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さぁ冒険に出てみよう編
第37話 一方その頃母国では(6) ~届いた手紙にシンは笑う~(1)
しおりを挟む「フンッ、ちゃんと送って来たみたいだな?」
自室の書斎で座りながら呟くようにシンは言った。
ここ最近では珍しく上機嫌に口角を上げていると、初老の執事から「楽しそうでなによりです」と言われてしまう。
おそらく最近の不機嫌を遠回しに窘めているんだろう。
が、シンとしては周りが思わず「仕方がないだろ」と言いたくなる有様なんだから仕方がない。
シンが不服に思っているのは、家ではなく王城内の空気である。
アルドが追い出されてから今日まで連日、王城内では『アルドが居なくなって良かった派』と『アルドが居なくなって困る派』に二極化された話が出回り、空気も「良くない」を通り越してむしろ悪い。
噂自体に関しても、シンにとっては前者は無条件に耳障りで、後者に関しては「引継ぎもせずに国を出られて迷惑だ」などと言っているヤツが居る。
一部の自分の無能を棚に上げて。
「そもそもアルドが『調整役』に収まったのは、お人好しが過ぎたからでしかない。本来のアイツの仕事は『監督役』だけだったんだからな。それを、プロジェクト開始当初だけならともかくとして、動き出した後まで『おんぶにだっこ』だからこんな事になる」
本来ならば、『監督役』が居なくなったところで止まってしまう仕事場がおかしい。
確かに必要以上を請け負ったアルドにも非はあるのかもしれない。
が、その恩恵に与っておきながら指導後にも誰一人としてその仕事を巻き取ろうとせず、いざ居なくなったらそれだけを非難するなんて、なんて理不尽なんだろう。
惜しむだけなら分かるものの、そこまで来ると腹が立つのは当たり前だ。
「そもそもアイツら『自分がやろう・やらなければならない』っていう気概が足りてないんだよ」
しかも、だ。
そうやってアルドの事は悪者にするくせに、後任に収まった筈のグリントの怠慢については口出しをしないんだ大抵は。
「シン坊ちゃま? またイライラし始めましたな? 心の機微に関してはある程度仕方がありませんが、またペンを折ってしまわれては――」
執事に窘められてシンはハッとした。
最早癖になっている、書斎に座るとペンを持つという動作。
それを今回も無意識にやっていた上に、そのペンが手の中でミシリと軋んでいたんだから我にも返るというものだ。
「ふぅ」と深く息を吐き、自分の心を落ち着ける。
もうアルドが居なくなってから19本もペンを折ってる。
執事が苦言を呈するだけの事はあるのだ。
それに。
(せっかく手紙が来たんだから、こんな気持ちで読むのは良くない)
そんな風に思ったところで、紅茶の香りがふわりと鼻孔を柔らかく掠めた。
見ればちょうど執事が彼に淹れたばかりの紅茶を差し出したところだ。
それを一口飲んでから、シンは手紙に目を落とす。
封筒は実に簡素だった。
裏を返せば無紋のシーリングスタンプと、宛名には『アルド』とただそれだけ。
それを見て、改めて「あぁアイツはもう王子じゃなくなったんだな」と実感した。
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