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7.嵌めた女たち
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旧パスクアル伯爵領は暫定的にルシエンテス公爵家預かりとなっているが、公爵は国の要職に就いており、二人の息子も高級文官として勤務しているので、問題を抱えている領地を治めるような余裕はなかった。
領地はとても荒れており、早く領主を決め早急に対策を打ち出さなければ多くの領民を失うことになりかねない。そのため、リカルダとエドガルドの結婚を急いで進めることになった。
エドガルドとリカルダのお見合いの日からたった二か月後。夏が終わり秋に咲く花の蕾が綻びかけた頃、殆ど会うこともなく二人は婚姻の日を迎えた。
心に深い傷を負っているだろうリカルダの事情を考慮し、結婚式は行わないことになった。二人の新居に両家の家族だけが集まり、その場で結婚誓約書に署名し、誓約書を王宮に届けることで婚姻が成立する。それと同時にエドガルドは伯爵位を継承しファリアス伯爵となった。
元々この結婚に反対していたルシエンテス公爵夫人は、抗議するかのように地味な灰色のドレスをまとい、終始俯いていた。夫であるルシエンテス公爵は優秀な男であると言っていたが、夫人からすると、エドガルドは余裕のないただの平凡な男にしか見えない。とてもリカルダの横に並び立つに相応しい花婿とは思えなかった。
あまりに急な展開だったので、王都にファリアス伯爵邸を新築する時間はなく、ルシエンテス公爵は三年前に廃爵された子爵家のタウンハウスを買い取り、大幅に改装して新婚夫婦の新居とした。
ルシエンテス公爵夫人はそれも気に入らない。大切な娘が使い古された家に嫁入りするなんて耐えがたいと感じている。しかし、この結婚はリカルダ自身が望んだことだ。困窮する領民のために身を捧げる覚悟をしたリカルダは、嘆くこともなく淡々と結婚証明書に署名している。そんな中で母親が悲しみの涙を見せるわけにはいかない。婚約者に裏切られてもなお高潔であろうとする娘は夫人の自慢であった。夫人はそんな複雑な想いで、唇を噛みしめていた。
エドガルドの家族の表情も硬い。ただ、壁際に控えていた侍女のトニアだけが静かに涙を流していた。
こうして慌ただしくも二人の新婚生活が始まった。
新婚一日目の夜といえばもちろん初夜である。
エドガルドは自分のために用意された執務室に一人でこもりながら、悩みに悩んでいた。
『あのような辛い思いをしたリカルダ様なので、絶対に男を恐れているだろう。この結婚を了承したのも、私が女性嫌いと公言していたからかもしれない。平凡な私と体を重ねるつもりなど端からないのではないか?』
自分でそう考えては、エドガルドは落ち込んでしまう。
『だが、我々は貴族だ。未来に亘って安定した領地運営を行うためにも後継ぎが必要だ。もし、リカルダ様が領地のために子を成そうと、私が来るのを寝室で待っていたら? 初夜に夫が寝室にも来ないなど、侮辱されたと感じるかもしれない。とにかく寝室へ行こうか』
そう思ってエドガルドは執務用の椅子から立ち上がる。
『いや、顔を見せるだけで襲われた時のことを思い出して怖がらせるかもしれない。そんな思いをするのならば、修道院へ入った方がましだと言われでもしたら。せめて修道院へ行くよりは幸せだとリカルダ様に思ってほしいのに』
再び椅子に座るエドガルド。もう何度もそんなことを繰り返していた。
エドガルドがふと窓を見ると、空はうっすらと明るくなってきている。もうすぐ住み込み勤務の使用人たちが起きだす時間だ。
『はぁ』
一睡もしていないエドガルドの目の下にはくっきりと隈ができている。
一睡もできなかったのはリカルダも同じだった。寝室でたった一人エドガルドの訪れを朝まで待っていたのだ。
「何てこと! 夫としての義務も果たさないなんて」
夜が明け、疲れているだろうリカルダの世話をしようと夫婦の寝室にやってきた侍女のトニアは、昨夜のままの乱れもないシーツを確認し、エドガルドが寝室にやって来なかったと理解した途端に、声を荒立ててこの場にいないエドガルドを詰った。
