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EPISODE 9 再起、もう一度
作戦準備
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やった。
成し遂げた。
これで、皆。
助か――。
眼の前に大きな穴が開く。
私は宇宙こそ、暗く寂しい空間なのだと認識していた。
しかし、それは違った。本当に暗く、黒く、底の見えない空間は、あまりにも空虚で。
何かを感じ得る余地すら無いのだと、知った。
EPISODE 9 再起、もう一度
静謐なる深い霧の地下都市、アナザーセントラル。遠く響く駆動音が地上より降り下る。機械の星、表層と地下を繋ぐ昇降機、エレベーター。
「……本当に地下にセントラルがあるとはな」
「スゲェな、噂通りだ」
「マザーが隠してたのか?」
機械人達がエレベーターから降りて来る。背丈、格好は様々であったが、しかしその誰もが少し足早に歩いていた。中には荷物を背負った機械人や、台車を引き摺る機械人もいる。
アナザーセントラルの建物、備え付けられたスピーカーやモニターから流れるのは何度も聞いた声。そして忠告。そこには隻腕の女性型機械人が映っている。治安維持部隊所属、ジーナ・カノンその人であった。
「マザーが来たる磁気嵐のため、シェルターを用意した。完全とは言えないが、気休めにはなる。……避難を望む者は開放したエントランスから地下都市へ向かってくれ」
造られた空が消え、磁気嵐襲来のカウントダウンが始まった夜。惑星放送のラジオを介し、ジーナから声明があった。
彼女の言葉はマザーの言葉の代弁である。マザーが休眠した旨、磁気嵐の黒星が迫っている旨、これから機械の星の存続を賭けた磁気嵐の消失作戦が行われる旨。それらを簡潔に、明確に、毅然として機械人達に伝えた。
「本当に気休めだよな」
「……でも、地表に残る意味もないだろ?」
「もしかしたら、助かるかもしれないじゃん」
機械人の多くは一人ひとり悩み、考えながらも地下都市への移動を始めた。彼等彼女等もまた、明日を信じていたのだ。
そして、マザーの意思を借りつつ、ジーナは己の言葉を口にした。
「作戦が失敗したならば、機械の星の機能停止は免れない。協力者を募りたい。この星に住む者であれば、誰でも歓迎する。勿論、無理強いはしない。詳細はラジオ終了後の自動音声を確認してくれ。……一人でも多く、希望者が来ることを祈る。それでは」
「おーい、こっちは片付いたぞ‼」
「計器類、全て異常無し」
「酸素、燃料タンクの充填状況は?」
「耐磁気装甲、消磁機構の進捗はまだか⁉」
磁気嵐の黒星が迫るまで残り二日。
とある製造所は粉塵、火花、白煙、そして活気と熱気、気勢に満ち溢れていた。
地下都市、アナザーセントラルの最奥。人類移住計画の拠点であるホーム、その工業区画は慌ただしく動いている。
ジーナの呼び掛けにより、機械人のエンジニア、メカニック達がホームを訪れたのだ。皆、機械の星を救いたい、中には、磁気嵐を吹き飛ばした名声が欲しい、と剥き出しな野心を抱える者もいた。
「調子はどうだ?スラック」
「おお、アンディ‼最高だ、何度も言うが、ここの設備は良く整っている。俺の持ってきたエンジンも喜んでるさ‼」
件の工業区画、輸送船の前に立っていた円盤頭の機械人にアンディは軽口を叩く。
真っ先に工業区画へ走り込んで来たのはアンディの旧友、スラックである。彼はアンディと共にスクラップ工場を営んでいたが、エンジンの試作も行っていた。ジーナの声明を聞いた瞬間、自身の最高傑作という星外活動用エンジンを輸送車の荷台に載せ、フルスロットルでセントラルに向かったと聞く。
「まぁ、載せるのが旧型の輸送船ってのが少し気に食わないがな……」
不満の声で呻るスラックの背中をアンディは小突く。
「仕方ないだろう。これしか無かったんだ。それに、新しい輸送船を用意する時間はない。リサイクルは俺達の得意技だろ?」
アンディの言う通り、星外活動を行う輸送船は有り合わせの物を使わざるを得なかった。それこそ、ウィンの乗って来た輸送船は機械の星の咀嚼に巻き込まれて廃材送り。
そこでジーナとアンディは人間の残した輸送船に目を付けた。旧世代の遺物ではあるが、エンジンや外部装甲を補強してやれば使えないことはない。
アンディは目の前の輸送船へと身体を向けると、釣られるようにスラックも正対した。
