのは十年以上前。私はまだ幼かったので覚えていなけれど、痩せ細って目だけが大きく目立つ少年だったらしい。
それなのに、我が家にやって来てからも殆ど食べ物を口にせず、更に痩せていった。そんな頃、私は手に持っていた真っ赤なトマトを義兄に差し出したという。それは私が種から植えて育てていたトマトだった。
『そのトマトが甘くて本当に美味かった。アンナリーナは俺の命の恩人だ』と義兄は私に感謝してくれている。他の食べ物を受け付けないほどに体が弱っていたので、義兄は本当に死にかけていたらしい。
義兄はしばらく私の育てた野菜しか食べることができなかったと、我が家の調理長が言っていた。
思い起こせば、義兄が美味しいと褒めてくれるのが嬉しくて、野菜作りが大好きになったのだった。義兄は私のことを絶対に否定しないから、どんなに不味くても美味いと言いそうだけど。
ちょっと話題が途切れたので、
「ライザさんの理想の男性って、どんな方ですか?」
と訊いてみた。この流れなら違和感がないはずだ。少しでも義兄に近い答えが得られたら嬉しいな。
「えっ? あの、優しい方が素敵だと思います」
「そうですよね。やはり男性は優しくないと」
私はそう答えてほくそえんだ。義兄ほど優しい人もそういないと思う。
ライザさんは医師として働いているので、他の貴族令嬢のように政略結婚しなくてもいいらしい。彼女さえ望むなら相手が騎士でも結婚可能だと、ガイオ副所長が教えてくれた。副所長は人嫌いなのに不思議なことになぜか情報通だ。
とにかく、子爵家の養子で相続権を持たない義兄でもライザさんと結婚可能なのである。ライザさんが優しい人が好みなら、ほんの少し可能性が出てきた。万が一、義兄がライザさんと結ばれるかもしれない。ライザさんが義姉なんて、とっても素敵!
「それと、強くて頼りがいのある方がいいと思います」
ライザさんは白い陶器のような頬を真っ赤に染めて、恥ずかしそうにそう言った。美人の恥じらう姿は本当に魅力的だと思う。義兄なんて口を開けて見惚れている。
でも、内容には絶望しかない。
確かの義兄は優しい。それは私が保証できる。でも、『強さと頼りがい』って、やっぱり無理よ。騎士なので一般人よりは少し強いかもしれないけれど、義兄はなんだかとっても頼りない。
私はちょっと嬉しそうにしている義兄を見て、貴方のことじゃないからね、と心の中で突っ込んでおいた。
義兄がなぜか謝っている。今日も安定の挙動不審さだ。頭を下げながら、ちらっとライザさんを上目で見た義兄は、頬を染めてすぐさま俯いてしまった。それでも、倒れてしまわないだけましかもしれない。
せっかくクレイヴン侯爵夫人とディマス様が楽しそうな話を振ってくれたのに、義兄はそれを活かすこともなく無駄にしてしまった。
ライザさんのご家族の前で、愛しているとはっきりと言うのは恥ずかしいかもしれないけれど、ほのめかすくらいはできたはず。本当に義兄は根性がない。
あまりの義兄の情けなさに思わず睨んでしまったけれど、義兄は俯いていたのでそのことに気がつかなかったようだった。
「アンナリーナさんは、ちゃんと自分の仕事を評価してくれるような人がいいのよね?」
義兄が気の利いた返しができないものだから、侯爵夫人は私に話を振ってきた。
「はい。そうです」
ガイオ副所長のように、駄目なところはちゃんと怒ってくれて、良いところは褒めてくれるような人が素敵だと思う。
「わかるわ。私の夫もそうなのよ。私の実家は騎士の家系で、体だけではなく頭の中も筋肉が詰まっているような人ばかりなの。そんな家に生まれた私は、少し体が弱かったものだから、本当に大切にしてもらったわ。それには感謝しているけれど、聖魔法が少し使えたので十五歳になった時宮廷医師団に勤めようとしたら、辛い思いをして働くことなどないと止められたのよ。それがとても辛かった。でも、家出覚悟で医師団へ行ったの。私が使えるのは治癒魔法ではなく、解毒魔法のみだったから、薬師として勤めだしたわ。父と兄は私を連れ戻そうとしたけれど、母が働くことを認めてくれたので、父も兄も渋々許してくれたの。その時私を指導してくれたのが当時副薬師長の夫だった。指導は本当に厳しかったけれど、初めて薬の調合に成功した時は、心から褒めてくれたのよ。それが本当に嬉しかったの。守られているばかりだった私が世の役に立てるのだって」
薬草は薬と毒の成分を併せ持つものが多いと、ガイオ副所長から教えられた。そして、解毒魔法を使いながら薬効成分だけを抽出して薬を作り出すのが薬師の仕事であることも。
