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《夏だから君を》
【碧人:雨のせい】
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「凛!こっちこっち!」
「でも正門はあっちだろ⁉︎」
「いいから!」
視界すら奪う攻撃的な雨の中を急いで走る。
どうせこれは通り雨だ。
それなら校舎に向かって玄関前の屋根の下でやり過ごせばいい。
跳ね返る泥水も構わず走り抜けていると、一瞬視界が真っ白になった。
次に轟いたのは耳が壊れそうなほどの雷鳴だ。
「うわっ」
「うっ!」
反射的に身を縮めながら屋根の下へと滑り込む。
「凛、大丈夫か⁉︎」
「あ、うん。びっくりしただけ」
「咳は?」
「出てない」
俺はスポーツバックを開けると奥に入れていたタオルを引っ張り出した。
凛を引き寄せ、ぐっしょり濡れた頭をガシガシと拭く。
「ちょっ、それ、めっちゃお前の汗拭いたタオルじゃねぇの⁉︎」
「失礼だな。これは今日使ってません。俺はいつも三枚入れてるの」
「うぶっ、か、貸してくれたら自分で拭くって!子どもじゃないんだし!」
確かに、言われてみればそうだ。
凛はちょうだいと手を差し出したが、捨て猫みたいに濡れながら見上げられると何故かタオルを手放せなくなった。
「碧人?」
「……やだ」
「は?」
「俺がふく」
「なんで⁉︎」
なんで。
なんでだろう。
でも、なんかここは譲れない。
「あ、そうだ。じゃあこれがジュースの代わりでいいや」
「ジュース?」
「勝者のご褒美って事。ほら、大人しく上向いて上。肩と首のところまだびしょ濡れ」
「んん?」
凛はまだ不納得そうだったが、俺は構わずに襟首を丁寧に拭いた。
うわ、凛が近い。
目が大きいと思ってたけど、睫毛も長いからかな。
そんな気使って息我慢しなくてもいいのに。
俺がくすくす笑っていると、上向きながら目をつぶっていた凛がそっと片目を開いた。
「何で笑ってんだよ。もういいの?」
「まだ。最後にもう一回頭拭く」
凛の頭にタオルをかけてやり、両手で包み込む。
その途端、また激しい光が迸った。
「うっ、くる!」
続く雷鳴に備えて凛がぎゅっと目を閉じる。
腹まで響く音が、叩きつける雨を切り裂き世界を震わせた。
その時、自分が何をしたのかよく分からなかった。
気が付いたら凛にドンと体を押しのけられていた。
「な、え、あ、碧人……?」
凛はトマトみたいに真っ赤になり、手の甲で口元を隠している。
あ。
まずい。
今、俺何した?
「えーと?」
「えーと、じゃないよな⁉︎なっ、何だよ、今の!」
「……何だろう?」
「何だろうじゃないよな⁉︎」
うわ。
凛、かわい……じゃなくて、この場を何とかしないと。
それにしても手を出すの論外とか言ってた俺の理性さん、雷に乗じて逃げるの速スギィ。
どうするんだこの空気。
俺は少し考えてから、「そうだ」と手を打った。
「分かった、夕立ち」
「は……?」
「今のはこの夕立ちと同じだ。突然降って、何事もなく過ぎる」
「ん、んん?」
「まぁだから、何も気にするなってこと」
強引に打ち切って話を終わらせる。
俺があまりにも平然としているせいか、凛はまだ混乱しながらも「そうなのか?」と首を傾げている。
ごめん、凛。
今はそういうことにしておいて。
夏に弱る凛を揺さぶりたいと願ってしまったことは、ちゃんと隠しておくから。
まだ降り止まぬ雨の中で、俺は速まったままの鼓動を無視しながら凛と空を見上げていた。
— 夏だけど君は 了 —
「でも正門はあっちだろ⁉︎」
「いいから!」
視界すら奪う攻撃的な雨の中を急いで走る。
どうせこれは通り雨だ。
それなら校舎に向かって玄関前の屋根の下でやり過ごせばいい。
跳ね返る泥水も構わず走り抜けていると、一瞬視界が真っ白になった。
次に轟いたのは耳が壊れそうなほどの雷鳴だ。
「うわっ」
「うっ!」
反射的に身を縮めながら屋根の下へと滑り込む。
「凛、大丈夫か⁉︎」
「あ、うん。びっくりしただけ」
「咳は?」
「出てない」
俺はスポーツバックを開けると奥に入れていたタオルを引っ張り出した。
凛を引き寄せ、ぐっしょり濡れた頭をガシガシと拭く。
「ちょっ、それ、めっちゃお前の汗拭いたタオルじゃねぇの⁉︎」
「失礼だな。これは今日使ってません。俺はいつも三枚入れてるの」
「うぶっ、か、貸してくれたら自分で拭くって!子どもじゃないんだし!」
確かに、言われてみればそうだ。
凛はちょうだいと手を差し出したが、捨て猫みたいに濡れながら見上げられると何故かタオルを手放せなくなった。
「碧人?」
「……やだ」
「は?」
「俺がふく」
「なんで⁉︎」
なんで。
なんでだろう。
でも、なんかここは譲れない。
「あ、そうだ。じゃあこれがジュースの代わりでいいや」
「ジュース?」
「勝者のご褒美って事。ほら、大人しく上向いて上。肩と首のところまだびしょ濡れ」
「んん?」
凛はまだ不納得そうだったが、俺は構わずに襟首を丁寧に拭いた。
うわ、凛が近い。
目が大きいと思ってたけど、睫毛も長いからかな。
そんな気使って息我慢しなくてもいいのに。
俺がくすくす笑っていると、上向きながら目をつぶっていた凛がそっと片目を開いた。
「何で笑ってんだよ。もういいの?」
「まだ。最後にもう一回頭拭く」
凛の頭にタオルをかけてやり、両手で包み込む。
その途端、また激しい光が迸った。
「うっ、くる!」
続く雷鳴に備えて凛がぎゅっと目を閉じる。
腹まで響く音が、叩きつける雨を切り裂き世界を震わせた。
その時、自分が何をしたのかよく分からなかった。
気が付いたら凛にドンと体を押しのけられていた。
「な、え、あ、碧人……?」
凛はトマトみたいに真っ赤になり、手の甲で口元を隠している。
あ。
まずい。
今、俺何した?
「えーと?」
「えーと、じゃないよな⁉︎なっ、何だよ、今の!」
「……何だろう?」
「何だろうじゃないよな⁉︎」
うわ。
凛、かわい……じゃなくて、この場を何とかしないと。
それにしても手を出すの論外とか言ってた俺の理性さん、雷に乗じて逃げるの速スギィ。
どうするんだこの空気。
俺は少し考えてから、「そうだ」と手を打った。
「分かった、夕立ち」
「は……?」
「今のはこの夕立ちと同じだ。突然降って、何事もなく過ぎる」
「ん、んん?」
「まぁだから、何も気にするなってこと」
強引に打ち切って話を終わらせる。
俺があまりにも平然としているせいか、凛はまだ混乱しながらも「そうなのか?」と首を傾げている。
ごめん、凛。
今はそういうことにしておいて。
夏に弱る凛を揺さぶりたいと願ってしまったことは、ちゃんと隠しておくから。
まだ降り止まぬ雨の中で、俺は速まったままの鼓動を無視しながら凛と空を見上げていた。
— 夏だけど君は 了 —
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