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23.結婚が決まった(ルシア視点)
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奇跡的なことにカイオが私と結婚したいと言ってくれた。彼の女性の趣味には首を傾げてしまうけれど、それでも、ちゃんと告白してくれたのはとても嬉しい。
カイオが結婚したいと団長さんに伝えると、あっという間に陛下まで話がいき、私達の結婚は王宮から公式発表されてしまった。
結婚のお祝いに、哨戒飛行の二人とカイオを除いた九人の竜騎士による編隊飛行が披露されるらしい。国の記念行事の扱いだ。
「私達の結婚式でも編隊飛行は行われたのよ。色とりどりの煙が出る松明を竜につけて飛ぶの。本当に綺麗よ。カイオさんの竜騎士としてのお披露目も兼ねていたから、彼の凄く派手な宙返りやきりもみ飛行もあって、観客は大喜びだったわ」
当時を思い出しているのか、パトリシアさんは遠い目をしていた。その腕の中には益々ジャイルさんに似てきた息子のジョエルがいる。彼の誕生から一ヶ月。私は話し相手と育児の手伝いのためパトリシアさんの家を度々訪れていた。
子育てがとても大変なことを学んだけれど、やはりジョエルは可愛くて、カイオとの子どもが欲しい想いは募っていく。
「私の時も編隊飛行はしてもらったわよ。本当にたくさんの人から祝ってもらったわ。かなり嫉妬もされたけれどね」
家政婦のテレーザさんは現在パトリシアさんのところで働いている。彼女もまた竜騎士の妻だった。
「竜騎士の結婚は随分と大々的に行われるのね」
かなり派手な結婚式らしい。ちょっと恥ずかしいと思ってしまう。
「竜騎士は魔力も知力も体力も、全てにおいて選び抜かれた人だし、お給料もとても高い。命をかけて国民を守っている彼らの注目度はとても高いのよ。だから、王が結婚を宣言するの。誰にも文句を言わせないようにね。ルシアさんに文句を言う人はいないでしょうけど、私なんか普通の女だから、結構嫌味を言われたのよ」
可愛くて若く、その上しっかり者のパトリシアさんでも嫌味を言われたらしい。魔力を全く持たず何もできなくて、四歳も年上の私は、盛大な嫌味を覚悟しなければならないと思う。
結婚が決まったといってカイオの態度が甘くなるようなことはなかった。相変わらず彼の口は悪い。でも、そんな彼の態度が、これからもずっと変わらずにいてくれると思えて安心できた。それに、彼が本当は優しい人だとわかっているから平気だ。
「俺達の結婚が号外になっているぞ。ほら」
夜の哨戒飛行を終えたカイオの帰宅を玄関で待っていると、昼前に帰ってきたカイオが一枚の紙を私に渡してきた。王都で発行されている新聞の号外らしい。号外が発行されるなんて、いくらなんでも大げさすぎると思う。
「えっと、『歴代最高の聖乙女ルシア様、かっこ、二十四歳、は』ここで年齢を書く必要ないと思うけど」
「普通、新聞には年齢が載っているから」
「そうだったかしら。『歴代最年少で竜騎士となったカイオ様、かっこ、二十歳、と結婚されることが決まりました。神聖な中にも大人の魅力を備えたルシア様は、若き竜騎士の心を見事射止めたようです』やっぱり、大人の魅力が決め手なの?」
気がつかなかったけれど、私には大人の魅力があるらしい。
「ルシアの大人の魅力は、拗ねて家出でもしているのか? もうそろそろ顔を見せてくれてもいいと思うぞ」
「私の大人の魅力に気づかないのは、カイオがお子様だからじゃないの?」
「そうか。俺が気づかないだけでルシアは大人なんだな。大人のルシア様にはライムンドのぬいぐるみなんて必要ないよな」
私が抱いているライムンドを素早く取り上げて、カイオはライムンドを掴んだ手を高く上げた。玄関には椅子もないので、私の手が届かない。
「返してよ。私のライムンドよ」
背伸びしてもやっぱり届かない。
「俺のライムンドだけどな。俺の相棒だし」
「今日はね。ローストビーフを作ったのだけど。食べないのね。カイオはパンだけでいいわよね」