「そんなに怒らないで。旦那様は女嫌いらしいし。それに、わたくしはあの男に汚されたと思われているから、触れるのに抵抗があったのかもしれないわ」
緊張したまま一夜を明かしたリカルダも内心かなり怒っていたが、王太子妃教育の賜物か、顔に表すことはない。
しかし、リカルダの言葉を聞いたトニアは顔色を変えた。
「リカルダ様、やはりドレスを切り裂いたのは行き過ぎだったのではないでしょうか? 純潔を失ったと疑われてしまいました」
あの誘拐事件の時、騎士たちに発見される前に、リカルダ自身の手でドレスを切り裂き、コルセットの紐も切断しておいた。
「だって、あのままでは、フアニートはわたくしを助けるために騎士団まで走ったと思われて、罪を減じられるかもしれないわ。そんなことは許せないでしょう? それに、詳細を聞かれても困るしね。あのような演出をしておけば、何を尋ねられても辛そうに目を伏せるだけで、それ以上追及はされないもの」
リカルダの予想通り、騎士たちも家族も、彼女の泣き顔を前にすれば、悲痛な顔を見せるだけで詳細を尋ねようとはしなかった。
「フアニートへの復讐は私の個人的な恨みによるものです。リカルダ様の人生を破滅させようとは思ってもいませんでした。公爵閣下のお力があれば、あの女と浮気している王太子殿下の有責で婚約解消に持ち込めたでしょうに」
リカルダを何としてでも止めるべきだったと、トニアは深く後悔していた。たとえ王太子との婚約が解消になったとしても、高貴で美しいリカルダには素晴らしい夫に愛される輝かしい未来が待っていたはずだ。それが、平凡な子爵家の次男ごときに初夜を拒否されるなんて許しがたい。
「いいえ、殿下がわたくしをあの部屋へ呼び出した時点で、その選択肢はあり得ない。浮気をしていながら、有利な条件で婚約破棄したいという利己的な理由でわたくしを陥れようとするような男、王にするわけにはいかない。それに、あんな下品な策略を殿下に唆す女が王妃になるなんて冗談ではない。でも、普通に婚約解消すれば、そうなる可能性が高かったもの。パスクアル伯爵は力を持っていたから。わたくしたちがしたことはこの国のためなのよ。少しくらいの犠牲は仕方がないわ」
「しかし、リカルダ様一人が犠牲になる必要はなかったと思います」
リカルダのあまりの不遇さにトニアは涙を流していた。
「トニア、お願いだから泣かないで。わたくしは決して不幸ではないわ。だって、計画がこんなに上手くいったのですもの。だから、トニアにもフアニートとパスクアル伯爵に復讐できたことを喜んでほしいの。笑顔を見せて」
リカルダはハンカチを取り出し、そっとトニアの涙を拭った。こんな風に敬愛する主人に気を使わせてしまい、申し訳なさ過ぎて、トニアは涙を止めることができずにいた。そして、若くして亡くなった妹のことを思い出していた。
三年前、トニアの父親であるサルディバル子爵が外国に情報を売っていたとの罪で廃爵された。その証拠となったのが、五歳下の妹が恋人だと思っていたフアニートから渡された小箱。中には外国と交わされた密書が何通も納められていた。
『僕の大切なものなんだ。何も聞かずに少しの間預かってもらえないだろうか?』
そう言われた妹は、中身を確認することもなく、自分の部屋のチェストの奥に隠していたのだ。
そして、アルマの養父パスクアル伯爵の告発により、騎士団の家宅捜索を受け、あっという間にサルディバル子爵の罪が確定してしまった。
そのことを苦にして、まだ十六歳だったトニアの妹は自らの命を絶ってしまう。そして、既に結婚していたトニアは婚家から身一つで追い出されることになった。
サルディバル子爵領は罪を暴いた功績によりパスクアル伯爵領に組み込まれた。トニアには二歳下の弟がいたが、次期子爵として運営に関わるために領地へ行っていて、そのまま行方不明になっている。
平民に落とされたトニアは侍女として働きながら父母を支えたが、慣れない平民暮らしのため、元々体の弱かった母親は一年もせずに儚くなる。そして、気落ちした父親も後を追うように亡くなってしまった。
