時空記 壱

アリセ

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第一部 日常の日々の崩壊編 

森の中

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        ~壱~
それからどれだけの時間がたったのだろうか。なんだか眩しい。恐る恐る目を開けると、そこは静かな森の中だった。
「此処は…何処なんだ…。」
一応、立ち上がってみる。どうやら普通に動けるほどの力はあるようだった。あの大切な帽子もあった。
「一応、リュックサックに入れておくか。」
無くしてはいけない。あんなに大切な「アイツ」との思い出の帽子なんだから。
「…それにしても、寒いな。」
雪は降っていなかったが、寒いので、一応、持ってきた衣服を重ね着した。
「早速役に立つとはな」
俺は心から備えあれば憂いなしと思った。
……止まっていても仕方が無いので俺はゆっくりと歩き始めた。
「…しかし、こんなにも自然があるところ、初めてだな。」
生まれながらに都会っ子の来也には、こんなに静かな森を歩くことに、違和感があった。しかし此処が何処かもわからないので歩き続けるしか無かった。
しばらくすると、遠くにうっすらと人影のようなものが見えた。人ではない可能性もあるが、情報収集するにはいい機会だ。俺は全速力で人影のようなものを追いかける。が、中学で帰宅部だった俺には『体力』というものが全くと言っていいほど無い。すぐに俺は力尽きてしまった。
仕方が無い。こっそりつけてみよう。忍者を夢見ていた時もあった。大丈夫、大丈夫。しかし、考えは甘かった。

        ~弐~
つけ始めて十分が経った。まだバレてはいない。森を散策しているみたいだ。しかし、姿は見えにくい。服装もよくわからない。その時だった。
『ガタッ!!』
ん?と思ったら、上から縄が落ちてきた。
「うわぁぁぁ!!」
気づくと俺は罠に引っかかっていた。持っていた小刀で縄を手早く切る。すると、
「獣が引っかかるような罠に人がかかるとはな。」
と誰かの声がした。声がした方を見ると、さっきまで俺がつけていた男がいた。
「お前は…誰だ!?」
と言いたかったが、それよりも先に、
「なんだよその服、プククゥ!!」
と言ってしまった。なんと、その男は戦国時代の人が着ていそうな袴のような着物のようなものを着ていたのだ!!。
「今日はハロウィンじゃないんだぜ!!ふざ―」
「お主‼さっきからこのわしを罵りおって!!」
と、俺の言葉を遮って怒り始めた。顔を見たとき、ハッとなった。なんと、何度も夢に出てきたあの猿顔の武将と瓜二つだったのだ。俺は思わず、
「あの猿顔の!!嘘…だろ…」
とまた余計なことを言ってしまった。相手は、
「わしが一番気にしていることを言いやがって!!」
とすごく怒ってしまった。相手は刀を二振り帯刀している。このままだと殺されかけない。俺はある手段を実行することにした。
「さっきの事はすみませんでした。ところで、今は何年ですか?」
「変なことを聞く小僧じゃの。天正十年じゃ。」
天正十年。つまり1582年。と言う事はこの男の名は…
「あの~貴方の名前は何ですか?」
「わしの名は、織田信長殿の配下、『羽柴秀吉』じゃ!!」
羽柴秀吉。後の豊臣秀吉である。これで基本情報は確認出来た。ここで作戦開始!!一か八か…成功してくれ!!!
「あ、あの今急成長中の名君であられる豊臣秀吉様であられるのですか!!この度のご無礼誠に申し訳ございません!!お会い出来て誠に感激です!!」
そして土下座。俺の作戦というのは、相手をとことん褒めちぎる名付けて『褒め褒め戦法』!!さぁ、成功したかなと思い、顔を上げると…秀吉は気を良くしたのか、満面の笑みを浮かべていた。
「最初は無礼な小僧だと思っておったが、中々気立てが上手いやつじゃのう!」
…作戦成功!!やっぱり予想通り!俺マジ天才!すると秀吉が、
「ところでお主、名と歳を聞いておらんかったな。その不思議な着物と風呂敷も何処で手に入れたのじゃ?お主、一体何者じゃ。」
秀吉は多分…ってエッ!?!?!もしかして俺、さっきまで気が付かなかったけどタイムスリップしちゃた!?ヤバイヤバイヤバイ!!何で何で何で!!!俺はパニックを起こした。
「小僧、どうしたのじゃ?」
秀吉の声で目が覚めた。パニックを起こしている場合じゃない。冷静に考えよう。
…うん、多分俺がタイムスリップした原因は、あの紫色の渦巻きのせいだ。戻れる方法は探すしかないってことか。まぁ元々家出する予定だったし、すぐ戻れるんだったら息抜きだと思って過ごそう。
…おっと、そろそろ秀吉の質問に答えないとな。
「俺の名前は赤夢先 来也です。歳は十四。…それ以外の事は記憶が無くて…」
記憶がないっていうのは嘘。だけど、未来からって言うよりはずっと良いだろう。
「『記憶喪失』か。だから困っていたのじゃな。そういう事ならわしの殿、織田信長殿の城がこの近くにある故、共に参ろう。」
「わかりました。」
この時から、俺の日常じゃない不思議な日々が始まることになったのであった。
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