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3章 Super Avenge

【二十七】俺に勝つ気なのか?

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腕を解禁した。
これは僕の超パワーと超スピードを継いだ者にとって大きな意味がある。
なぜなら、ジェーンが戦闘の天才だからだ。

跳んで宙で回転して蹴りを落とす。
そこで終わらず、手で地面を掴んで両脚で相手の頭を挟み、
流れるように両腕で相手の両膝を打った。
普通なら、こんなことをしても打撃にならない。
力を増すための腰の回転が入らないからだ。

だが僕の身体能力ならできる。
だからジェーンもできる。

膝を打たれたシオンは激痛に眉を顰め、大きく後ろに下がった。
彼も外付けで僕の力を得ている。
両膝に一度に痛打を受けたらまともに動けないはずだが、
超回復力がそれを可能にした。

シオンが姿勢を低くし、ステップを小刻みに挟んだ。
伸びるパンチ、フック、タックル――さまざまな攻撃を
超高水準で修めたのは分かる。

「なんだ、その素人丸出しの攻撃は。
 意表を突けばいいってもんじゃないぞ!?」

今のラスターはマントを展開させていない。
だが機動力は、むしろ僕がアシストした時より向上している。
今の聖女は、両脚に追加して両腕も地面に付けている。
両脚では留まらない柔軟な動き。
ジャンプして膝を浴びせ、
避けられたと思ったら、すぐに地面を片手で押し出して蹴りを飛ばす。

獣そのものな戦い方だ。
だからヴィジランテ仕込み、エージェント仕込みの動きを叩き込まれた
シオンには、到底反応しきれるものではない。
対人の脅威だけを叩き込まれたはずだ(特に悪ストリーマーこと、ブラック・ストリーマーからは)。

ただのテクニックをいくら凝らしても、
人と同じ頭の高さ、内臓の高さでないと、
いわゆる体系化された武道の術理は無意味になる。

だというなら、僕はどうしてそうしなかったか?
ジェーンのしていることの有用性が分かるなら、できたのではないか?
答えは一つだ。僕には戦いの才能がなかった。
悲しいことではあるが。

「ならばさあ、こいつを嬲れ」

背後に控えていたスピードスターに指を鳴らす。
洗脳スイッチが入ったことで、
魔女帽子が虹色の粒子を展開させた。

「ぐっ!」

超高速の動きがジェーンの脇腹を繰り返し蹂躙した。
思わず体が起きてしまったところを、
シオンが逃さずストレートを打ち抜く。
鼻っ柱から鼻血が溢れた。

息を大きく吸って無呼吸でフィールドを手で掘り、掬い取る。
両手で握り潰して砂にし、ばら撒いた。

ストリーマーの予測は半分当たっていた。
シオンはクレオから奪ったマナ解析と妨害の術具で、
暴発防止をした上で夜の砦の子どもを消した。
彼女の読みは、シオンの手にクレオの特製品があったことで外れてしまった。

だが、直接的に超えないと気が済まないジェーンには、
絶対に粒子崩壊をしないだろう。
それはヒーローとアークヴィランの戦いを何度も見てきたがゆえの直感だ。
アークヴィランはヒーローのことしか見えていない。
だから戦い方、倒し方には独自の執着を見せるものだ。

「目眩ましになると思うか?」

ジェーンが苦し紛れにばら撒いた砂。
これくらいで通用するはずもない。
だがジェーンは、砂をこじ開ける虹色の粒子から、
スピードスターの動きを予測しようと試みた。

それはいくらなんでも無理があった。
圧倒的なスピードで一秒間に数千、数万の打撃をもらうという体験。
それは不快感をたっぷりと催し、ひいてはダメージになる。

「何か、付け入る隙があるはず……」

二人がかりで来られるのを防戦一方で凌ぐ。
ジェーンの狙いは正しい。
スピードスターは敵、それもヴィランが非常に豊富だ。
つまり音速・光速で移動したとしても、
「速いだけ」というのは乗り越えがいのある好敵手に見えるらしい。

どうやって乗り越えようとしていたのかは、
あまり見ないようにしてきたから分からない。
スピードスターのヒーローは、大事な親友の一人だ。
倒し方だなんてプライベートなことを知って良いわけがない。

「うらめしやぶほぉ!!」

攻めあぐねている横で、地中から
ストリーマーが浮かび上がってきた。
向こうのノリに付き合う気のないジェーンは、
幽霊の髪の毛を掴んで地面に叩きつけた。

「ちょっと、何をするんですかぁ。
 せっかくいいこと教えてあげようとしているのに。
 なんて酷い人なんでしょう。邪悪ポイント200ポイント加算」

「殺されたくないなら、早く言え」

「戦いのリズムです。
 スピードスターを倒すには、それを把握するのが一番確実です。
 特に洗脳されているのなら、絶対にこれがベストです。
 申し訳ありませんが、あなたをずっと影から監視しました。
 このことについては、私をどれだけ外道と罵り、後で命を奪っても構いません。
 とにかく私は数回の観測によって、
 あのスピードスターが攻撃に展開する粒子のパターンを捉え、
 波長から法則を見つけ出しました」

