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二話
しおりを挟む六年後ーー。
「ご機嫌は如何かな」
「クロヴィス兄様!」
部屋で読書をしていると扉が軽くノックする音が聞こえ、中に入って来たのは男性にしては細身で落ちた金色の長い髪を一つに束ねた青年だった。彼はこの国の第二王子のクロヴィス・ブルマリアス。ベルティーユがこの国に来てから何かと世話を焼いてくれている。
「珍しいお菓子が手に入ったから、ベルと一緒に食べようと思ったんだ」
彼はそう言うと侍女にお菓子の包みを手渡した。それを受け取った侍女はお茶を淹れる為に部屋から下がった。
「異国の食べ物を似せて作った物で、サンザシを飴で塗した物なんだって。栄養素も高くて美容にも良いらしいよ」
丸くて赤い果実が串に刺されキラキラと輝いている。珍しい形状のお菓子に、ベルティーユは目を丸くしながらも恐る恐るそれを口に入れた。
「甘酸っぱくて美味しい」
「お気に召した様で何よりだ。ねぇベル、僕にも食べさせて?」
五歳年上のクロヴィスは、普段は頼り甲斐のある兄の様な存在だがたまにこうやって甘えてくる。だが別に嫌ではない。
「はい、クロヴィス兄様、お口開けて下さい」
まるで幼子の様に口を開ける姿に笑いが込み上げてくるが、我慢をしながら彼の口へとサンザシを運んだ。
「うん、本当だ、すっきりした甘さで食べ易い」
「昼間から何いちゃついてるんだよ」
「あぁ、ロランか。君も食べるかい?」
「いや俺はいらない」
呆れ顔で部屋に入って来たのは癖っ毛の短い黄みが強い金髪の中肉中背の青年で、この国の第三王子のロラン・ブルマリアスだ。クロヴィスより一歳下で、明るく人当たりは良いが、たまに冗談混じりにさらりと嘘を吐くので対応に困る事もある。だが悪い人ではない。
「相変わらず兄さんはベルに甘々だねー。それ他国から態々材料取り寄せてシェフに作らせてたやつだよね」
「おい、ロラン! どうして君は一々バラすんだ」
「ベルの気を引く為に必死だねー」
「う、煩いっ‼︎」
揶揄い軽快に笑うロランにクロヴィスは顔を真っ赤にして怒っている。それを見てベルティーユも笑った。
本当に仲の良い兄弟だと思う。ただ彼等には上に王太子である兄がいるのだが、彼は同じ兄弟でも余り仲の良い様には思えなかった。何でも聞いた話では、王太子は騎士団長を務めており城を空ける事も多く、兄弟であるクロヴィスやロランとは余り顔を合わせていないそうだ。それに二人とは違って、ベルティーユが生活している離宮に王太子が姿を見せる事はほぼない。年に数度、見掛ける事があるが冷淡な印象で会話をする事もない。無論礼儀として挨拶はするが、酷く冷たい目で睨まれるだけだ。悲しいがベルティーユの立場を考えれば至極当然とも言えるのでもう諦めている。
「そう言えば、もう直ぐベルの誕生日だったね。何が欲しい?」
「ロラン、君抜け駆けするつもりか⁉︎」
「こういう事は早いもの勝ちなんだよ」
十二歳でブルマリアスに来てからベルティーユは六回目の誕生日を迎える。十八歳は特別で、母国リヴィエでは成人と認められ成人の儀を執り行う。リヴィエと慣習が似た部分のあるブルマリアスでも同じ様な事を執り行うと耳にしたが、人質の身であるベルティーユには縁遠い話だ。
「ベル、当日は愉しみにしていてね」
そう言ってクロヴィスは、何時もみたいにベルティーユの頭を優しく撫でてくれた。
たまに自分が人質である事を忘れてしまいそうになる。傍から見たら何と能天気なと思うかも知れないが、クロヴィスを始めとして皆ベルティーユに本当に良くしてくれる。
この国へ来たばかりの時、不安気にしているベルティーユの手を優しく握り締め「僕の事はお兄様と呼んで」そうクロヴィスが言ってくれた。ロランも侍女達も、何時も優しい笑顔で接してくれる。正直、ブルマリアスには良い印象など無かったが此処に来て考えが変わった。国や民族が違っても、人は分かり合えるし何等違いなどない。これまでは行き違いなどで互いに啀み合い分かり合えなかったが、話をする事が出来る今それも終わる筈だ。この六年、和平協議は難航していたが最近になりようやく互いに歩み寄りを見せた。数ヶ月後の次の協議では、正式に書面を交わすと聞いている。そうなれば、ベルティーユも母国へと帰る事が出来るだろう。クロヴィス達と離れるのは寂しく思うが、やはり兄や弟達に会いたい。それに和平が結ばれれば、これからはリヴィエとブルマリアスを自由に行き来する事が出来る筈だ。それに何よりリヴィエやブルマリアスの民達にもようやく平穏な日々が訪れる。その事が今は愉しみであり、また嬉しくて仕方がなかった。
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