聖なる乙女は竜騎士を選んだ

鈴元 香奈

文字の大きさ
27 / 39

SS:聖乙女の護衛(竜騎士団団長視点)

しおりを挟む
 魔物が吐く黒魔素の塊を、ライムンドを舞うように飛行させながらカイオはぎりぎりで躱していた。そして、矢を放つ。
 さすが最年少で竜騎士になったカイオだ。見事に魔物の核を射抜き、魔物は輝きながら消えていった。
 
 私はそんなひよっこカイオの戦いを見学することにした。これぐらいの数の魔物を一人で葬ることができなければ、一人前の竜騎士とはいえない。

 宙返りを決めたライムンドの背で頭を下にしながらも、カイオは正確に矢を射ることができるようだ。そして、さすがルシア様が祝福した鏃だ。カイオの矢は一匹の魔物を消し去ったあと、別の魔物の核近くを貫いた。それだけで魔物はもがきながら落ちていく。やがて、その魔物も光の粒子へと変わった。
 あっという間に三匹をやっつけたカイオは、手を緩めることはしない。

 確かにカイオは若い。ちょっと無茶をしている。黒魔素の塊を剣で直接切り捨てたりもしていた。村が近いので万が一黒魔素塊が村に落ちてしまう危険を減らすにはいい手かもしれないが、黒魔素への接触の危険は大いにある。
 それでも、確実に魔物の数は減っていく。
 カイオの武器は全てルシア様が祝福した高性能のもだということを考慮しても、カイオの戦いは見事だった。史上最年少というのは飾りではないらしい。
 私はそんな思いで若いカイオを眺めていた。


「団長。魔物を殲滅しました。村にも被害を与えていません」
 カイオの声は嬉しそうだ。初陣での勝利だから仕方がないか。
「ご苦労だった。しかし、あの速度で魔物の群れに突っ込んでいくのは無茶過ぎる。魔物によって攻撃方法が違うので、それを見極めてから慎重に近づかなければならない。霧状の黒魔素を吐く奴らもいるからな」
 カイオの派手な戦いは見ている分には楽しいが、部下の命は守らなければならないので、少し釘を差しておく。
「了解しました」
 カイオは素直に返事をしてきた。竜騎士になるような男は皆我が強いから、彼が次から慎重に行くとは限らないが。

「それでは、カイオは聖乙女の護衛のためここに残れ。翌朝には交代要員の竜騎士を寄越すが、それまでライムンドを村の上空で空中停止飛行させておくんだ。一晩中だぞ。魔物は光り輝くから夜でも目立つが、他国の奴らにも気を付けなければならない。熱を感知できるように視力を強化して地上を常に監視しろ。竜騎士が護衛についた後に、聖乙女がさらわれたり、魔物に襲われたりしたら、竜騎士団の名折れだからな。きつい仕事だが頑張れ」
 竜は速度を出す飛行を好む。そのため、哨戒飛行は竜も楽しみにしているぐらいだ。しかし、一地点に留まる空中停止飛行はあまり好きではないらしい。竜との信頼関係や優れた操竜技術がなければ空中に停止し続けることは難しい。竜騎士の腕の見せどころだ。 

「了解しました。只今より聖乙女の護衛の任に就きます」
 カイオは風魔法で私に声を届けると、村の上空へとライムンドを移動させた。
 村に近づいてみると、大きな黒竜を見上げる人々が見えた。中には手を振っている子どももいる。
 その上空でライムンドは小さく翼を震わせるようにして停止した。
 これなら心配はいらないだろう。

 まだ日は高い。カイオはこれから半日以上も空の上で聖乙女を護衛する。本当に厳しい仕事だ。
「団長。大丈夫です。絶対に聖乙女は守ってみせます」
 それでもカイオの声は明るい。
「頑張ればいいこともあるからな。聖乙女は本当に素晴らしいぞ。清らかで献身的な女性なんだ。しかも、初々しくて可愛いし。神殿に恩を売っておけば、そんな聖乙女を妻にできるかもしれない」
 私は若い独身のカイオを励ました。
「団長の奥さんが元聖乙女で、今でも仲がいいのは知っていますが、一晩こんなところで過ごさなければならない俺に惚気るのは、ちょっと酷ではないでしょうか?」
 私のその励ましは、カイオにとってあまり嬉しくなかったようだ。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~

ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。 絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。 アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。 **氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。 婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...