カイオは舌打ちをした。そして、ライムンドを渋々渡してくる。
「ここでローストビーフ攻撃か。俺の弱点を知られてしまっている」
竜騎士にだって弱点はあるのだ。私はライムンドのぬいぐるみを両手で掲げて勝利の笑顔をみせてあげた。
「何々、『ルシア様は未だ聖なる力を失っておらず、竜騎士団専属の聖女様として、これからも竜騎士の装備を祝福されるそうです』おお、聖乙女から聖女に昇進しているわ」
六日のうちの二日、カイオが訓練の日に、私は本部棟に出勤して竜騎士の認識票や武器を祝福している。もちろん、カイオと神官立ち会いのもとだけど。
「良かったな。乙女ではなくなって」
それはそうなんだけど、聖女って、ちょっと盛り過ぎではないかしら。
「『お二人の末永い幸せをお祈りしています』だって。嬉しいわね」
「そうだな。で、ローストビーフは?」
カイオの興味は結婚よりローストビーフにあるようです。
「俺の実家に行かないか? ルシアを紹介したいから」
翌日は完全休養日。朝食の時にカイオがそう言ってきた。
「カイオのお父さんやお母さんは、私のような女がカイオと結婚することに反対しない?」
世間は許しても、家族は許さないかもしれない。だって、自慢の息子に違いないから。
「結婚を反対することは絶対にないけど、親は下町の人間だから礼儀もなってないし、驚くなよ」
「私なんてど田舎出身だから、王都の住人というだけで都会の人と感じて緊張してしまいそう」
でも、カイオの家族にもちゃんと結婚の許可を貰いたいので、挨拶に行くことにした。
中央公園から馬車に乗って二十分ほどで王都の下町にあるカイオの実家に着いた。
実家ではカイオの両親とお姉さんが待っていた。お姉さんは四歳の娘と二歳の息子を連れている。彼女は私より一歳下らしいから、十九歳で最初の子を産んだらしい。
「もう知っていると思うけど、俺はルシアと結婚することになったから」
カイオはいきなり本題に入った。私たちの結婚は王宮から正式発表されているし、号外まで発行されているから、知っていて当然だけど。
「ルシアと申します。ご縁があって、カイオさんと結婚させていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
反対されたらどうしようと思っていたけど、
「こちらこそ、息子をよろしく頼む」
お父さんが頭を下げてくれる。友人に騙されるぐらいお人好しらしいので私達の結婚に反対するようなことはなかった。
「清楚で可愛らしい方だわ。貴女のような方がカイオと結婚してくださって本当に良かった。カイオはちょっと子どもっぽいところがあるから、貴女のような大人の方がちょうどいいのよ」
お母さんは号外の記事を信じているらしい。お母さんも騙される心配があると思う。
「カイオは私を助けるために竜騎士の訓練生になったのよね。訓練はとてもきつかったのでしょう。本当にごめんなさい」
お姉さんがカイオに頭を下げた。
「そんなんじゃないよ。俺は竜騎士になりたかったから訓練生になったんだ」
カイオは照れたように横を向く。
「こんな素直でない弟だけど、私の恩人で大切な家族なの。どうか、カイオを幸せにしてやってください」
お姉さんが私の方に向き、再び頭を下げた。
私は自分が幸せになることばかりを考えていた。でも、それでは駄目なんだ。私もカイオを幸せにする。二人で幸せにならなくてはならない。
「私はとても未熟です。でも、お姉さんの期待に添えるように、一所懸命努力いたします」
今はそれしか約束できない。だけど、絶対にカイオを幸せにしたい。
「カイオはお父さん似なのね」
カイオの実家からの帰り道、馬車の中で私はカイオに訊いてみた。
ちょっと硬めのつんつんした黒っぽい髪質が一緒だった。カイオの少しきつめの目は母親に似ているけれど、口元は父親と本当にそっくり。
「よく言われる」
カイオはちょっと嬉しそうだった。やはり家族のことが大好きなのだろう。
「ねぇ、私がカイオに似た子どもを産んだら、カイオは幸せになる?」