「素敵な旦那様ですね」
私には侯爵夫人の気持ちが痛いほどわかる。義兄に『辛かったら植物研究所を辞めればいい』と言われた時、私は本当に傷ついた。義兄に悪意はなく、私を守ろうとしているのはわかっている。それでも世の役に立つことができない無用の人物だと言われているようで悲しかったから。
「ええ。彼ほど素敵な人はいないと思うわ。夫は十歳近く年上だけど、ちょっと変人だったので未婚だったから、私が押しかけて結婚したのよ」
自信にあふれている侯爵夫人ならば、押しかけ結婚も可能だと思う。ライザさんの母親だけあって本当に美しい女性だ。二人もお子さんを産んだとは信じられない。それに、騎士団長の妹で侯爵令嬢なので、身分も釣り合っている。
私はタウンハウスを維持できるほど豊かではない地方の子爵家の娘。ガイオ副所長は伯爵とはいえ、公爵家の次男である。私とはとても身分が釣り合わない。
侯爵夫人が羨ましくて妬んでしまいそうだけど、私は無理やりにでも笑顔を作った。だって、こんなことで嫉妬なんてすれば自分が惨めになるだけだもの。
「お母様、こんな場で惚気ないでください。少し恥ずかしいです」
ライザさんが侯爵夫人を不満そうに見ている。でも、そんな姿も美しい。義兄が惹かれるのもわかる気がする。そして、気後れしてしまうのも当然かもしれない。
「でもね、夫が素敵な人だというのは本当のことよ。嘘を言っているわけではないから」
「そうかもしれないが、貴族女性の慎みというものがあるでしょう? 本当に申し訳ない」
ディマス様も恥ずかしそうに謝ってきた。
「公爵閣下ご夫妻は本当に素敵なご夫婦で羨ましい限りです」
義兄は少し辛そうにして、すぐに笑顔を作った。
義兄は父親の愛人だった母親に虐待されて育ったらしい。父親は子どもできたと知ると母親を捨ててしまった。そして、母親に刺されて殺されてしまう。義兄は両親に愛されることなく幼少期を過ごしていたので、やはり侯爵一家が羨ましかったのに違いない。
義兄が私の家に引き取られたのは十年以上前。私はまだ幼かったので覚えていなけれど、痩せ細って目だけが大きく目立つ少年だったらしい。
それなのに、我が家にやって来てからも殆ど食べ物を口にせず、更に痩せていった。そんな頃、私は手に持っていた真っ赤なトマトを義兄に差し出したという。それは私が種から植えて育てていたトマトだった。
『そのトマトが甘くて本当に美味かった。アンナリーナは俺の命の恩人だ』と義兄は私に感謝してくれている。他の食べ物を受け付けないほどに体が弱っていたので、義兄は本当に死にかけていたらしい。
義兄はしばらく私の育てた野菜しか食べることができなかったと、我が家の調理長が言っていた。
思い起こせば、義兄が美味しいと褒めてくれるのが嬉しくて、野菜作りが大好きになったのだった。義兄は私のことを絶対に否定しないから、どんなに不味くても美味いと言いそうだけど。
ちょっと話題が途切れたので、
「ライザさんの理想の男性って、どんな方ですか?」
と訊いてみた。この流れなら違和感がないはずだ。少しでも義兄に近い答えが得られたら嬉しいな。
「えっ? あの、優しい方が素敵だと思います」
「そうですよね。やはり男性は優しくないと」
私はそう答えてほくそえんだ。義兄ほど優しい人もそういないと思う。
ライザさんは医師として働いているので、他の貴族令嬢のように政略結婚しなくてもいいらしい。彼女さえ望むなら相手が騎士でも結婚可能だと、ガイオ副所長が教えてくれた。副所長は人嫌いなのに不思議なことになぜか情報通だ。
とにかく、子爵家の養子で相続権を持たない義兄でもライザさんと結婚可能なのである。ライザさんが優しい人が好みなら、ほんの少し可能性が出てきた。万が一、義兄がライザさんと結ばれるかもしれない。ライザさんが義姉なんて、とっても素敵!
「それと、強くて頼りがいのある方がいいと思います」
ライザさんは白い陶器のような頬を真っ赤に染めて、恥ずかしそうにそう言った。美人の恥じらう姿は本当に魅力的だと思う。義兄なんて口を開けて見惚れている。
でも、内容には絶望しかない。
確かの義兄は優しい。それは私が保証できる。でも、『強さと頼りがい』って、やっぱり無理よ。騎士なので一般人よりは少し強いかもしれないけれど、義兄はなんだかとっても頼りない。
私はちょっと嬉しそうにしている義兄を見て、貴方のことじゃないからね、と心の中で突っ込んでおいた。
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