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第一章:どえれぇマッチョになってた異世界帰りの妹を兄はどのようにして受け入れたか
妹の異世界転生初日
しおりを挟む【四】
【志紀のオリジン】
異世界に飛ばされた志紀の目前に広がっていたのは、広く、果てしない地平線だった。
空には竜が飛び交い、地上には巨大な野獣が闊歩している。
第一に、志紀の胸に浮かんだ思考は『これは夢?』というものだった。
だが、まだ自我が確立しきっていない志紀には、現実逃避以外にもすることがあった。
「お兄ちゃあーーーーーん!!」
ここへ来るまで追いかけていた兄の名を、声の限りに呼ぶ。
まだ幼い彼女にとって、兄を追いかけるのは当然であり、愛するのもまた当然のことだった。
「貴女の知る何者も、ここにはいません」
声の主は、筋骨隆々で、まるで岩そのもののような色の肌をした巨漢だった。
耳は尖り、目は血走っている。だが、少女の世界で言う眼鏡に酷似した装身具をかけているため、どこか理知的にも見えた。
大人なら悲鳴をあげていたであろう姿だが、志紀は幼く、ただぼんやりと見上げていた。
「お待ちしておりました、新たな姫君よ。
定めに従い、我らを導き、お救いください」
そう言って、その生き物は志紀の前で跪いた。
頭を垂れ、女王に仕える臣下の構えを取る。
幼い志紀には意味がわからず、首を傾げて目を丸くする。
「……なんのこと?」
純粋な疑問を投げかけても、巨漢――彼女のいた世界の人間とは明らかに異なる外見の男は、面を上げない。
「じきに、わかります」
「おじさん、だあれ?」
「ギリーとお呼びください」
「……うちに、帰りたい」
「それは……」
ギリーと名乗った巨漢の言葉を、地響きが遮った。
遠方から砂埃が立ち上り、テレビでさえ見たことのない獣の群れが迫ってくる。
動物園で見る生き物とはまるで違う──こちらを殺そうとしている獣の気迫。
翠の岩肌を持つギリーは無機質な外見をしていたが、獣たちは細部こそ異なるものの、志紀の知る生き物と通じる何かを持っていた。
「あれ……なに……?」
「魔王ライゼン=グロアブルの軍勢です」
志紀五人分はあろうかという巨大な戦斧を振るい、ギリーは飛びかかってきた双頭の狼を一撃で斬り伏せた。
次々と牙を剥く獣──後に志紀が魔獣と呼ぶことになる存在から距離を取るため、
ギリーは志紀を片手で抱え上げ、疾走する。
「奴らの邪悪さ、凶暴さを、その目に焼き付けておきなさい。
奴らの首魁こそが魔王!
我らを虐げ、殺し、哄笑する残酷の極み!
あらゆる悲劇の源なのです!!」
理知的な口調はそのままに、少女には無縁だった激しい憎悪と怒りが、言葉となって溢れ出す。
少女に、魔王など理解できるはずもない。
兄から引き離され、ギリーと名乗る巨大な生物に跪かれ、
知らない怪物たちに追われる。
わけも分からぬまま、罅割れた肌をしたギリーの肩に必死にしがみつき、
少女は迫り来る存在から目を離すことができずにいた。
これが──
異世界転生を起点として、二十年間にわたって続く進藤志紀の戦い、その最初の日だった。
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