たった一人残されたトニアは、フアニートとパスクアル伯爵に復讐することを心の支えに生きるしかなかった。
それから、明るい色の髪を黒く染め、名を変え、伝手を頼ってどうにかパスクアル伯爵家の侍女として潜り込むことができた。そして、養女となっていたわがままなアルマにも文句ひとつ言わずに仕えて信用を得、アルマ付きの侍女となったのだ。
憎い相手が一人だけならば、トニアは刺し違えても復讐を遂げる機会はあった。だが、パスクアル伯爵に連なる家門の者たちが協力してサルディバル子爵に無実の罪を被せたのだ。
父の無実を明らかにしたい。そして、父と同じようにパスクアル伯爵を廃爵に追い込まなくては気が済まないとトニアは思う。しかし、一介の侍女にできることはそう多くない。ふつふつとした憎しみを抱え復讐の機会を窺いながら、トニアは侍女として信用を得るため、懸命にアルマに仕えていた。
トニアがアルマの侍女になって二年近く経った頃、なんと、アルマは王太子の恋人に収まっていた。アルマのような下品で我儘な女を恋人にするなんて、王太子は本当に見る目ないとトニアは呆れたが、もちろん口には出さない。
しかし、この国の将来が心配だし、何よりパスクアル伯爵が王妃の外戚になるようなことがあれば、没落させることなど不可能になる。いっそ、今のうちにパスクアル伯爵の命を奪い、自分も家族のもとへ逝こうかと悩んでいた。
そんなある日、フアニートがパスクアル伯爵邸のアルマの私室にやって来る。その部屋にはトニアが壁際に控えていたが、侍女のことなど全く気にもしていないのか、口外はしないと信用されているのか、フアニートとアルマは王太子の婚約者であるリカルダを陥れる相談を始めた。
アルマが王妃になるためリカルダに他の男と密会していたとの汚名を着せて、王太子の婚約者の座から引きずり下ろす。継ぐ爵位のない三男のフアニートは公爵家の令嬢と結婚して爵位を得る。そんな卑劣な策略を練る二人は、自分の幸せのために他人を不幸にしても平気らしい。
またフアニートの犠牲者が増える。そう思ったトニアは、リカルダにそのことを伝える決意をした。
領地はとても荒れており、早く領主を決め早急に対策を打ち出さなければ多くの領民を失うことになりかねない。そのため、リカルダとエドガルドの結婚を急いで進めることになった。
エドガルドとリカルダのお見合いの日からたった二か月後。夏が終わり秋に咲く花の蕾が綻びかけた頃、殆ど会うこともなく二人は婚姻の日を迎えた。
心に深い傷を負っているだろうリカルダの事情を考慮し、結婚式は行わないことになった。二人の新居に両家の家族だけが集まり、その場で結婚誓約書に署名し、誓約書を王宮に届けることで婚姻が成立する。それと同時にエドガルドは伯爵位を継承しファリアス伯爵となった。
元々この結婚に反対していたルシエンテス公爵夫人は、抗議するかのように地味な灰色のドレスをまとい、終始俯いていた。夫であるルシエンテス公爵は優秀な男であると言っていたが、夫人からすると、エドガルドは余裕のないただの平凡な男にしか見えない。とてもリカルダの横に並び立つに相応しい花婿とは思えなかった。
あまりに急な展開だったので、王都にファリアス伯爵邸を新築する時間はなく、ルシエンテス公爵は三年前に廃爵された子爵家のタウンハウスを買い取り、大幅に改装して新婚夫婦の新居とした。
ルシエンテス公爵夫人はそれも気に入らない。大切な娘が使い古された家に嫁入りするなんて耐えがたいと感じている。しかし、この結婚はリカルダ自身が望んだことだ。困窮する領民のために身を捧げる覚悟をしたリカルダは、嘆くこともなく淡々と結婚証明書に署名している。そんな中で母親が悲しみの涙を見せるわけにはいかない。婚約者に裏切られてもなお高潔であろうとする娘は夫人の自慢であった。夫人はそんな複雑な想いで、唇を噛みしめていた。
エドガルドの家族の表情も硬い。ただ、壁際に控えていた侍女のトニアだけが静かに涙を流していた。