リズムか。
世界は音だと言っていたセイメイを思い出す。
超高速の相手からそれを導き出すとは。
ヒーローが困っている時、
打つ手なしの時は、必ず起死回生の手段をくれるな。

「いいですか。敵のスピードスターは、
 ターンターン、ターンターン、ターンターーーンターーーーーン、ターターーーーーン、
 デデデデデッデデデデデッ、ターーターーーーーーン、のリズムになります。
 青空に雷鳴が突き抜けるイメージです」

なんと言う優れたリズムだ。
すべてのスピードスターに捧げるべき名曲だ……。

「わかった」

神経を研ぎ澄ませ、シオンの攻撃と
虹色の高速移動を同時に相手する。
実際には僕の超パワーで根性で耐え、
超高速移動のリズムを掴もうとしている。

「青空の……雷鳴……稲妻」

重要な急所だけを防御し、
スピードスターの移動方向が一瞬だけ予測できた。
虹色の燐光の点々の先。
ジェーンはスライムのニュルを腕に巻き付けて伸ばした。

「捕まえた!」

位置が少しぶれてもカバーできるように、
スライムが面積を広げ、
虹色の力場を丸ごと覆った。

頭部──魔女帽子以外を掴まれたスピードスターに、
血水魔法が発動し、四肢が痙攣して指一本動かすのが不可能になった。
超スピードは止めてしまえば無力だ。
それには血水魔法がうってつけだった。

「あなたは、その子の側にいなさい」

体に付いていたスライムを剥がし、
ベス・イーストと呼ばれた少女の胸に乗せて、
フィールドの外に置いた。

シスマが動かさずにいれば、
もう逃げることも、こちらを翻弄することもできない。

「やれやれ。酷いなぁ。
 好き放題に動かせるようになるまで、仕込むのが大変だったんだが」

「もうあなたの勝ち目は潰えたわ。
 せめて運命を受け入れなさい」

「力尽くでやってみろ」

スピードスターを剥がし、
ついにキングが丸裸になった。
チェスで言えばチェックメイトだ。

先ほどと同じだ。
ジェーンの戦いの才能が僕の力を使いこなし、
シオンに打ち勝つ──その通りに、ジェーンは動いた。

シオンの横蹴りを反時計回りに躱し、
両手で足首を持ち上げる。
それから渾身の力で蹴り上げ、
跳ぶより先に両手を組んで、破槌の要領で叩き落とす。

フィールドが半壊し、
観客──国民の歓声が立体映像を通して響き、こだました。
決まった。これ以上はないという一撃だった。

土煙が空を覆うほどに立ち上り、
ダメージの余波でコロッセウムの柱、客席が崩れた。

視界が晴れるまで待つ気はない。
ジェーンは音を頼りに、さらに拳を下ろす。
だがカウンターの靴底がジェーンを跳ね返す。
シオンのダメージが浅かった。

あれだけの必殺の威力を浴びせたはずなのに。
外傷らしい外傷もない。

「戦いを急いでいたのも分かる。
 スゲーマンと心が離れ、
 引き出せる力がたちまち萎んでいたのだろう?」

……知らなかった。
そうなら、ジェーンがこれほど思い詰めていたのも分かる。
時間切れになったら絶対に負ける戦いだったのか。

特殊なアンプルで力を得ているシオンは、
僕の力を安定して使うことができる。
そうなるとパワーバランスは逆転してしまう。
今やジェーンが何をしても、相手は揺るがない。

パンチを、蹴りをいくら浴びせても、
僕との心が離れたままだと力は戻らず、
パワーのないままだ。

それだけではない。
シオンはジェーンを脅威でないとみなし、
せっかく救助したベスをまた奪いにかかった。

スライムが守ろうとするが引きちぎられ、
血水魔法がかかったスピードスターは、
クレオ特製の反マナ回路グローブで活動を再開してしまう。

「うそ……そんな……」

呆然とするジェーンを呵々大笑するように、
彼女の周りを虹色の閃光と暴風が渦巻く。

「皮肉なものだな。
 親に見放され、捨てられた孤独で目覚めたパワーが、
 自分から前世に背を向けたことで失われ、こうしてすべてを失うんだ」

ジェーンの胸ぐらを掴み、許嫁だったシオンが殴り飛ばす。
膝を腹部、丹田に何度も突き刺し、反った上体に反動をつけ、額を鼻や唇に打ち付ける。

「そして俺はすべてを手に入れる。
 お前が俺から掠め取った栄誉を、何十倍にもして。
 俺から家と生活を奪い、手前勝手に利用して母の死に顔にも出さなかった、あの男の国を!
 力と技術だけ渡して幸福を与えず、家族を奪いやがった王を!
 全部ぶっ壊して、俺の好きなようにしてやるんだ! 立派な人間になってな!」

