自称勇者のリザードマン、少女に拾われ世界を知る

おしゃべりデイジー

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ボウケンシャ

冒険者たち

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 くしゅんっ。
 ……ぼーっとする。……頭が熱い。
 もう、朝がきたのかな。まだ、寝ていたいな。

 重たい身体を起こそうと毛布を引き剥がそうとする、が身体がいうことを聞いてくれない。

(これ、風邪ひいちゃってるな)
 少女はベッドの中でぼんやりと考えていた。

 とんとんっ、戸を叩く音だ。
「あー、起きているか?もう昼近くなのだが」
 聞き覚えのある声も聞こえてきた。あのリザードマンのものだ。

「……今、出ます」
 そう言ったつもりだったが、どうやら聞こえていないようで――。
「おーい?入るぞ。今日の予定は」
「あっだめです足元にっ」

 アヴッ!

 小さな破裂音とともにジャロウの情けない声が響いた。

    *

「ごめんなさい。不審者とかネズミとか、入らないように置いていて……」
 酔っ払いが主な客のこの安宿は、個室といえど鍵が壊れているものも多い。そもそもソフィアはいつも部屋の出入り口に音と衝撃の魔法罠を敷いていた。

 ジャロウは足の小指をさすりながら言う。
「い、いきなり入った私も悪かった。……それにしても今日は珍しく起きるのが遅いのだな」
「ちょっと、熱っぽくて。でも大丈夫です、すぐ準備しますから」
「いいや!無理はしなくていい。ギルドには私ひとりで行こう、しばらくここで寝ていた方が良い」

 ぐるぐると回る少女の頭は彼の提案を呑んでいた。
「それではお言葉に甘えて。ついでに、これを」
 ソフィアは自身の冒険者証と、一枚の依頼書、コボルト耳の保存袋を渡した。
「これがあれば代わりに報酬を受け取れるはずです。帰りに風邪薬をよろしくお願いします」

    *

「おーい!リザードさんや!ご主人様はお目覚めかい?」
 外に出ようとすると酒場の男たちが話しかけてきた。ジャロウは朝飯時に起きないソフィアを置いて、一度ひとりで階下に降りていたのだ。
 同じような顔ぶれが昼時にも集っていた。
「フン。何度も言わせるな。私はユウシャだ、誰の下にもつくことはせん」
 口笛が鳴る。ヒトとの交流がないジャロウにも挑発を意味することは解った。

 ずい、と口笛の男に迫る。
「何だ?勇者様よ~顔に何かついてまちゅか……」
 ゴッ、と鈍い音が鳴った。先に手を出したのはリザードマンの方である。
「お!昼間っからケンカか!?」
「いいぞやっちまえ尾切れ!」
「トカゲなんかにやられんなよ~!」

 口笛の男の仲間だろうか、野次馬のほかにも数人が立ち上がり拳を前にジャロウを取り囲んだ。

「いいだろう、好きなだけこい」
 今度はジャロウが挑発し返す。一斉に男たちが殴りかかり腰、背中、胸、と思い思いの箇所に拳を当てるがリザードマンの表皮には通用しない。

「尾などなくとも負けんわ!」
 今度はジャロウの裏拳が光る。横から手を出した男の顔に直撃、気絶し野次馬たちは歓声を上げた。しかし。
「なら腹はどうかなぁ!」
 開いた正面から、口笛の男が刺すような一撃を腹にねじ込んだ。
「!?」
 傷痕に見事命中し、リザードマンは目をしぱしぱさせた。
「おいおい!どうしたよ勇者様~?やっぱりママがいないと勝てないのかな~?」
「ッ!言わせておけばッ」
 ジャロウは潜めていた『爪』をあらわにし男の首元を狙う――。

 瞬間、酒場に金属音が響いていた。
 そこには爪と男の間に割り込んだ『盾』と一人の青年がいた。
「は~いは~い!あんたたち昼間っから暇してんじゃないの!!」

 手をたたきつつ野次馬の間から現れたのは、メガネをかけた子供……だった。
「リザードちゃん!流石に殺しちゃったら牢屋行きだよ~?んであんたたち!寄ってたかって新人を!冒険者のくせに恥ずかしくないの?」
 野次馬も男たちもばつが悪そうに話を聞いていた。
「とにかく!店にもメーワクだから解散!そこのリザードちゃんは僕らが面倒見とくから、それでいいよね?」
「あ、ああ……勝手にしろ」
 命を救われたと感じたのか、口笛の男たちはいそいそと店の端に寄って行った。

