5 / 5
5.昔々、そして……
しおりを挟む
昔々、魔導士が増え続けることを憂う一人の男がいた。名はグーレア。
このままではマナは吸い尽くされ、世界の全てが枯れることは自明の理。男はその手前刹那、世界中のマナを七つの魔石に封じ込めた。
其れすなわち赤、橙、黄、緑、藍、紫、そして青の魔石。
魔石はそれぞれに意思を持ち、物や動物、時に人に寄生しながら今も世界のどこかで存在する。
「僕はね、アレン。グーレアの意思でジゼルに引き合わされたんだ」
牢屋の中に捕えられていた魔女ジゼル。災厄などと呼ばれたのは彼女の悪しき性質ではなく、周りの魔力を勝手に吸い上げてしまうという生まれながらの体質の為だった。
「ジゼルはとても優しい子だったよ。可哀想に。僕と融合する時、彼女は痩せきっていて餓死寸前だったんだ」
ユアはジゼルを憐れみ慈しんでいる。少なくとも彼女を苦しめた人間よりは。
「魔導士たちは今世界を制圧しながら七つの魔石を集めてる。どれだけ彼らの手に渡ったのかは分からないけど、この森にも何度もやって来たよ」
背中に受けた深い傷が痛み、アレンが顔をしかめた。ユアは傷口にそっと手を添え、青い光を落とす。
「僕は人間の都合で捕まる気はない。それからジゼルの体を返すつもりもね。……はい、ってわけで、これで世に隠された真実の昔話も治療も終わりだよ」
黙って聞いていたアレンはユアの膝の上に頭を乗せたまま仰向けになり、垂れ落ちる前髪に手を伸ばした。
「ユア、というのは偽名だったのか」
「元々僕に名前なんてないからね。アレンに聞かれた時たまたま足元にユアリスの花が咲いてたから適当に答えただけ」
「ユア自身は男なのか?」
「魔石に性別なんてないよ。ジゼルの姿を隠す為にあえて男にしてるだけ」
「そうか」
「もういい?そろそろどいてくれるかな」
いつまでも動こうとしないアレンの頬を、ユアがぺしぺしとたたく。
「よし、決めた。決めたぞ」
「うん?」
「俺が横暴な魔導士たちを制圧、管理し、七つの魔石を集める。そして全ての色をこの世に取り戻す」
ユアはぽかんと口を開き、アレンの額に手を添えた。
「ちょっと治癒の光に当てすぎたかな?」
「別に熱などないぞ」
「そんなこと本気でできると思ってるの?」
「俺は全てを失った。だからこそ世に踏み出すべきだとは思わないか」
「はいはい、じゃあご勝手に」
アレンの頭をゴンと地面に下ろし、ユアは服の汚れを払いながら立ち上がる。
光が途絶えたランプの杖を肩に寄せていると、背後から逞しい腕に抱きすくめられた。
「ちょっと」
「他人事にするな。お前も一緒だ」
「はぁ?」
「言ったはずだ。俺はユアが欲しいと」
「ない、記憶にないない」
「では心から惚れた青い光にもう一度跪こう。俺はユアが……」
「やめてぇ!こわいこわい」
無情に魔導士たちを葬った青の魔石が本気で身震いしている。
アレンは堪らず吹き出し、実に久しく腹の底から笑った。
*
七つの魔石を従え世界の形を変えた王、アレン・リザード。その銅像は二百年後の今も磨かれ続けている。
王の愛した青い光が、王が果てる最後の時まで寄り添い続けたのは有名な話だ。
ただ二人の愛が如何なる形であったのかは明確には記されず、高く澄んだ青い空と、色鮮やかな世界のみが密やかに知るのであった。
—— END ——
このままではマナは吸い尽くされ、世界の全てが枯れることは自明の理。男はその手前刹那、世界中のマナを七つの魔石に封じ込めた。
其れすなわち赤、橙、黄、緑、藍、紫、そして青の魔石。
魔石はそれぞれに意思を持ち、物や動物、時に人に寄生しながら今も世界のどこかで存在する。
「僕はね、アレン。グーレアの意思でジゼルに引き合わされたんだ」
