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《二人の世界》
【凛:恋煩い】
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「悪い、凛。今週の土日も無理になった」
放課後の教室はわいわいと賑わいを見せている。
毎日部活前にわざわざ俺のクラスに立ち寄る碧人は、今日も申し訳なさそうに両手を合わせた。
「別にいちいち謝りにくる事ないってば」
「でもほんとごめん。ここのところ勉強だって全然みてやれてないし」
「忙しいのは仕方ないだろ?俺は無理して碧人の時間削って欲しいわけじゃないし」
会える時は会える。
すれ違う時はすれ違う。
同じ学校に通っていてもそんなものだ。
……と、理性的に俺は対応する。
それ以外やり方が分からないからだ。
最近の俺はどうにもおかしい。
碧人がそばにいると体の芯が熱くなる。
碧人が離れるたびに虚無感が襲う。
気がつけば意識は濃密な夜に引き戻され、この目も手も、いつでも碧人を探して彷徨っている。
「来週末は絶対時間空ける!ぜったい凛と一緒にいる!」
大きな体を小さく丸める碧人に、俺は極力冷めた目を向けた。
「約束なんて気軽にすんなって。その時暇が出来たらでいいから」
「またそんな冷たいこと言う」
「もういいから、早く部活行ってこいよ」
背中を押してやると、碧人は未練がましさを目一杯残し教室を出て行った。
「ったく」
期待はしない。
そんな自分勝手に膨れ上がるものを抱えれば、俺は碧人に酷いことを言いそうな気がしてならないからだ。
「あれ?木崎は?さっき来てただろ」
俺より一回り以上は巨体な倉田が視界を塞ぐ。
つられて数人の友だちが俺を取り囲んできた。
「木崎のやつ最近毎日来てるよなぁ」
「ってか、お前ら仲良すぎん?」
わちゃわちゃと構いつけてくる手を払い、俺は用意していた答えを冷静に返した。
「碧人には勉強見てもらってるんだよ」
「何⁉︎勉強だと⁉︎長谷川はずっと俺と補習友だちでいいんだぞ!」
「そんなズッ友は嫌だ」
「凛、最近木崎ばっかじゃん。たまには俺らともあそびに行こうぜよ」
「お前らカラオケばっかだろ?咳が止まらなくなるんだって」
「そんなもん薬飲めばいいんだろ?いけるいける!」
「ったく、人ごとだと思って」
周りに合わせて笑いながら受け流す。
倉田たちは根も明るく、別に悪気があって俺を笑うわけではない。
だから俺自身も特に気にしていなかったが、ふと心配そうな碧人の顔が頭に浮かんだ。
今思えば、碧人だけは俺が失ったものも、俺が一人で悩んでいたことにも気づいていたのだろう。
だから俺が体調を崩す事に人一倍敏感だったんだ。
首筋を辿る碧人の指先を思い出すと、ジンと胸が熱くなった。
開け放たれた窓から流れる風に顔を上げさせられたが、陽の光に胸の奥まで透かされそうで、ため息がこぼれ落ちた。
「お、おい長谷川……」
「うん?」
振り返れば倉田達が興味津々に身を乗り出していた。
「お前最近妙に大人びたというか、色っぽい顔するよなぁ」
「はぁ?」
「いや分かる!凛は元々可愛いけど今のはグッときた。もしかして恋煩い?」
俺はカッと熱くなった顔を腕で隠し立ち上がった。
「お前ら何意味の分かんねぇこと言ってるんだよっ。じゃあな、帰る!」
足音も荒く教室を出る。
後ろからはまだ冷やかしが聞こえてきたが、全部シカトだ。
あいつらの嗅覚の鋭さには内心ヒヤヒヤものだったが、実はとんでもなく鋭い人はもっと身近に潜んでいた。
「凛、次碧人くんはいつ泊まりに来るの?母さんそれに合わせてパパのとこ泊まりに行くからカレンダーに書いておいてよ」
飲んでいた麦茶が喉に引っかかり盛大にむせる。
「え、な、なんで⁉︎」
「何でって、そりゃ息子の春を邪魔するほど野暮じゃないわよぉ。うふふ」
うふふ、にとんでもなく含みがある。
母には碧人との正式な付き合いは話したものの、それ以上は特に何も言っていない。
態度も変えていないつもりだったのに、完全に見抜かれている気がしてそこはかとなく気まずくなった。
「それにしても今年からパパが単身赴任になってちょうど良かったわぁ。母さんは週末いつでもそっちに行けるし、碧人くんと凛はゆっくりここで過ごせるし、ね?」
ね?がとどめとなり、俺はここでも早々に退場した。
一日を終えて部屋に入ると、疲労のままにベッドに転がる。
俺の体重でぎしりと鳴る音が碧人の体温を思い出させた。
「はぁ、駄目だ。俺やばくないか?」
これじゃただの盛りのついた野良猫だ。
体が気持ちよかったから抜け出せないのか、心が満たされることを知ったから飢えるのか。
自分で自分が分からない。
でも。
「んっ、は、ぁ。碧人……」
仄暗い激情と溜まりに溜まるフラストレーションに、素肌を晒した碧人が瞼の裏で応えてくれる。
