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第1話 聖女様がした、究極の選択(2)
しおりを挟む場所は聖堂、祈りの間。
そこは物理的に『聖女』以外の者が入れない場所であり、それが『聖女』が必要な一つの所以でもある。
<汝、『闇』を欲するか>
一体誰が作ったのか、ボタンの前の石碑にはそんな言葉が刻まれていた。
それは間違いなく『聖女』への問いだ。
その問いに、きっと歴代の聖女達は「No」と答えたのだろう。
だからこそ、今も世界は此処に在るのだろうから。
『闇』の正体には、すぐにピンと来た。
この国では至極有名な話だ。
曰く、「ある日突然『闇』が世界を覆った。それを封印せしめたのが、初代『聖女』である。彼女はひかりの彼方に消え、その後2度と戻っては来なかった」。
そう、それこそが『聖女』の存在意義なのだ。
『聖女』とは、『闇』を封印するために選ばれてそれを成し遂げる者の事である。
自らの命を犠牲にして。
つまり国も教会も民達も、みんな私に「死ね」と言ってここに送り込んだのだ。
勿論「天上に昇る」なんて、綺麗な言葉で飾ってはいたが。
「そんなの、自分の醜い心を自覚したくない人たちの綺麗事よ」
だって彼らはみんな、安全なところから誰かがどうにかしてくれるのをただ待っているだけなのだから。
両親は両手(もろて)を上げて『聖女』の誕生を喜び。
王や貴族は口を揃えて私に「使命を成せ」と言い。
教会は「名誉な事だ」としきりに羨ましがり。
そして民衆は『聖女』という存在を崇拝しながらも、それをどこか遠い世界の御伽噺だと思っている。
そうやってみんな、犠牲の上に成り立つ幸せを当たり前のように享受しているのだ。
そんな狂った世界に、なぜ私が命をかける必要があるのだろう。
「みんなの幸せのため」?
バカを言え。
その『みんな』に私が入っていない時点で、それは決して正しく『みんな』ではない。
そうやって、きっと今までの『聖女』も殉教してきたのだろう。
そんな過去の真実さえ真正面から見ようとしない連中に、どうして命を捧げられる。
「……あぁ。こんな世界、どうにかなってしまえばいいのに」
気が付けば、ボタンに手が掛かっていた。
もしも『闇』を欲するのなら、その願いと共にこのボタンを押せ。
この石碑とボタンが、そういう意味の代物だと、知りながら。
こうして『闇』はーー解き放たれた。
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