牢屋の中に捕えられていた魔女ジゼル。災厄などと呼ばれたのは彼女の悪しき性質ではなく、周りの魔力を勝手に吸い上げてしまうという生まれながらの体質の為だった。
「ジゼルはとても優しい子だったよ。可哀想に。僕と融合する時、彼女は痩せきっていて餓死寸前だったんだ」
ユアはジゼルを憐れみ慈しんでいる。少なくとも彼女を苦しめた人間よりは。
「魔導士たちは今世界を制圧しながら七つの魔石を集めてる。どれだけ彼らの手に渡ったのかは分からないけど、この森にも何度もやって来たよ」
背中に受けた深い傷が痛み、アレンが顔をしかめた。ユアは傷口にそっと手を添え、青い光を落とす。
「僕は人間の都合で捕まる気はない。それからジゼルの体を返すつもりもね。……はい、ってわけで、これで世に隠された真実の昔話も治療も終わりだよ」
黙って聞いていたアレンはユアの膝の上に頭を乗せたまま仰向けになり、垂れ落ちる前髪に手を伸ばした。
「ユア、というのは偽名だったのか」
「元々僕に名前なんてないからね。アレンに聞かれた時たまたま足元にユアリスの花が咲いてたから適当に答えただけ」
「ユア自身は男なのか?」
「魔石に性別なんてないよ。ジゼルの姿を隠す為にあえて男にしてるだけ」
「そうか」
「もういい?そろそろどいてくれるかな」
いつまでも動こうとしないアレンの頬を、ユアがぺしぺしとたたく。
「よし、決めた。決めたぞ」
「うん?」
「俺が横暴な魔導士たちを制圧、管理し、七つの魔石を集める。そして全ての色をこの世に取り戻す」
ユアはぽかんと口を開き、アレンの額に手を添えた。
「ちょっと治癒の光に当てすぎたかな?」
「別に熱などないぞ」
「そんなこと本気でできると思ってるの?」
「俺は全てを失った。だからこそ世に踏み出すべきだとは思わないか」
「はいはい、じゃあご勝手に」
アレンの頭をゴンと地面に下ろし、ユアは服の汚れを払いながら立ち上がる。
光が途絶えたランプの杖を肩に寄せていると、背後から逞しい腕に抱きすくめられた。
「ちょっと」
「他人事にするな。お前も一緒だ」
「はぁ?」
「言ったはずだ。俺はユアが欲しいと」
「ない、記憶にないない」
「では心から惚れた青い光にもう一度跪こう。俺はユアが……」
「やめてぇ!こわいこわい」
無情に魔導士たちを葬った青の魔石が本気で身震いしている。
アレンは堪らず吹き出し、実に久しく腹の底から笑った。
*
七つの魔石を従え世界の形を変えた王、アレン・リザード。その銅像は二百年後の今も磨かれ続けている。
王の愛した青い光が、王が果てる最後の時まで寄り添い続けたのは有名な話だ。
ただ二人の愛が如何なる形であったのかは明確には記されず、高く澄んだ青い空と、色鮮やかな世界のみが密やかに知るのであった。
—— END ——
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする
藤原遊
ファンタジー
魔法を使わない魔術師は、役に立たない。
そう判断した王国は、彼女を「不要」と切り捨てた。
派手な魔法も、奇跡も起こさない。
彼女がしていたのは、魔力の流れを整え、結界を維持し、
魔法事故が起きないよう“何も起こらない状態”を保つことだけだった。
代わりはいくらでもいる。
そう思われていた仕事は、彼女がいなくなった途端に破綻する。
魔法は暴走し、結界は歪み、
国は自分たちが何に守られていたのかを知る。
これは、
魔法を使わなかった魔術師が、
最後まで何もせずに証明した話。
※主人公は一切振り返りません。
嘘はあなたから教わりました
菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる