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3章 Super Avenge

【二十六】熱くやろうぜ

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夜が明けると、前時代の国の象徴、
軍国として栄えていた時代を体現していた王城が変形した。
それは前兆も何もない、突然の出来事だった。
無骨な出で立ち、華美さよりも外敵からの侵攻に耐えることを目的とした場所は、
虹色の光に包まれ、まるで異なるものへと変わった。

それは過去、この時代で言えば、
遥か太古の文明にあった闘技場(コロッセウム)めいていた。
そして、その内部がリトルファム中の空中に投影されたスクリーンに展開された。
石造りの闘技場。円台の中央にシオンが待ち、
隣にはベスという名のスピードスターが控えていた。

そうだ。
彼はスピードスターを手にしている。

スピードスターとは、希望の灯火だ。
最速の正義がいる限り、その世界は希望をつなぎ続けられる。

僕の記憶に最も新しい事例としては、
あるアースにいたスピードスター、インゲニウムというヒーローがいる。

インゲニウムは速さそのものが飛び抜けていたわけではないが、
その精神性は、どの世界のスピードスターにも引けを取らない立派なものだった。

そんなインゲニウムが斃れた時を境に、
彼のいた世界は、溜まっていた爆弾の導火線に火が点いたように崩れていった。

二対一という卑怯さを糾弾している場合ではない。
スピードスターが斃れれば、
灯火をつなぐ新たなスピードスターが必要とされる。
でなければ、その世界は救いなく終わる。

決して費やしてはならない燭火。
スピードスターとは、そういう存在だ。

「ベス……あんなに悲しそうな顔、見たことない」

ぷるぷるとした震えが、スライムの悲嘆を伝える。
善きスピードスターは、誰からも愛される。
スライムの彼にとっても同じなのは、当然だった。

「ボク、もっと大きくなれるよ! いいの!?
 早く、あの子を助けたいよ!」

ジェーンの胸元で、スライムのニュルが力こぶになった。

「必要ないわ。
 最低限の鋭さと距離を持てたら、それでいい」

シスマは別行動。
りさは、いつも通り勝手にどこかへ行っている。

──ジェーン、聞こえる?

返事はない。
昨日から彼女は、僕の声を聞かなくなった。
どうしたらいいものか。
僕抜きで戦うというのか。

……おや。
もしかして、問題ないのか?

自慢ではないが、
僕はジェーンに作戦面で貢献したことが、
こと戦闘においては一つもない。
それは僕が生きていた頃から、ずっとそうだった。
誰も、僕を軍師担当だとは見なさなかった。

もしかすると、戦いなら僕がいなくても、なんとかなるのかもしれない。

王城だった闘技場に足を踏み入れ、
ジェーンは廊下を歩いていく。

『控室で休まないのか?
 けっこう内装を凝ったんだが』

顔の真横に展開された立体モニターを、裏拳で破壊した。
そのまま通路を抜け、
極めて明るく、純白の光に染まる出口へ向かうと、
観客席からは、ありもしない歓声が次々に届いてくる。

『ジェーン様だー! なんだこの見世物ー!』

『今はラスターって名乗ってるんだぜー!』

『シオン様もかっこいい! 抱かれたーい!』

リトルファム全土の人々が、
ジェーンとシオンが円台で向かい合うのを見守っている。
この男が、これから何をしようとしているかも知らずに。

「どうだ、この演出は。
 お前の創った社会に生きる人々が見守る中で、お前は俺に敗北する。
 そしてこの国は、俺の完全な支配の下で生まれ変わるのさ」

観客の視線も歓声も、意に介さず。
聖女は、かつての許嫁を睨みつけた。

「どうしても、やらずにはいられなかったの?」

「何をだ」

「すべてよ。
 いいえ、せめて……ジョナサン達を消さずにいられなかった?」

その名を出された瞬間、
スピードスターの両肩が大きく震え、全身が激しく痙攣した。
だが、シオンが指を鳴らすと、機械のように静まった。

心の隅々まで洗脳されている。
その様に、ジェーンは吐き気を催した。

「ないな。
 あいつを消さなければ、お前は本気にならなかっただろう」

「貴方のことは、ずっと嫌いだった。
 本当の気持ちは……? とかがあるわけじゃなくて、普通に嫌いだった」

これは、彼女の本心だろう。疑いようもない。

「だって貴方は、毎日をぶらぶら無駄に過ごしているくせに、
 人を否定することだけは得意そうに見えたもの」

「でも、貴方がからかってくる時は、
 いつもとは違う自分が出ているのは分かったわ。
 それだけは、今の貴方を相手にしているより、ずっとよかった」

「くだらんな」

ジェーンのささやかな告白を、
シオンは虫酸が走ると言わんばかりに吐き捨てた。

「それはつまり、あれだろう?
 世界を変え、運命の中心におわすジェーン・エルロンド様の、
 人間的な癒しと救いとして存在しろ、ということだろう。
 絶対にごめんだな。
 そんなものになるくらいなら、俺は死ぬ」

「どうしてか、尋ねても?」

「それは持たざる人間の生き方でしかないからだ。
 俺は……俺も怪物になりたいんだ。
 英雄、王者(チャンピオン)になりたい。
 お前を超える特別になりたいんだ」

聖女は、許嫁の万感こもった訴えを聞いても、
眉一つ動かさない。
すでに彼女は、シオンを敵として見ている。
それも、絶対に救わない相手として。

「じゃあ、終わりにしましょう。
 貴方を殺すわ」

「それでいい。そうこなくては」

そう言うシオンの前に、
魔女帽子のスピードスターが立つ。

そうだ。
彼はスピードスターを掌中に収めている。
この世界の希望のトーチを手にし、
世界を滅ぼして作り変えるつもりだ。

「お前も仲間を潜ませているだろう?
 俺も最初から、すべてを使わせてもら──」

その頬を、力いっぱい殴り飛ばした。

人を殴ることにずっと嫌悪感を示し、
殴るくらいなら窮地に堕ちることを選んでいたジェーン、
ラスターが、人をあらん限りの力で殴り飛ばした。

「もういいわ。
 一言も漏らすことなく、死になさい」

冷え切った瞳で見下ろし、
胸ぐらを掴んでシオン・ホッパーを引き起こすと、
彼の顔には満面の笑みが広がった。

戦いの興奮で強張った表情筋での
無理槍に作った下品極まりない、変わり果てた笑顔。
ゾッとする歓喜を浮かべ、彼は僕の力を発動させた。

「つれないな。
 初めてのデートなんだ。
 熱くやろうぜ。お前が死ぬまで」
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