夜の砦にまったく同じことをしていると、
彼が自覚することは永遠にないだろう。

万感の勝ち名乗りを叫んでも、ジェーンを殴る手は止まらない。
ここから巻き返すのは容易ではない。
周囲にはスピードスター。目の前にはパワーで圧倒する戦士。
そして頭も、とびっきりにキレるときた。

メイド長が血水魔法でシオンを拘束するには、
彼の付けている術具が邪魔だ。

「これは全部、返してもらうだけだ。
 この国とお前がこの手から奪い、俺に見せた絶望と憧れ!
 どれも手に入れて、ようやく俺は母に顔向けできる。
 貴様という太陽を叩き落として、俺がより高みに至ろう」

「わかった……わかったから……
 あたしは殺してもいい。
 だから、シスマと、子ども達は……」

「なんだ、まだ喋れたのか。
 生かすわけがないだろう。
 あの世で俺の玉座にコーラスでも送っているんだな!!!」

もうダメだ。希望の一切は断たれた。
エドガーは怪我で療養し、クレオは熊の帝国にいる。
他の仲間は消されたか、手を出しあぐねている。

「お願い。あたしはいいから。
 せめて、子どもと、シスマは……」

「くどいぞ。
 命乞いで俺の耳を楽しませないなら、
 豚の如き悲鳴をあげて無様に悶えろよ」

ジェーンの必死の懇願も、
狂気が加速して今にも散華しそうな男には届かない。
どうしようもない。

「ごめん……ごめんなさい。
 あなたにあんなこと言って、ずっと無視したのに……」

シオンにではない呟き。
攻撃から回復する速度も遅くなってきた。
じきに自己治癒力を上回るダメージが蓄積し、
ジェーンは命を落とす。

「でも、お願い。あたしはいいから、
 せめてシスマ達のことを助けて」

腫れ上がった両目は何も見えず、
ジェーンは動く片手で、
指を祈るように曲げた。

トドメの一撃が振り下ろされる。

「助けて、お願い、お父さん」

────ッ!!

瞬間、僕の力が爆発的に高まり、
シオンの拳を握り、真正面からすべての指をへし折った。

「ぎゃあああああ!!」

予想外の反撃に絶叫し、たたらを踏んだ彼を、
僕は思いっきり蹴り飛ばした。

崩れかけていたコロッセウムが全壊し、
シオンは遠く、大森林を超えた平野にまで吹き飛んでいった。

馬で走れば一日はかかる距離だ。
時間は稼げた。

虹色の燐光が僕の周囲を回っている。
攻略方法は一緒に聞いていた。

ジェーンは考えが至らなかったことだろう。
僕は一切、人を打ちのめす策戦など思いつけないタイプだが、
代わりに、誰よりもストリーマーの指示と攻略法で相手に勝ってきたのだ。

「シスマ!」

僕の背後に回ろうとしていたのを、
移動速度とリズムで位置を予測し、
そのまま片手で捕まえ、シスマにどうにかしてもらう。

「ニュルくん。
 こんどはもっと彼女に語りかけてあげてほしい。
 きっと、家族の声なら洗脳にも勝てるはずだ」

「それで、あんたは俺に勝つ気なのか?」

馬鹿にしきった声で、
戻ってきたシオンが鼻を鳴らした。

「知っているぞ。あんたはこういう状況では、
 一度もヴィジランテに勝ててない。ストリーマーにも勝てていない。
 ヴィジランテのスキルを持ち、ストリーマーの弟子の俺に、勝てるとでも思うのか」

「君がどう思おうが、それは問題ではないよ」

「問題さ。お前如きが俺の敵になると思うか?
 貴様ごとき凡俗が神聖な俺達の領域に踏み込むと?
 平民風情が神々、王、巨人の領域を穢すのか?
 畑の案山子が俺達、神々の宮殿に鍬を立てるんじゃない!!!!!」

好き勝手に言ってくれる。
今の自分が振るっている力が、
誰から来ているものか忘れているのだろうか。

「君が自分をどう思おうが関係ない。
 ジンクスとやらがどれだけ高いハードルだろうとね、
 君は知らないことだろうけれど、シンプルな事実があるんだ」

拳を握り、開く。
髪はすべて黄金色に染まり、
両瞳は漆黒に輝いている。
フルモードの僕のコンディションだと分かる。
まあ、どっちにしても今の僕には、さしたる要因じゃない。

「親っていうのは、子どものためなら限界を超えるものさ」

子ども同士の喧嘩に口を出すみたいになってしまったけれど、
泣いて助けを求められたんだ。
僕は全力を尽くす所存だ。

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