「当たり前だろう。惚れた女に俺の子を産みたいって言われて、幸せを感じない男はいないぞ」
カイオも幸せになれるのなら、結婚を決めて本当に良かった。
「私も凄く幸せになれると思うわ」
そんなこと、言うまでもないけれどね。
カイオが結婚したいと団長さんに伝えると、あっという間に陛下まで話がいき、私達の結婚は王宮から公式発表されてしまった。
結婚のお祝いに、哨戒飛行の二人とカイオを除いた九人の竜騎士による編隊飛行が披露されるらしい。国の記念行事の扱いだ。
「私達の結婚式でも編隊飛行は行われたのよ。色とりどりの煙が出る松明を竜につけて飛ぶの。本当に綺麗よ。カイオさんの竜騎士としてのお披露目も兼ねていたから、彼の凄く派手な宙返りやきりもみ飛行もあって、観客は大喜びだったわ」
当時を思い出しているのか、パトリシアさんは遠い目をしていた。その腕の中には益々ジャイルさんに似てきた息子のジョエルがいる。彼の誕生から一ヶ月。私は話し相手と育児の手伝いのためパトリシアさんの家を度々訪れていた。
子育てがとても大変なことを学んだけれど、やはりジョエルは可愛くて、カイオとの子どもが欲しい想いは募っていく。
「私の時も編隊飛行はしてもらったわよ。本当にたくさんの人から祝ってもらったわ。かなり嫉妬もされたけれどね」
家政婦のテレーザさんは現在パトリシアさんのところで働いている。彼女もまた竜騎士の妻だった。
「竜騎士の結婚は随分と大々的に行われるのね」
かなり派手な結婚式らしい。ちょっと恥ずかしいと思ってしまう。
「竜騎士は魔力も知力も体力も、全てにおいて選び抜かれた人だし、お給料もとても高い。命をかけて国民を守っている彼らの注目度はとても高いのよ。だから、王が結婚を宣言するの。誰にも文句を言わせないようにね。ルシアさんに文句を言う人はいないでしょうけど、私なんか普通の女だから、結構嫌味を言われたのよ」
可愛くて若く、その上しっかり者のパトリシアさんでも嫌味を言われたらしい。魔力を全く持たず何もできなくて、四歳も年上の私は、盛大な嫌味を覚悟しなければならないと思う。
結婚が決まったといってカイオの態度が甘くなるようなことはなかった。相変わらず彼の口は悪い。でも、そんな彼の態度が、これからもずっと変わらずにいてくれると思えて安心できた。それに、彼が本当は優しい人だとわかっているから平気だ。
「俺達の結婚が号外になっているぞ。ほら」
夜の哨戒飛行を終えたカイオの帰宅を玄関で待っていると、昼前に帰ってきたカイオが一枚の紙を私に渡してきた。王都で発行されている新聞の号外らしい。号外が発行されるなんて、いくらなんでも大げさすぎると思う。
「えっと、『歴代最高の聖乙女ルシア様、かっこ、二十四歳、は』ここで年齢を書く必要ないと思うけど」
「普通、新聞には年齢が載っているから」
「そうだったかしら。『歴代最年少で竜騎士となったカイオ様、かっこ、二十歳、と結婚されることが決まりました。神聖な中にも大人の魅力を備えたルシア様は、若き竜騎士の心を見事射止めたようです』やっぱり、大人の魅力が決め手なの?」
気がつかなかったけれど、私には大人の魅力があるらしい。
「ルシアの大人の魅力は、拗ねて家出でもしているのか? もうそろそろ顔を見せてくれてもいいと思うぞ」
「私の大人の魅力に気づかないのは、カイオがお子様だからじゃないの?」
「そうか。俺が気づかないだけでルシアは大人なんだな。大人のルシア様にはライムンドのぬいぐるみなんて必要ないよな」
私が抱いているライムンドを素早く取り上げて、カイオはライムンドを掴んだ手を高く上げた。玄関には椅子もないので、私の手が届かない。
「返してよ。私のライムンドよ」
背伸びしてもやっぱり届かない。
「俺のライムンドだけどな。俺の相棒だし」
「今日はね。ローストビーフを作ったのだけど。食べないのね。カイオはパンだけでいいわよね」
カイオは舌打ちをした。そして、ライムンドを渋々渡してくる。
「ここでローストビーフ攻撃か。俺の弱点を知られてしまっている」