本人に八つ当たりなんて酷いことをしてしまわないように、俺は出来る限りこの想いを自分の手で消化するしかなかった。
放課後の教室はわいわいと賑わいを見せている。
毎日部活前にわざわざ俺のクラスに立ち寄る碧人は、今日も申し訳なさそうに両手を合わせた。
「別にいちいち謝りにくる事ないってば」
「でもほんとごめん。ここのところ勉強だって全然みてやれてないし」
「忙しいのは仕方ないだろ?俺は無理して碧人の時間削って欲しいわけじゃないし」
会える時は会える。
すれ違う時はすれ違う。
同じ学校に通っていてもそんなものだ。
……と、理性的に俺は対応する。
それ以外やり方が分からないからだ。
最近の俺はどうにもおかしい。
碧人がそばにいると体の芯が熱くなる。
碧人が離れるたびに虚無感が襲う。
気がつけば意識は濃密な夜に引き戻され、この目も手も、いつでも碧人を探して彷徨っている。
「来週末は絶対時間空ける!ぜったい凛と一緒にいる!」
大きな体を小さく丸める碧人に、俺は極力冷めた目を向けた。
「約束なんて気軽にすんなって。その時暇が出来たらでいいから」
「またそんな冷たいこと言う」
「もういいから、早く部活行ってこいよ」
背中を押してやると、碧人は未練がましさを目一杯残し教室を出て行った。
「ったく」
期待はしない。
そんな自分勝手に膨れ上がるものを抱えれば、俺は碧人に酷いことを言いそうな気がしてならないからだ。
「あれ?木崎は?さっき来てただろ」
俺より一回り以上は巨体な倉田が視界を塞ぐ。
つられて数人の友だちが俺を取り囲んできた。
「木崎のやつ最近毎日来てるよなぁ」
「ってか、お前ら仲良すぎん?」
わちゃわちゃと構いつけてくる手を払い、俺は用意していた答えを冷静に返した。
「碧人には勉強見てもらってるんだよ」
「何⁉︎勉強だと⁉︎長谷川はずっと俺と補習友だちでいいんだぞ!」
「そんなズッ友は嫌だ」
「凛、最近木崎ばっかじゃん。たまには俺らともあそびに行こうぜよ」
「お前らカラオケばっかだろ?咳が止まらなくなるんだって」
「そんなもん薬飲めばいいんだろ?いけるいける!」
「ったく、人ごとだと思って」
周りに合わせて笑いながら受け流す。
倉田たちは根も明るく、別に悪気があって俺を笑うわけではない。
だから俺自身も特に気にしていなかったが、ふと心配そうな碧人の顔が頭に浮かんだ。
今思えば、碧人だけは俺が失ったものも、俺が一人で悩んでいたことにも気づいていたのだろう。
だから俺が体調を崩す事に人一倍敏感だったんだ。
首筋を辿る碧人の指先を思い出すと、ジンと胸が熱くなった。
開け放たれた窓から流れる風に顔を上げさせられたが、陽の光に胸の奥まで透かされそうで、ため息がこぼれ落ちた。
「お、おい長谷川……」
「うん?」
振り返れば倉田達が興味津々に身を乗り出していた。
「お前最近妙に大人びたというか、色っぽい顔するよなぁ」
「はぁ?」
「いや分かる!凛は元々可愛いけど今のはグッときた。もしかして恋煩い?」
俺はカッと熱くなった顔を腕で隠し立ち上がった。
「お前ら何意味の分かんねぇこと言ってるんだよっ。じゃあな、帰る!」
足音も荒く教室を出る。
後ろからはまだ冷やかしが聞こえてきたが、全部シカトだ。
あいつらの嗅覚の鋭さには内心ヒヤヒヤものだったが、実はとんでもなく鋭い人はもっと身近に潜んでいた。
「凛、次碧人くんはいつ泊まりに来るの?母さんそれに合わせてパパのとこ泊まりに行くからカレンダーに書いておいてよ」
飲んでいた麦茶が喉に引っかかり盛大にむせる。
「え、な、なんで⁉︎」
「何でって、そりゃ息子の春を邪魔するほど野暮じゃないわよぉ。うふふ」
うふふ、にとんでもなく含みがある。
母には碧人との正式な付き合いは話したものの、それ以上は特に何も言っていない。
態度も変えていないつもりだったのに、完全に見抜かれている気がしてそこはかとなく気まずくなった。
「それにしても今年からパパが単身赴任になってちょうど良かったわぁ。母さんは週末いつでもそっちに行けるし、碧人くんと凛はゆっくりここで過ごせるし、ね?」
ね?がとどめとなり、俺はここでも早々に退場した。
一日を終えて部屋に入ると、疲労のままにベッドに転がる。
俺の体重でぎしりと鳴る音が碧人の体温を思い出させた。
「はぁ、駄目だ。俺やばくないか?」
これじゃただの盛りのついた野良猫だ。
体が気持ちよかったから抜け出せないのか、心が満たされることを知ったから飢えるのか。
自分で自分が分からない。
でも。
「んっ、は、ぁ。碧人……」
仄暗い激情と溜まりに溜まるフラストレーションに、素肌を晒した碧人が瞼の裏で応えてくれる。
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