かつて、人間の操縦した輸送船。装甲や塗装は多少擦り切れているが、そこには風格や威厳といった何かを確かに感じさせられる。背面に付いたスラック一押しのエンジンが仰々しいのもあるだろうが、力強く、そして頼り甲斐があるように見えた。
「消磁装甲はどうだ?」
「まぁ、お前が知りたいのはそれだろうな」
スラックは自身の作業服のポケットを弄る。二つ、三つと中身を漁ってようやく出てきたのはグシャグシャの点検用紙だった。
アンディは不快そうにそれを受け取る。視線をくたびれた紙片に滑らせると。
「……ギリギリ合格ラインか」
「まぁ、こればっかりはな……。でも、お前の取ってきた被害データの解析は順調だったようだ。磁気嵐の目安にはなったと技術部の連中は言ってたぞ」
「ああ、そうか」
「……知り合いだったのか?」
アンディの様子から何かを感じ取ったスラックは尋ねる。その声色は気遣うように落ち着いていた。
アンディが入手した被害データ。それはロジャーとフッドのいた工場からサルベージしたものだった。
彼はウィンやジーナにも黙って、一人で磁気嵐の被害を確認しに行ったのだ。二人を危険に晒したくないのもあったが、死体漁りのような真似をさせたくなかった、というのが本心であった。事実、黒鉄の車両であるフッドの内装を剥いで回収したことに加え、工場内で造られていた物品も拾ってきたのである。
アンディはその記憶を振り返りつつ、言葉を持つスラックにゆっくりと口にした。
「俺とウィンを守って磁気嵐に立ち向かった、恩人だ」
「……そうか」
スラックはそれだけ言うと輸送船に近付き、船体をそっと撫でる。
「喜んでると思うぜ。ソイツら」
「ああ、彼等のためにも作戦は成功させる」
言葉少なく、強い意志を交わした二人は拳を突き合わせる。そうだ、とスラックが口にする。
「消磁装甲で思い出したが、耐磁気服の開発も終わりそうだぞ」
「ああ、二人分な」
アンディが指二本立てて確認すると、スラックは円盤頭を縦に振る。
「お前も外に出るんだよな」
アンディは頷き、わざとらしく両腕を広げてみせた。少し格好つけた口振りで。
「彼女だけに任せておけないだろう?」
「……それでこそアンディだ」
二人は久し振りに笑い合う。それがあまりにも懐かしく思えたアンディと、この変わらなさに気分を良くしたスラック。
どちらも機械の星を終わらせまいと、決意を新たにしたのであった。
成し遂げた。
これで、皆。
助か――。
眼の前に大きな穴が開く。
私は宇宙こそ、暗く寂しい空間なのだと認識していた。
しかし、それは違った。本当に暗く、黒く、底の見えない空間は、あまりにも空虚で。
何かを感じ得る余地すら無いのだと、知った。
EPISODE 9 再起、もう一度
静謐なる深い霧の地下都市、アナザーセントラル。遠く響く駆動音が地上より降り下る。機械の星、表層と地下を繋ぐ昇降機、エレベーター。
「……本当に地下にセントラルがあるとはな」
「スゲェな、噂通りだ」
「マザーが隠してたのか?」
機械人達がエレベーターから降りて来る。背丈、格好は様々であったが、しかしその誰もが少し足早に歩いていた。中には荷物を背負った機械人や、台車を引き摺る機械人もいる。
アナザーセントラルの建物、備え付けられたスピーカーやモニターから流れるのは何度も聞いた声。そして忠告。そこには隻腕の女性型機械人が映っている。治安維持部隊所属、ジーナ・カノンその人であった。
「マザーが来たる磁気嵐のため、シェルターを用意した。完全とは言えないが、気休めにはなる。……避難を望む者は開放したエントランスから地下都市へ向かってくれ」
造られた空が消え、磁気嵐襲来のカウントダウンが始まった夜。惑星放送のラジオを介し、ジーナから声明があった。
彼女の言葉はマザーの言葉の代弁である。マザーが休眠した旨、磁気嵐の黒星が迫っている旨、これから機械の星の存続を賭けた磁気嵐の消失作戦が行われる旨。それらを簡潔に、明確に、毅然として機械人達に伝えた。
「本当に気休めだよな」
「……でも、地表に残る意味もないだろ?」
「もしかしたら、助かるかもしれないじゃん」
機械人の多くは一人ひとり悩み、考えながらも地下都市への移動を始めた。彼等彼女等もまた、明日を信じていたのだ。
そして、マザーの意思を借りつつ、ジーナは己の言葉を口にした。
「作戦が失敗したならば、機械の星の機能停止は免れない。協力者を募りたい。この星に住む者であれば、誰でも歓迎する。勿論、無理強いはしない。詳細はラジオ終了後の自動音声を確認してくれ。……一人でも多く、希望者が来ることを祈る。それでは」
