夏だから君を

うづきあお

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《蝶に堕ちる》

【碧人:劣情】

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俺は言った。
ちゃんと言った。
今日は泊まっても、本当に大丈夫なのかと。
いくら鈍い凛でも、あれだけ態度で示せば俺の意図くらい正しく理解しただろう。
それでも「帰れ」とは言わなかった。
なぁ、凛。
その意味分かってる?
今凛が安心して身を委ねてるこの両手は、いつもとは違うんだよ。

「今日、一緒に風呂入る?」

二人しかいないリビングで、温められたカレーを頬張りながらにこやかに提案する。
凛は分かりやすくむせた。

「な、なんで⁉︎」
「この前凛が誘ったじゃん」
「いや、この前は、だって今と状況が全然違うし!」
「違うけど、今日は誰もいないんだろ?」

いつもより一歩攻め込んでみる。
ずっと凛の歩幅に合わせてきたけれど、今日くらいはいいかな。

「やっぱり駄目。なんか碧人、すごく見てきそうだし」
「あれ、バレてる」
「あのなぁ……」
「凛、肌白くて綺麗だしさ。全部見てみたい」
「はぁ⁉︎」

手からスプーンが落ちるとか、さっきから反応が古典的すぎてつい笑ってしまう。
凛は真っ赤な顔で、拗ねたようにお茶を引き寄せた。

「俺のこと、からかって遊んでるだろ」
「そんなことないけど」
「嘘だ。余裕じみてて腹立つ」
「分かった分かった。じゃあ風呂は別々でいいから、凛が先な」
「え?う、うん?」

だって俺が先に部屋にいれば、凛は戻ってきにくいだろ?
下手をすれば別の部屋へ逃げるかもしれない。
それに少しくらい待たせても、凛が先に寝てしまえるほど図太くないことも知ってる。
ほら、凛。
もっと気をつけないと。
俺は凛が好きすぎて、ついついこうやって絡め取ってしまうから。
凛と交代で風呂場へ入ると、鏡に映った自分の目には笑えるほど理性がなかった。
余裕じみてるわけがない。
さっきお預けをくらってから、ずっとずっと、体は熱く疼いてやまないのに。
やっと凛を振り向かせたのに。
やっとその心を両手ですくい上げることが出来たのに。
それだけじゃまだ足りない、まだまだ足りないと貪欲な想いに体が乾く。
凛を瞼に思い描き、固く反応する情緒的な肉体に今日はまだ手を触れないでおく。
代わりにいつもより熱いお湯を浴び、短く切った爪の先まで丹念に洗うのはせめてもの敬意だ。

「凛……」

許して、と。
先に形ばかりの謝罪を胸に吐く。
流れゆく泡は俺の劣情までは洗いきれず、音を立てて排水溝へと吸い込まれていった。
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