こうして慌ただしくも二人の新婚生活が始まった。
新婚一日目の夜といえばもちろん初夜である。
エドガルドは自分のために用意された執務室に一人でこもりながら、悩みに悩んでいた。
『あのような辛い思いをしたリカルダ様なので、絶対に男を恐れているだろう。この結婚を了承したのも、私が女性嫌いと公言していたからかもしれない。平凡な私と体を重ねるつもりなど端からないのではないか?』
自分でそう考えては、エドガルドは落ち込んでしまう。
『だが、我々は貴族だ。未来に亘って安定した領地運営を行うためにも後継ぎが必要だ。もし、リカルダ様が領地のために子を成そうと、私が来るのを寝室で待っていたら? 初夜に夫が寝室にも来ないなど、侮辱されたと感じるかもしれない。とにかく寝室へ行こうか』
そう思ってエドガルドは執務用の椅子から立ち上がる。
『いや、顔を見せるだけで襲われた時のことを思い出して怖がらせるかもしれない。そんな思いをするのならば、修道院へ入った方がましだと言われでもしたら。せめて修道院へ行くよりは幸せだとリカルダ様に思ってほしいのに』
再び椅子に座るエドガルド。もう何度もそんなことを繰り返していた。
エドガルドがふと窓を見ると、空はうっすらと明るくなってきている。もうすぐ住み込み勤務の使用人たちが起きだす時間だ。
『はぁ』
一睡もしていないエドガルドの目の下にはくっきりと隈ができている。
一睡もできなかったのはリカルダも同じだった。寝室でたった一人エドガルドの訪れを朝まで待っていたのだ。
「何てこと! 夫としての義務も果たさないなんて」
夜が明け、疲れているだろうリカルダの世話をしようと夫婦の寝室にやってきた侍女のトニアは、昨夜のままの乱れもないシーツを確認し、エドガルドが寝室にやって来なかったと理解した途端に、声を荒立ててこの場にいないエドガルドを詰った。
「そんなに怒らないで。旦那様は女嫌いらしいし。それに、わたくしはあの男に汚されたと思われているから、触れるのに抵抗があったのかもしれないわ」
緊張したまま一夜を明かしたリカルダも内心かなり怒っていたが、王太子妃教育の賜物か、顔に表すことはない。
しかし、リカルダの言葉を聞いたトニアは顔色を変えた。
「リカルダ様、やはりドレスを切り裂いたのは行き過ぎだったのではないでしょうか? 純潔を失ったと疑われてしまいました」
あの誘拐事件の時、騎士たちに発見される前に、リカルダ自身の手でドレスを切り裂き、コルセットの紐も切断しておいた。
「だって、あのままでは、フアニートはわたくしを助けるために騎士団まで走ったと思われて、罪を減じられるかもしれないわ。そんなことは許せないでしょう? それに、詳細を聞かれても困るしね。あのような演出をしておけば、何を尋ねられても辛そうに目を伏せるだけで、それ以上追及はされないもの」
リカルダの予想通り、騎士たちも家族も、彼女の泣き顔を前にすれば、悲痛な顔を見せるだけで詳細を尋ねようとはしなかった。
「フアニートへの復讐は私の個人的な恨みによるものです。リカルダ様の人生を破滅させようとは思ってもいませんでした。公爵閣下のお力があれば、あの女と浮気している王太子殿下の有責で婚約解消に持ち込めたでしょうに」
リカルダを何としてでも止めるべきだったと、トニアは深く後悔していた。たとえ王太子との婚約が解消になったとしても、高貴で美しいリカルダには素晴らしい夫に愛される輝かしい未来が待っていたはずだ。それが、平凡な子爵家の次男ごときに初夜を拒否されるなんて許しがたい。
「いいえ、殿下がわたくしをあの部屋へ呼び出した時点で、その選択肢はあり得ない。浮気をしていながら、有利な条件で婚約破棄したいという利己的な理由でわたくしを陥れようとするような男、王にするわけにはいかない。それに、あんな下品な策略を殿下に唆す女が王妃になるなんて冗談ではない。でも、普通に婚約解消すれば、そうなる可能性が高かったもの。パスクアル伯爵は力を持っていたから。わたくしたちがしたことはこの国のためなのよ。少しくらいの犠牲は仕方がないわ」