 ジャロウは流れについていけず、言われるまま子供と青年に引っ張られ酒場を後にした。


「いやあ貴方さんの一撃、マジで殺すつもりだったっすよねぇ!?腕ビリビリしましたよ!」
 青年が盾を付けた左手をまわしながらはしゃぐ。酒場では一言も口を開かなかったのに、なんとも陽気な変化を感じる。
「すまない。止めてくれて……ありがとう」
「あ!俺レイって言うんす!レイ・ボーダー。んでそこのちっこいのは」
「僕はラシルケ。あの辺りはああいう輩が多くてね。リザードちゃんも気を付けたほうがいいよ。」
「ああそう、僕はこう見えてエルフなんだ。」
少年はもしゃもしゃとした髪を上げ、艶のある尖った耳を見せてくる。メガネの奥の目を細め、にやつく姿がこちらの反応を待っているかのようだった。

「レイ殿にラシルケ殿、私はジャロウ。訳あって昨日初めてこの町に来たのだ。」
「あ!噂の魔法使いとの二人組だよね?相方はどうしたの?」
 ラシルケの耳がぴくぴくと動いている。
「今はまだ寝ている」
「そうなんすか!じゃこの町に何しに来たんすか?」
「ボウケンシャになりに、ギルドというものを探しに」

 二人は顔を見合わせた。
「んじゃちょうどよかったっすよ!俺らも今からギルドいくとこなんで!」


    ***


 『冒険者ギルド』では誰も彼もがせわしなく動いている。
 見慣れぬ猫のようなヒト、スイギュウのような角を持ったヒト、背の高いエルフから髭をたくわえたドワーフまで、本でしか見たことのない様々な人種が入っては出てを繰り返していた。
「リザードちゃん~?大丈夫?」
「あ、ああ。少し驚いただけだ」

 ジャロウは驚きを隠せなかった。町の一角にこのような別世界が広がっているとは想像もしていなかったからだ。
 普通リザードマンの村では、見知らぬ動物を見るとまずは害があるか判断し、食えそうか・金になりそうか・どう加工するか、など利用することに注力する。
 しかしここではそんな判断は必要無く、『人々』として行き交っていたのだ。

「受付さ~ん!言われたもの、持ってきたっすよ」
 レイが率先して『受付』と書かれた卓へ歩いていく。
「どうぞ。依頼書を確認しますね……あら?後ろの緑の方は、新しいお友達?」
「彼は町の新入り、冒険者になりにきたらしいんだ。こういうとこも初めてみたいだからさ、教えたげてよ」
 こういった扱いは慣れているのか、ラシルケも誘導してくれた。

「む、私はシャオ村から出たユウシャ、ジャロウと言う。ボウケンシャになるためここに来た」
 『新入り』と呼ばれた割にはあまりにも堂々とした態度のジャロウを見て、受付嬢はくすりと笑った。
「ジャロウさんですね。ではレイさんの後に案内しますので少々お待ちください」
 レイたちは奥の個室へと入っていった。

    *

「あれ、それって冒証ボーショーだよね?誰の?」
 ソフィアから預かった依頼書などを取り出し待っていると、ラシルケが話しかけてきた。
「これは町までの同行者のものだ。魔法使いの――」
「ソフィアのじゃん!」
 眼鏡を爛と輝かせ、少年は身を乗り出してきた。
「えっもしや相方って、ソフィアがそうってこと!?」
「お、おう。彼女のことを知っているのか」
「ああ!ソフィは優秀な子でねぇ。何度か調査を依頼したんだ。その依頼書ってコボルトのもの、でしょ?」

 意外にも、接点があった。レイが帰ってくるまで二人の出会いについて、なるべくジャロウが愚かに思われないように伝えた。
「ふ~~ん。かなりドジなほうなんだね。リザードちゃん」
 あまり効果はなかったようだ。そしてこう続けた。
「でも彼女も、また一人で危ないことしたんだね」
 どこかがっかりしたような、思い悩むような、少しため息交じりな言葉だった。

「その、君さえよければさ、ソフィともう少しいてくれないかな?」
 ちょうどその言葉と同時にレイたちが帰ってきた。

 答えを返す間も無く、受付嬢から登録についてのあれこれを聞くことになった。
 だが冒険者ごとに決められたランクや色で定められた依頼の話など、一度に聞いても覚えることができないほどの細かいシステムの説明は大部分が頭から抜けていた。
「とにかく、この証の色と同じ依頼を受ければよい、とのことだな?」
「ええ、問題があればそのつど説明いたしますので。それだけ覚えておけば大丈夫ですよ」

 初めのランクはシードたね、緑色。どこか自分らしい色だと満足げに首から下げた冒険者証を撫でてみるジャロウだった。
 そんな時、火急を告げる冒険者の声が響き渡る。

「おい!酒場の方で火事だ!」

 ――ジャロウは駆けだしていた。
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