不人気乙女ゲームに転生した聖女は最強の卑屈騎士を救いたい

鈴元 香奈

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宰相令息編

1.ゲームと同じような展開に(ライザ)

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「いいわね、若い方は夢があって。ところで、私の姪が宮廷楽団にいるのだけれど、豊穣祭で独唱を捧げることが決まったの。それでね、その前に内々の記念音楽会を開催するらしいのよ。開催日は二週間後の日曜日。アンナリーナさん、ガイオ伯爵と一緒に観客として来ていただけないかしら?」
 母がそんなことを言い出した。私はその話にとても驚く。目の前の二人の様子を含めて、強い既視感を覚えていた。ゲームのイベントにこんなシーンがあったのだ。

 母の姪、すなわち私の従姉の名はエミリといい、伯父であるバックルンド子爵の娘である。そして、彼女は宰相令息のお相手のハイスペック令嬢でもあった。

 ゲームではアンナリーナとエミリは友人になる設定だった。
 アンナリーナが喉に良いハーブを育て、それを宮廷楽団に持って行ったところ、エミリと知り合い仲良くなる。そして、ベルトルドと一緒に彼女の館に招待されるのだ。その時、アンナリーナはエミリから内々の記念音楽会へと誘われる。そのシーンが今と同じだ。
 ちなみに、ベルトルドはエミリの可愛らしさに一目ぼれしてしまう設定だった。

 彼女は愛らしい容姿と美しい歌声を持っている。しかも、聖魔法は使えないが魔力量が規格外に多い。精霊に愛されているであろうエミリらば、危機になれば攻撃魔法を使えるようになるのではないかと思われ、攻撃魔法復活を目論む怪しい教団に狙われるのであった。


「しかし、ガイオ副所長を音楽会に誘うなんて、私にはとても……」
 アンナリーナはかなり動揺していた。何度も母を見たりベルトルドを見たりして、とても落ち着かないようだ。ゲームではガイオ副所長は参加していなかったので、少し変化しているようだった。
「魔力草のお礼に私から入場券をもらったと言えばいいのよ。指導してくれた副所長もぜひ一緒にと誘いなさい。それに、二人きりでは何ですから、お義兄様のベルトルドさんもご一緒してもらいましょう。ベルトルドさん、ライザのエスコートをお願いできますでしょうか?」
 ゲームのことを考えていると、母がとんでもないことを言い出した。ベルトルドが誘われることは想定内だけど、私のエスコートをお願いするですって! 

「あ、あの私も、ですか?」
 ベルトルドが驚いたように声を上げた。当然よね。私だってとても驚いたから。
「ええ、そうよ。ライザのエスコートをするのは不満かしら? 他にエスコートしたい女性がいるとか?」
 母がそんなことを言っているが、本当に止めてほしい。ベルトルドが他に想う女性がいる言ったらすごく悲しいじゃない。
「いいえ、不満など滅相もないことでございます。ライザ様のエスコートを仰せつかるのは、本当に光栄なことだと存じます」
 ベルトルドが母の言葉を否定してくれたので少し安心する。でも、彼の様子が少し変だ。顔がかなりこわばっていて、手が小刻みに震えているように見える。

「でも、兄様は月曜日から通常勤務に戻るのでしょう? 再来週の日曜日はお仕事ではないの?」
 アンナリーナが隣に座っているベルトルドを心配そうに見上げた。
「一週間前に申請すれば休暇が認められるけど、俺が邪魔なら仕事へ行くよ」
 ちょっと残念そうにベルトルドは答えた。

 ゲームではここでアンナリーナが選択する。
 選択一、騎士団のお仕事は大切だから、私一人で行くことにする。
 選択二、一人では心細いから一緒に行ってほしいの。

 そして、アンナリーナが選択一を選んでしまえば、エミリは宰相令息と結ばれてバッドエンド。教団員を捕まえることができず攻撃魔法が復活してしまい、国が荒れ隣国に侵略されそうになる。例によってベルトルドが出兵して国を守ることができるが、やはり彼は戦死してしまう悲しい結末を迎えてしまうのだった。

 アンナリーナが選択二を選び、その後も選択を誤らなければ、攻撃魔法復活を目論む教団からエミリを救出するために、ベルトルドは大怪我をしてしまう。それでも、彼はエミリ救出に成功して教団を壊滅させる。そして、エミリはベルトルドと結ばれることになる。
 
 ベルトルドが怪我をするのは嫌だ。だけど、死んでしまうのはもっと嫌なので、音楽会へ行ってほしいと思う。
 私は祈る気持ちでアンナリーナの選択を待っていた。

「やっぱり、ガイオ副所長と二人だけでは心細いから、兄様も一緒に行ってほしいの」
 これは喜ぶべき事態かもしれない。
 しかし、大怪我をして血だらけになるベルトルドや、囚われていた神殿から脱出できたことを喜び抱き合うエミリとベルトルド。エミリとベルトルドの幸せそうな結婚式など、そんな彼のスチルを思い出し、私はとても複雑な気持ちだった。

「ライザは音楽会へ行くのは嫌なの? その日はお休みでしょう?」
 二十一歳の兄は休日や夜間の当直が義務付けられているが、まだ十七歳の私は免除されていた。そのため、日曜日はいつも休日になる。それは十五歳のアンナリーナも同じだった。

「嫌ではありません。でも、ベルトルドさんに休んでいただくのは申し訳ないと思いまして」
 素直でないと自分でも思ってしまう。ベルトルドにエスコートされるのは本当に嬉しい。でも、彼がエミリに会ってしまうと、彼女に一目ぼれしてしまうのではないかと不安になる。恋人でもない私が口を出せることではないけれど、目の前でベルトルドが他の女性に心奪われる瞬間を見るのは辛い。耐えられないのではないかと思ってしまう。
 スチルのような二人を見て泣いてしまったらどうしよう? そんなことになったら、エミリに私たちの仲を誤解されそうだ。そんなことになるとベルトルドにまた迷惑をかけてしまう。
 

「わ、私は大丈夫です! あの、ライザ様さえよろしければエスコートをさせてください。アンナリーナが不安だと言っているので、お願いいたします」
 頭を下げながらそう答えるベルトルドを、最初はにこやかに見ていたアンナリーナであったが、最後にはベルトルドのわき腹を肘でつついていた。
 ベルトルドはそんな彼女の様子に、困った顔をしている。それでもやはり彼は格好良いと思ってしまう。

「アンナリーナさんのことが心配のようですので、私もご一緒いたします」
 ベルトルドが私を誘ってくれたと喜んだのも束の間、彼はアンナリーナのために私を誘ったのだとわかって、私の声はかなり厳しい感じになってしまった。
「申し訳ありません」
 すると、ベルトルドは今日何度目かの謝罪を口にした。
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