夏だから君を

うづきあお

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《冬だけは君も》

【碧人:新年】

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ずっと気にしていた。
ずっと引っかかっていた。
凛は本当は、俺といる事は苦痛な時もあるんじゃないかって。
……でも。
ちゃんと俺を見て、本音を話してくれた。
顔色を失い震えながらも。
何だか愛おしさがそこはかとなく溢れて、気が付けば凛を労るように抱きしめていた。
時刻は二十三時四十五分。
一年が終わろうとしているのに、困ったことにこの手はまだ煩悩にまみれたままだ。

「俺、凛が好きだ。それはたぶん恋愛感情の好きだと思う」
「……嘘だ」

腕の中で凛が身を縮める。

「だって碧人、彼女いたじゃん」
「うん。正直に言うとキスもしたしそれ以上もしたよ。でもさ、やっぱりどこか気持ちがついていかなくて別れた。ってかフラれたんだけど」

何度か言われた、貴方は誰を見ているのか分からないという言葉。

「俺だって分からなかったんだよ。自分が本当は、誰が好きなのかなんて」

凛の顔を上げさせ薄い瞼に唇を寄せる。
それから耳にじゃれるように甘噛みすると、凛は俺の肩を押した。

「ま、待って」
「いやだ」
「うぅ、出たなイヤイヤ期!」
「だって俺が甘えられる相手って凛しかいないし」
「うわ、それ今めちゃくちゃ卑怯!」

凛は動揺が隠しきれず、逆に俺にしがみついている。
俺は凛のサラサラな黒髪に指を絡め、よしよしと頭を撫でた。

「嘘。これ以上は何もしないよ。無理矢理してもしょうがないし、凛には嫌われたくない……って、もう遅い?」

にゃーにゃーと、戻ってきた二匹の猫が真っ赤なまま放心している凛にまとわりつく。
俺はココだけ引き取ると、凛が戻ってくるまで少し離れて大人しく待った。
凛はやっと動いたかと思うと、こたつ布団を引き寄せながらしどろもどろ言った。

「碧人は、さ。俺と、その、どうしたいの?」
「えっ」
「好きって言われるのは正直嫌じゃない。でもそれ以上って全然分からなくて。だって男とか女とか抜きにしても、誰かと付き合うなんて考えたこともないし……」

……もう無理。
ほんと可愛い。
前言撤回して押し倒したいくらい可愛い。

「えっと、俺は凛とちゃんと付き合えたら嬉しいけど」
「だから付き合うって今までと何が違うんだよ」
「全然違うけど。他の人と絶対しないスキンシップとかするし」
「キスとか?」
「え、う、うん」

凛の口から言われて僅かに動揺する。
凛は頭を抱えるとコタツに突っ伏した。

「ごめん。やっぱ全然分からない。想像もつかない」
「まぁ、そうだよな」
「でも」

少し顔を上げ、大きな目がちらりと俺を見る。

「碧人が他の誰かと、女の子ならまだしも、男とそんなことしてるのは、ちょっと嫌かも」
「……そりゃそう、だよな。やっぱ嫌いになった?」

取り繕った笑顔で出来るだけさらりと言う。
でもやばいな。
結構、きつい。
凛は首を横に振ると更にしどろもどろ言った。

「そうじゃなくて。た、たぶん、もっと単純な意味で」
「え」
「だって俺だって碧人が……す…き、だし?」

聞き取れないくらい語尾が小さくなる。
凛はこれ以上ないくらい真っ赤になりながら続けた。

「嫌いになんてなれるわけないじゃん。これで碧人がいなくなったらどうしようって、今そればっかりで。ごめん、勝手なこと言ってるのは分かってるんだけど」

俺は、何だか泣きたくなった。
凛は混乱しながらもちゃんと考えてくれている。
俺を傷つけないように。
それから、この先も二人で一緒にいられるように。
笑って誤魔化そうとした俺とは正反対だ。
脱力して今度は俺がコタツに突っ伏せる。
ニコとココが肩に乗り、頭に乗り。

「ごめん、俺……」
「頼む。もう謝んないで。凛は何も悪くないんだから」
「……うん」
「あの、さ。じゃあ待っててもいい?」
「え?」
「凛の心の準備というか、整理がつくまで。もし凛がやっぱり無理だって言うなら仕方ないけど」

言いかけてハッとする。
そうじゃない。
こんな言い回しは優しさなんかじゃないって、凛に怒られたんだった。
俺は背筋を正すともう一度言い直した。

「えと、俺はフラれるまで諦められないので、凛が振り向いてくれるようにこれからも頑張ります。勉強教えて欲しいなら見るし、バスケがしたいなら相手になるし、時間がある限りそばにいたいと思います。どうなろうと結果はその時に受け止めます」

凛は目をまん丸にすると、急に吹き出した。

「な、なに?」
「いや、だって、なんでそんな宣誓みたいなの……。それにそれってもうただ俺に甘いだけだし」
「え?だって俺に出来るのってそれくらいだし」
「でもなんか今のでちょっとふっきれたかも」

凛は、はにかみながらも最高に可愛い顔になった。

「俺は、手強いかもよ?」
「え……?」
「だってこんなの初めてだからどうすればいいのか全然分からないし、たぶんすぐには応えられない。碧人にとっては時間の無駄になるだけかもしれないけど、それでもいいの?」

駄目だ。
びっくりするくらいキュンときた。
凛が出した充分すぎる返事に、僅かに鼓動が速くなる。
それからじんわりと広がった安堵感に自然と笑みが浮かんだ。

「俺は、手が早いかもよ?」
「えっ」
「だって凛、遠回しにアピールしても鈍そうだし、口説いていいって許可ももらったし」
「だってさっき、これ以上は何もしないって……」
「無理矢理はしないってば」

にこにこ言う俺に、凛はちょっと早まったかも?みたいな顔をしている。
せっかく凛が守ってくれたこの関係を無闇に壊すわけはないけどさ。
いつの間にか時計はとっくに午前0時過ぎを指している。
俺は猫二匹を抱えたまま頭を下げた。

「あけましておめでとう。今年もよろしく」
「え、あ、ほんとだ。もう明けてるじゃないか!俺碧人とカウントダウンする気満々だったのに!」
「カミングアウトしてたからなぁ」
「何上手いこと言ってるんだよ!えーと、今年もよろしくお願いします!」

目が合うと互いにちょっぴり照れを隠しながらへらりと笑う。
猫とじゃれあう凛の隣で、俺はきっとこの日のことは一生忘れないだろうなと何となく思った。




ー 冬だけは君も 了 ー
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