冷徹王太子の愛妾

月密

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三話

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 年に数回、面会がある。リヴィエから使者が訪れ数時間程話をする他に、兄や弟達からの手紙や贈り物を手渡される事も多々あった。但し手紙や贈り物はベルティーユが直接受け取る事は出来ない。一度ブルマリアス側が検閲をして問題がなければベルティーユに渡される。無論兄達もそれは分かり切っており、手紙の文面などは当たり障りのないものになっていた。だがそれでも、兄や弟の直筆である事に変わりはないと、ベルティーユは何時も心待ちにしていた。

 
「今年のベルティーユ様のお誕生日の贈り物は、陛下自らお渡ししたいからとお預かりはしておりません」

 落ち着いた銀色の髪の恰幅の良い男はベルティーユに穏やかな笑みを向けた。
 彼はリヴィエの高官で名はモーリス・ラロ侯爵。先代の国王であった父の代から側近を務め現国王のディートリヒからも信頼を置かれている。ベルティーユが六年前に人質としてブルマリアスに来た時には国境まで送り届けてくれた。そして面会には必ず彼が来てくれている。

「そうなんですね、分かりました」

 モーリスの言葉を聞いたベルティーユは笑みを浮かべた。彼の言葉から、もう時期和平がなされる事が汲み取れる。
 来月はベルティーユの誕生日があり、奇しくも同じ日に最後の協議が行われる予定だ。
 その後たわいのない会話をモーリスと交わし、その日は終わった。


 去年はクロヴィスからはドレス、ロランからは髪飾りを貰った。その前はペンダントや耳飾り、その前は香水、靴……、毎年送られた物は大切に保管している。勿論身に付ける事もあるが、社交の場に出る事のないベルティーユには機会はそうはない。だが今日は誕生日という特別な日だ。ベルティーユは早起きをして目一杯着飾っていた。

「ベルティーユ様、お花が届きました」
「ありがとう」
「今年も素敵ですね」
 
 侍女が手に抱えきれない程の花束を持って部屋へと戻って来た。
 毎年ベルティーユの誕生日の朝に必ず同じ種類の花束が届けられるのだが、送り主は不明だ。侍女の話では、届けに来た者に訊ねても決して口を割らないという。謎過ぎる。だがまあ花に罪はないので、有り難く頂戴して部屋に飾らせてもらっている。侍女が花瓶を用意して花束を生けると窓際に置いた。
 小さく真っ白な愛らしい花を見るたびに、故郷のリヴィエにこの花が咲いていた事を思い出し、少し寂しくなる一方で胸が温かくなった。


「もう直ぐ、いらっしゃるかと思うのですが……」

昼にはクロヴィス達がやって来て、ご馳走やケーキを食べて一緒にお祝いをする……筈だった。
 ベルティーユの目の前には沢山の豪華で美味しそうな料理が並べられていた。ケーキは此処にはないが、厨房に準備してある。去年クロヴィスから貰ったドレスを着て、長い髪を結い上げロランから貰った髪飾りをつける。化粧を施され、爪を綺麗に磨いて貰い、お気に入りの香水をつけた。準備は完璧なのに、誰も来ない。時計を見れば短針が十六を指し示し、もう夕刻だ。

「今一度、様子を見に行って参りますね」

 侍女がまたクロヴィス達の様子を窺いに部屋を出て行った。それから数分して、部屋の扉が開け放たれた。随分と早い。様子を見に行った侍女が戻って来たのかと思い俯いていた顔を上げた。

「クロヴィス兄、さ……」

 だが扉を開けたのは侍女ではなくクロヴィスだった。彼の姿を見たベルティーユは笑みを浮かべたが、直ぐに表情を曇らせる。何故ならベルティーユを見る彼の目が氷の様に冷たかったからだ。
 無言のまま靴音を鳴らし部屋に入って来る様子のおかしいクロヴィスを呆然と見るしか出来ない。

「あの……」

 ベルティーユの前で足を止めた彼に戸惑いながらも声を掛けた、その瞬間ーー。

 乱暴にテーブルクロスを掴みそれを勢いよく引っ張り裏返すクロヴィスの姿がゆっくりと瞳に映る。豪華な食事や冷め切ったお茶が宙を舞い音を立て床に散らばった。
 何が起きたのか全く理解出来ず、その場から微動だに出来ないでいると次の瞬間頬に痛みが走る。気付けばベルティーユは床に倒れ込んでいた。クロヴィスに頬を叩かれたのだと理解するまでに数秒を要した。

「クロヴィス、おにい、さ……」
「妹が……ブランシュが死んだ」

 痛む頬を押さえながら見上げると、彼は感情のない声でそう言った。
 




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