12 / 92
1章 Secret Rebirth

【九】これからどうするおつもりですか?

しおりを挟む
「うん、それでね。まあ、話の続きなんだけども。とりあえず学校を作るでしょ? それと、あんな感じの奴らをもっと積極的に取り締まる組織を作りたいなって」

 ジョナサン少年たちを助けた後、とりあえず置いていくわけにもいかず、ジェーンはメイド長にお願いして家族丸ごと屋敷に連れてきた。
 それに、彼らはジェーンの力をはっきりと目撃している。
 お米の聖女の顔と、あの超常的な力を結びつけられているのはまずい。
 これが広まったら、さぞかし面倒なことになるだろう。

 それもあってシスマはあっさりと兄弟の受け入れをした。
 屋敷の運営権はほぼメイド長が握っていた。
 加えて、メイド長としても考えがあるようだった。

「秘密裏に私兵を組織するのはいかがでしょうか。今の社会、力を持て余した人間は多くいます。私としても思うところがあります」

 先ほどの戦いと大声での謝罪を通じ、シスマも主の本気を理解してくれたようだ。

「おお!」

「全員を組織するのは現実的ではありませんので、まずは見込みのある人間を集めましょう。基準は私に任せていただけますか?」

「さすがね! じゃあ早速、開校に動きましょう! 校舎はこの屋敷を使いましょ。それで悪い人にお仕置きをして、善い人が困っているのを助けられる人材を育てて、国をもっといい感じにするの! そうすれば、あたしは楽して前世の知識を戻せそう!」

「そんなに都合よくいくでしょうか……? いずれにせよ、仰せのままにいたします」

 個人的にはもっとツッコんでも良いところだが、従順に応じてくれた。
 深々と礼をして、メイド長は請け負った。
 相変わらず無理難題をお使い感覚で引き受けてくれる。
 こんな良い人は他にいない。

「一つ確認よろしいですか? 1年後に革命が起きて、処刑されるのですね?」

「さっきも言ったけど、シヴィル・リーグっていうのが革命を起こしてあたしを処刑するの。それで、民衆があたしがお米ばかり考えてたせいだって責めるから……」

「…………なるほど」

 普通は前世があっても未来から来たなど信じるわけがない。
 しかし、ジェーンの異常行動の説明としてはそれくらいが必要だと、相手は知っている。

 シヴィル・リーグという名称に覚えがないのではと心配だったが、心当たりがあったようだ。

「納得しました。1年後までに、具体的にはどういう経緯で何が起きるか……は知る訳がありませんね」

「そうね。それにもう今日から早速、本来の歴史とはぜんぜん違う出来事が起きていくでしょうから」

 研究室と農場の往復の日々なジェーンには、政治や民意がどう変化していくかなど知る由もない。
 取りあえずは、今日から行動をする。それが彼女の思考の基礎だ。
 格好良く言えばセントラルドグマと言ってもいい。

 窓から差し込む曙光が、これからのジェーンの未来を祝福してくれていたように見えた。
 そんな気がした。僕としてはそれで十分だ。
 動いて、できることをなんでもやって、少しでも処刑の未来を変える。
 僕にできることはないだろうが、応援はしたい。

「とりあえず世の中を良くする第一歩は踏めたわ! あとはシヴィル・リーグの活動をやめさせないと!」

「それは私に心当たりがありますから、お時間をいただいても?」

 ──驚いたね。どんどん話が進んでいく。

 思わず嘆息した。
 今は血の人形になっていないから、こちらの発言を聞けるのはジェーンだけ。

「でしょ。あたしらがいたらなんでもできるわ!」

「そうですね……」

 シンプルな受け答えで、何を話しているかの予測ができたらしい。
 眼鏡の位置を調整し、メイド長は小さく呟いた。

「シヴィル・リーグは私の知識では、強硬手段を取ることはしないはずでしたが……それに本来は、人々の未来と繁栄のために活動している慈善組織と言っても差し支えありません。事を構えるのは気が進まないのが正直なところです」

 彼女と件の組織は、何らかの因縁があるらしい。
 そこには躊躇いと、郷愁めいたものが垣間見えた。
 額を指で揉み、首を振って忠実な秘書同然のメイドが言った。

「彼らと貴女を比べると、貴女の方が人々を救える数は多いです。お手伝いいたします。もちろん」

 さっきまではジェーンの変化に動揺を見せていたシスマだが、事態が落ち着くといつもの鉄面皮になっていた。
 彼女の目はレンズの反射で隠れているが、細かな表情はわからない。

「それで? 焦らさないで言ってよ。さっき何かを提案しようとしてたでしょ」

「私のツテを使い、素質のある少年少女を集めて教育を施します。私が監督して、街の巡回もさせます。身寄りのない子どもたちなら、足もつきにくいです」

「良さそうじゃない!」

 それは人道的に大丈夫なのか?
 疑問に思ったが、あえて口を噤む。
 本当は子どもたちには、日々の楽しみと夕ご飯だけを考えながらすくすくと育ってもらいたい。

 残念ながら僕の世界でも、少年少女の治安維持チームはあった。
 しかも要所要所で、僕では成し遂げられない偉業を果たしていた。

「スゲーマンも何も言っていないなら平気ね!」

 違うけれども、そういうことにしておこう。

「あとは、貴女の婚約者に協力を求めます」

「ごめん聞いてなかったわ」

 聖女は耳を塞いで目を閉じた。
 夜が明け、小鳥の鳴き声が窓から聞こえてくる。
 美しい朝日が冷えた空気を暖めてくれる時間だ。

 こういう時、思いっきり道を駆けるとすごく気持ちいいのを僕は知っている。
 それをする術はないけれど。

「これはスゲーマン様にだけ聞こえれば良いことですが……」

 耳を塞いでイヤイヤ期に入ったジェーンを無視し、彼女は会話ができなくとも僕に語りかける。

「あなたは、これからどうするおつもりですか?」

 もちろん、ジェーン・エルロンドの前世として存在するだけだ。
 きっと僕の意識も、彼女がヒーローとして、大人として、一人の人間としてより成熟していけば、この記憶も意識も彼女と一つになる。
 想像すると不思議な気分だが、これはちょっとしたアディショナルタイムだ。

「恐らくですが、貴方はどうやっても今生の魂に溶けることはありません。それほどに貴方の自我はハッキリと確立されています」

 ……え?

「ですから、貴方は貴方としての生き方を考える必要があります」

 …………もっぱらジェーンの脳内にしか存在できないのに?
 せめて親友達もこの世界に転生してくれれば、たまの話し相手にはなったかもしれない。
 もっとも、ヒーローの親友も、ヴィランの幼馴染も、しょっちゅう僕を見ては殺そうとしに来ていたのだけれど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。 元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。 そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。 ​「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」 ​軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続! 金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。 街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、 初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊! 気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、 ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。 ​本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走! ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!? ​これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ! 本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

処理中です...