竜騎士にだって弱点はあるのだ。私はライムンドのぬいぐるみを両手で掲げて勝利の笑顔をみせてあげた。
「何々、『ルシア様は未だ聖なる力を失っておらず、竜騎士団専属の聖女様として、これからも竜騎士の装備を祝福されるそうです』おお、聖乙女から聖女に昇進しているわ」
六日のうちの二日、カイオが訓練の日に、私は本部棟に出勤して竜騎士の認識票や武器を祝福している。もちろん、カイオと神官立ち会いのもとだけど。
「良かったな。乙女ではなくなって」
それはそうなんだけど、聖女って、ちょっと盛り過ぎではないかしら。
「『お二人の末永い幸せをお祈りしています』だって。嬉しいわね」
「そうだな。で、ローストビーフは?」
カイオの興味は結婚よりローストビーフにあるようです。
「俺の実家に行かないか? ルシアを紹介したいから」
翌日は完全休養日。朝食の時にカイオがそう言ってきた。
「カイオのお父さんやお母さんは、私のような女がカイオと結婚することに反対しない?」
世間は許しても、家族は許さないかもしれない。だって、自慢の息子に違いないから。
「結婚を反対することは絶対にないけど、親は下町の人間だから礼儀もなってないし、驚くなよ」
「私なんてど田舎出身だから、王都の住人というだけで都会の人と感じて緊張してしまいそう」
でも、カイオの家族にもちゃんと結婚の許可を貰いたいので、挨拶に行くことにした。
中央公園から馬車に乗って二十分ほどで王都の下町にあるカイオの実家に着いた。
実家ではカイオの両親とお姉さんが待っていた。お姉さんは四歳の娘と二歳の息子を連れている。彼女は私より一歳下らしいから、十九歳で最初の子を産んだらしい。
「もう知っていると思うけど、俺はルシアと結婚することになったから」
カイオはいきなり本題に入った。私たちの結婚は王宮から正式発表されているし、号外まで発行されているから、知っていて当然だけど。
「ルシアと申します。ご縁があって、カイオさんと結婚させていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
反対されたらどうしようと思っていたけど、
「こちらこそ、息子をよろしく頼む」
お父さんが頭を下げてくれる。友人に騙されるぐらいお人好しらしいので私達の結婚に反対するようなことはなかった。
「清楚で可愛らしい方だわ。貴女のような方がカイオと結婚してくださって本当に良かった。カイオはちょっと子どもっぽいところがあるから、貴女のような大人の方がちょうどいいのよ」
お母さんは号外の記事を信じているらしい。お母さんも騙される心配があると思う。
「カイオは私を助けるために竜騎士の訓練生になったのよね。訓練はとてもきつかったのでしょう。本当にごめんなさい」
お姉さんがカイオに頭を下げた。
「そんなんじゃないよ。俺は竜騎士になりたかったから訓練生になったんだ」
カイオは照れたように横を向く。
「こんな素直でない弟だけど、私の恩人で大切な家族なの。どうか、カイオを幸せにしてやってください」
お姉さんが私の方に向き、再び頭を下げた。
私は自分が幸せになることばかりを考えていた。でも、それでは駄目なんだ。私もカイオを幸せにする。二人で幸せにならなくてはならない。
「私はとても未熟です。でも、お姉さんの期待に添えるように、一所懸命努力いたします」
今はそれしか約束できない。だけど、絶対にカイオを幸せにしたい。
「カイオはお父さん似なのね」
カイオの実家からの帰り道、馬車の中で私はカイオに訊いてみた。
ちょっと硬めのつんつんした黒っぽい髪質が一緒だった。カイオの少しきつめの目は母親に似ているけれど、口元は父親と本当にそっくり。
「よく言われる」
カイオはちょっと嬉しそうだった。やはり家族のことが大好きなのだろう。
「ねぇ、私がカイオに似た子どもを産んだら、カイオは幸せになる?」
「当たり前だろう。惚れた女に俺の子を産みたいって言われて、幸せを感じない男はいないぞ」
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