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第二章:彼は如何にしてワンダーウーマンみたいなマッスルボディに兄としての強さを見せつけたか
魔王とは初対面
しおりを挟む【六】
【志紀のオリジン】
異世界に来た進藤志紀は十八歳になり、子供の頃とはまるで違う見た目になった。
初めて武器を握ったのは八歳になってから。
単独でドラゴンの首を跳ねたのは十三歳の頃。
ずっと戦い、ずっと屠ってきた。
十年前も五年前も、やることはただ戦い。
みんながそれを望み、挙げた首級を誇れば褒めてくれる。
姫戦士と尊ばれ、その通りに戦う日々は、志紀に選ばれし者としての自覚と自負を育んだ。
二つの太陽が高くから赤土を焼き、戦の怒号と罵声が鳴り止まない。
一つ目のサイクロプスの目を潰し、手首をスナップさせて切り払って敵の首を跳ねる。
希望の光、姫戦士として、魔王打倒の旗印にされた進藤志紀は、立場や象徴性を上回る実力をめきめきとつけていった。
ロングソード一振りで揚げてきた首級は数知れず。
長きにわたって戦連国の驚異となっていた。
地平線まで続く魔獣の亡骸。
血生臭い戦場で場違いなそよ風が吹く。
冷たい風が血と脂を乗せ、濃い臓腑の臭いが鼻孔を満たした。
周囲の魔獣を倒しきると、いつも浴びせられる無知性の殺気とは別のものを察知した。
鼬の頭部を持つ二足歩行の獣人が、薄刃の剣を携えている。
進藤志紀が知る由もないが、日本刀だった。
着流しに袴を羽織った鎌鼬の双眸には、常の魔獣と同じく知性・理性らしきものはない。
だが、その技術は凄まじい巧みさであった。
血にぬかるんだ大地だろうと、まるで乱れることなく疾走し、目視が困難な速度で刃を奮ってくる。
両手で剣を握り、正面に構える志紀の体に、深手ではないが裂傷が刻まれていく。
新手は養親ギリ―とほぼ同レベルの実力者。気を抜けば一瞬で首が飛ぶ。
だが、この闇雲に剣を振るという魔獣のやり方の愚かさを、志紀はギリーから教わっている。
故に、勝機を見出すまでひたすら耐えることを選ぶ。
魔獣には時にこういった凄腕が現れ、将として襲いかかってくるものだ。
魔王軍の将に共通しているのは、神出鬼没で、ひたすらにこちらの命を追ってくるということ。
そして、極めて高い戦闘技術を有していることが多いということ。
まだ若き少女の、シルクの滑らかさを持つ細い首に線が入る。薄皮一枚を斬られただけだ。
チクリという痛みはすでに慣れた日常であり、これ以外の生き方をしてきた過去はほとんど覚えていない。
その体から立ちのぼる血と熱の匂いだけが、生きている証のようだった。
今の彼女が優先するのは、相手が間合いの深みに入る瞬間。
こちらにとっても手が届く範囲に来るタイミング。
敢えて残してある死角にて、機械的なリズムで血臭が消えた。
目では追えていないが、超近距離に敵が入ったのがわかる。
姫戦士は剣を地に突き刺し、フリーになった両手をぴんと伸ばす。
そして、両腕を後ろに振りかぶって勢いよく前方に戻した。
猛烈な柏手を打つと、巨大な風圧が生まれ、あたりに広がる。
「《世界を語る52の言葉》、炎嵐」
手から出る衝撃波に炎が混ざる。
頑張って修めた魔術。
肉弾戦と比べると、かなり苦労して身につけた技。
これまでの動きで重さがないと睨んでいた通り、鎌鼬が停止し、宙に浮かんだ。
毛並みには粘着質の炎が纏わりつき、全速力を出されても熱源で探知しやすくなった。
この機会を逃さず、相手の首に貫手を放つ。
首に中指と人差し指が深々と刺さった。
巨大な血塊を吐いた鎌鼬が痙攣する。
敵の命を奪うことに、志紀はさしたる感慨もない。
畑を荒らす害獣を駆除するのは仕方のないことであり、魔獣は動物以上に心が見えない。
ところが今回は珍しいことに、息絶える間際に鎌鼬が言葉を漏らした。
「すまなかった」
こちらに対して言ったのかと思ったが、鎌鼬の目線を追うと、いつのまにか鎌鼬と似た出で立ちの少女が近くの岩に腰掛けていた。
「えっ!?」
人間。自分と同じ種族。
柔らかな肉。ゴツゴツギザギザの外殻ではない。
初めて見た同族──そんな気分だった。
それなのに、その体温、互いに触れ合ったところを想像しても、胸が温かくなることはなかった。
魔獣と相対する時と同じく、冷めきった感情だけだった。
何故か懐かしいという気持ちはない。
普段話す珪素生物とは根源から別の種族を見た感覚は、いつも戦う魔獣との遭遇と似た気分だった。
「あなたは……」
そう言った志紀の前で、少女の姿が掻き消える。
ぎょっとしている間に、手元から魔獣が奪われた。
離れた地点で姿を表した少女は、鎌鼬の亡骸を抱きかかえていた。
紛れもなく、さっきの鎌鼬とは比べ物にならない速度。
あれだけの加速力を今ぶつけられては、反応することは絶対に不可能。
「おやすみの挨拶をしてるから、ちょっと邪魔しないでくれる?」
その言葉に敵意はない。だが油断もできない。
自分と同じ種族の姿形をした者は初めて見たが、新手と判断して剣先を向ける。
強いノスタルジーを引き出す雰囲気を持っている顔立ちに、志紀は眉を寄せたが、それで剣を緩める気はない。
「魔王軍ね?」
珪素生物ではない。血肉骨で構成された生物。
それは魔王軍にしかいない。魔獣だ。
けれども、相手には明確に意識があり、言葉を操ってもいる。
鎌鼬と親しい間柄なのもわかる。
それは理性のない魔獣とは違う。
何者なのか。
志紀はこの少女の正体に対して全力の注意を払った。
まさかとは思うが、彼女が長年追い求めてきた“怨敵”だとすれば、この場でなんとしても殺さなければ。
自分を信じてくれる仲間のために。
希望を背負う姫戦士はそう思った。
「そうだよ。魔王軍、君たちが言うやつね。まーおーぐん。
言葉を話すのは百年ぶりかもしんないよ。喋るのって楽しいねえ」
一人で口の中で言葉を転がしている。
少女の腕の中で、鎌鼬が光の風に解けて消えていく。
跡形もなく宙に溶ける様を、少女は黙祷して見送った。
それからつまらなさそうに伸びをし、今度は志紀の近距離に移動した。
間近で顔を見たことで、この新手は志紀よりも若いのがよくわかる。
幼さすら見える謎の存在は、人差し指で志紀の剣先をなぞった。
「せっかくだから、こっちで殺してあげれば良かったのにね。
手柄として、わかりやすいでしょ」
重心が上下しない、滑るように動く歩法で前に出る。
だが、姫戦士の武器は、正体も掴めない一撃で容易く両断された。
相手の手には、鎌鼬と同じ日本刀がある。
その口には、そらぞらしい笑みが貼り付いていた。
「あたしは魔王ライゼン=グロアブル」
認めたくはないが、この日、この瞬間に、進藤志紀はこの世界でただ一人の、同郷の友と出会った。
「死に別れるまで仲良くしよ?」
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