「おーい、こっちは片付いたぞ‼」
「計器類、全て異常無し」
「酸素、燃料タンクの充填状況は?」
「耐磁気装甲、消磁機構の進捗はまだか⁉」
磁気嵐の黒星が迫るまで残り二日。
とある製造所は粉塵、火花、白煙、そして活気と熱気、気勢に満ち溢れていた。
地下都市、アナザーセントラルの最奥。人類移住計画の拠点であるホーム、その工業区画は慌ただしく動いている。
ジーナの呼び掛けにより、機械人のエンジニア、メカニック達がホームを訪れたのだ。皆、機械の星を救いたい、中には、磁気嵐を吹き飛ばした名声が欲しい、と剥き出しな野心を抱える者もいた。
「調子はどうだ?スラック」
「おお、アンディ‼最高だ、何度も言うが、ここの設備は良く整っている。俺の持ってきたエンジンも喜んでるさ‼」
件の工業区画、輸送船の前に立っていた円盤頭の機械人にアンディは軽口を叩く。
真っ先に工業区画へ走り込んで来たのはアンディの旧友、スラックである。彼はアンディと共にスクラップ工場を営んでいたが、エンジンの試作も行っていた。ジーナの声明を聞いた瞬間、自身の最高傑作という星外活動用エンジンを輸送車の荷台に載せ、フルスロットルでセントラルに向かったと聞く。
「まぁ、載せるのが旧型の輸送船ってのが少し気に食わないがな……」
不満の声で呻るスラックの背中をアンディは小突く。
「仕方ないだろう。これしか無かったんだ。それに、新しい輸送船を用意する時間はない。リサイクルは俺達の得意技だろ?」
アンディの言う通り、星外活動を行う輸送船は有り合わせの物を使わざるを得なかった。それこそ、ウィンの乗って来た輸送船は機械の星の咀嚼に巻き込まれて廃材送り。
そこでジーナとアンディは人間の残した輸送船に目を付けた。旧世代の遺物ではあるが、エンジンや外部装甲を補強してやれば使えないことはない。
アンディは目の前の輸送船へと身体を向けると、釣られるようにスラックも正対した。
かつて、人間の操縦した輸送船。装甲や塗装は多少擦り切れているが、そこには風格や威厳といった何かを確かに感じさせられる。背面に付いたスラック一押しのエンジンが仰々しいのもあるだろうが、力強く、そして頼り甲斐があるように見えた。
「消磁装甲はどうだ?」
「まぁ、お前が知りたいのはそれだろうな」
スラックは自身の作業服のポケットを弄る。二つ、三つと中身を漁ってようやく出てきたのはグシャグシャの点検用紙だった。
アンディは不快そうにそれを受け取る。視線をくたびれた紙片に滑らせると。
「……ギリギリ合格ラインか」
「まぁ、こればっかりはな……。でも、お前の取ってきた被害データの解析は順調だったようだ。磁気嵐の目安にはなったと技術部の連中は言ってたぞ」
「ああ、そうか」
「……知り合いだったのか?」
アンディの様子から何かを感じ取ったスラックは尋ねる。その声色は気遣うように落ち着いていた。
アンディが入手した被害データ。それはロジャーとフッドのいた工場からサルベージしたものだった。
彼はウィンやジーナにも黙って、一人で磁気嵐の被害を確認しに行ったのだ。二人を危険に晒したくないのもあったが、死体漁りのような真似をさせたくなかった、というのが本心であった。事実、黒鉄の車両であるフッドの内装を剥いで回収したことに加え、工場内で造られていた物品も拾ってきたのである。
アンディはその記憶を振り返りつつ、言葉を持つスラックにゆっくりと口にした。
「俺とウィンを守って磁気嵐に立ち向かった、恩人だ」
「……そうか」
スラックはそれだけ言うと輸送船に近付き、船体をそっと撫でる。
「喜んでると思うぜ。ソイツら」
「ああ、彼等のためにも作戦は成功させる」
言葉少なく、強い意志を交わした二人は拳を突き合わせる。そうだ、とスラックが口にする。
「消磁装甲で思い出したが、耐磁気服の開発も終わりそうだぞ」
「ああ、二人分な」
アンディが指二本立てて確認すると、スラックは円盤頭を縦に振る。
「お前も外に出るんだよな」
アンディは頷き、わざとらしく両腕を広げてみせた。少し格好つけた口振りで。
「彼女だけに任せておけないだろう?」
「……それでこそアンディだ」
二人は久し振りに笑い合う。それがあまりにも懐かしく思えたアンディと、この変わらなさに気分を良くしたスラック。
どちらも機械の星を終わらせまいと、決意を新たにしたのであった。
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