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一話
しおりを挟むベルティーユ・リヴィエは、小国リヴィエの王妹だ。
リヴィエは小国ではあるが資源が豊富であり、豊かな国だ。主に鉱山や香辛料など貴重な物を産業としている。それ故に昔からリヴィエの資源に目を付け狙う国が後を絶たない。ただリヴィエは四方が海に囲まれた島であり、船でしか入国は出来ない。またその周囲は常に潮の流れが早く場所により渦潮が起きる。それ故、島に辿り着くには潮の流れを熟知しているリヴィエ国の人間以外は近付く事は困難を極める。昔は数多の国々が危険を顧みずリヴィエを手に入れようと果敢に挑んで来る事もあったが、全て惨敗に終わった。今では殆ど国が戦を諦め、外交に切り替えている。そんな中、唯一執着を見せている国があった。それはブルマリアス国だ。大陸一の大国であり、軍事力も絶大だ。ブルマリアスの狙いは表向きリヴィエの豊かな資源であるが、別にも理由が存在する。史実かどうかは定かではないが、遥昔罪を犯したブルマリアスの王族が現リヴィエ国である孤島に流れ着き国を築いたとされており、それ故か信仰する神も類似している。また民のその風姿は一見すると見分けのつかない程似ている。共通するものが多いならば分かり合えそうなものだが、似ているからこそ認める事が出来ないとも言える。もはや戦いに意味はないのかも知れない。リヴィエだ人から、ブルマリアス人だから……憎い。ただそれだけだ。
そんな関係が何代にも渡り続けられてきたが、リヴィエの国王であったアベル・リヴィエが病で亡くなり、その嫡子であるディートリヒが若くして国王に即位した事で一転した。
ベルティーユの実兄のディートリヒは昔から温厚な人物であり、所謂平和主義を掲げている。「争いからは何も生まれない」彼の口癖だ。その言葉通り彼が玉座に就くと、真っ先に行った事は敵国であるブルマリアスに和平の申し入れをする事だった。これまでの長い歴史を考えれば一筋縄ではいかないと思われたが、戦は一時休戦となり話し合いが進められる事となった。但しそう簡単な話ではない。話し合いの場にて、何時先方が裏切るのではないかと互いに戦々恐々としているのが実情だ。そこで出された最善策は、人質交換だった。
「すまない、ベル。まだ幼い君にこんな事を強いるなんて……無力な兄を赦して欲しい」
「お兄様、私はもう幼子ではありません。心配しないで、大丈夫です。リヴィエの為に、確りとお役目を果たして参ります」
リヴィエの赤い国旗が潮風に靡く。
ベルティーユは兄のディートリヒや弟のマリユスと別れの抱擁を交わすと軍船に乗り込んだ。甲板に出ると、涙ながらに手を振っているまだ八歳の弟に応える様に手を振った。
国を離れるのは生まれて初めてだ。兄には虚勢を張り笑顔で心配はいらないと答えたが、本当は不安で堪らない。ただ遠遊に行くわけではない。これからベルティーユが向かうのは敵国なのだ。人質として誰一人味方もおらず、何時殺されてもおかしくない。日々死と隣り合わせとなるだろう。
「行って参ります……お兄様、マリユス」
十二歳のベルティーユは、二度と帰れないかも知れないと島が見えなくなるまでその情景を目に焼き付けた。
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