「しかし、リカルダ様一人が犠牲になる必要はなかったと思います」
リカルダのあまりの不遇さにトニアは涙を流していた。
「トニア、お願いだから泣かないで。わたくしは決して不幸ではないわ。だって、計画がこんなに上手くいったのですもの。だから、トニアにもフアニートとパスクアル伯爵に復讐できたことを喜んでほしいの。笑顔を見せて」
リカルダはハンカチを取り出し、そっとトニアの涙を拭った。こんな風に敬愛する主人に気を使わせてしまい、申し訳なさ過ぎて、トニアは涙を止めることができずにいた。そして、若くして亡くなった妹のことを思い出していた。
三年前、トニアの父親であるサルディバル子爵が外国に情報を売っていたとの罪で廃爵された。その証拠となったのが、五歳下の妹が恋人だと思っていたフアニートから渡された小箱。中には外国と交わされた密書が何通も納められていた。
『僕の大切なものなんだ。何も聞かずに少しの間預かってもらえないだろうか?』
そう言われた妹は、中身を確認することもなく、自分の部屋のチェストの奥に隠していたのだ。
そして、アルマの養父パスクアル伯爵の告発により、騎士団の家宅捜索を受け、あっという間にサルディバル子爵の罪が確定してしまった。
そのことを苦にして、まだ十六歳だったトニアの妹は自らの命を絶ってしまう。そして、既に結婚していたトニアは婚家から身一つで追い出されることになった。
サルディバル子爵領は罪を暴いた功績によりパスクアル伯爵領に組み込まれた。トニアには二歳下の弟がいたが、次期子爵として運営に関わるために領地へ行っていて、そのまま行方不明になっている。
平民に落とされたトニアは侍女として働きながら父母を支えたが、慣れない平民暮らしのため、元々体の弱かった母親は一年もせずに儚くなる。そして、気落ちした父親も後を追うように亡くなってしまった。
たった一人残されたトニアは、フアニートとパスクアル伯爵に復讐することを心の支えに生きるしかなかった。
それから、明るい色の髪を黒く染め、名を変え、伝手を頼ってどうにかパスクアル伯爵家の侍女として潜り込むことができた。そして、養女となっていたわがままなアルマにも文句ひとつ言わずに仕えて信用を得、アルマ付きの侍女となったのだ。
憎い相手が一人だけならば、トニアは刺し違えても復讐を遂げる機会はあった。だが、パスクアル伯爵に連なる家門の者たちが協力してサルディバル子爵に無実の罪を被せたのだ。
父の無実を明らかにしたい。そして、父と同じようにパスクアル伯爵を廃爵に追い込まなくては気が済まないとトニアは思う。しかし、一介の侍女にできることはそう多くない。ふつふつとした憎しみを抱え復讐の機会を窺いながら、トニアは侍女として信用を得るため、懸命にアルマに仕えていた。
トニアがアルマの侍女になって二年近く経った頃、なんと、アルマは王太子の恋人に収まっていた。アルマのような下品で我儘な女を恋人にするなんて、王太子は本当に見る目ないとトニアは呆れたが、もちろん口には出さない。
しかし、この国の将来が心配だし、何よりパスクアル伯爵が王妃の外戚になるようなことがあれば、没落させることなど不可能になる。いっそ、今のうちにパスクアル伯爵の命を奪い、自分も家族のもとへ逝こうかと悩んでいた。
そんなある日、フアニートがパスクアル伯爵邸のアルマの私室にやって来る。その部屋にはトニアが壁際に控えていたが、侍女のことなど全く気にもしていないのか、口外はしないと信用されているのか、フアニートとアルマは王太子の婚約者であるリカルダを陥れる相談を始めた。
アルマが王妃になるためリカルダに他の男と密会していたとの汚名を着せて、王太子の婚約者の座から引きずり下ろす。継ぐ爵位のない三男のフアニートは公爵家の令嬢と結婚して爵位を得る。そんな卑劣な策略を練る二人は、自分の幸せのために他人を不幸にしても平気らしい。
またフアニートの犠牲者が増える。そう思ったトニアは、リカルダにそのことを伝える決意をした。
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