冷徹王太子の愛妾

月密

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七話

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 彼に連れられ馬車に乗ると、正門は開錠され堂々と外へと出る事が出来た。
 馬車に乗り込むまで、正直胸が煩いくらいに脈打っていた。彼に従いついて来てしまったが、本当に良かったのだろうか……。彼はベルティーユの身柄を引き受けると話していたが、そもそも処刑はどうなったのだろう……。意図は分からないが、もしかしたら彼の独断の可能性も考えられる。だが誰もベルティーユ達の後を追って来る事はなかった。

 馬車の窓から外の景色に目をやると釘付けになった。外の空気に触れるのは実に六年振りだ。馬車に乗るのもこうして城の外へ出られるのも。
 ほんの少し前までは、何不自由なく暮らしていた。広い部屋には華美な調度品が並び、豪華な食事も煌びやかなドレスや装飾品も与えられ、退屈しない様にと沢山の本や刺繍糸なども完備されていた。身の回りの世話をしてくれる侍女等も含めて、皆穏やかで優しい人ばかりで自分が人質という事を忘れてしまいそうになった。それくらい本当に良くして貰った……。だが改めてこうやって外に出て見ると、感覚が麻痺していた事に気付かされた。どんなに贅沢なものを与えられていようとも、ベルティーユの意思で一歩たりとも部屋から出る事は出来なかった。窓の外に見えている目前の庭へすら自分の意思で出る事は赦されない。部屋から出るには必ず許可が必要で、また侍女とは別の監視がついた。ベルティーユも気が付けば、もう年頃の娘だ。だが社交の場に出る事は疎か、着飾って素敵な男性とダンス一つ踊る事も叶わなかった。

「聞いているのか」
「え……」

 訝し気な表情で此方見る彼に、何時の間にか馬車が止まっている事に気が付いた。どうやら随分と考え込んでいたらしい。

「あ、あの……」

 彼は先に馬車から降りると行ってしまった。戸惑いながらも、ベルティーユも彼を追って馬車から降りた。着いた先は、古びた屋敷だった。




「城は騒がしくて落ち着かないんだ」

 応接間に通され、ソファーに座る様に促された。それから彼から簡単に説明を受けた。この屋敷は彼の別邸で、基本はこの屋敷で生活しているそうだ。王太子なのに自由過ぎる……。もしベルティーユの兄ディートリヒが同じ事をしようものなら大騒ぎになりそうだ。

「君の世話はそこに居る侍女に任せる事にする。何かあれば遠慮なく言うといい」
「ヴェラでございます。ベルティーユ様のお世話をさせて頂けるなど光栄です」

 人好きのする笑みを浮かべ丁寧にお辞儀をしたのは、歳は中年くらいの赤髪の女性だった。

「はい、宜しくお願い、し……」

 立ち上がり返事をしようとした瞬間、目の前が真っ暗になりベルティーユの意識はそこで途切れた。

 
 身体中が燃える様に熱くて痛い。息をするのも苦しくて、呼吸の度に痛みが走る。瞼は重過ぎて開ける事は出来なかった。突然の出来事に失念していた。今の自分の身体の状態をーー。


◆◆◆

「はぁ……。あのさ、もっと気を遣えなかったの? どうして無理をさせたんだよ」
「いや、実際に会ってみたら平気……じゃないな。完全に俺の落ち度だ、すまない」
「僕に謝ってどうするの」

 呆れ顔でこれ見よがしに溜息を吐くのはレアンドルの側近であり同じ騎士団に所属しているルネ・オードランだ。騎士団員としては筋肉量も少なく細身で頼りなさを感じるが、基本彼の仕事は救護だ。昔から賢く医学を学んでいる。無論戦さ場にも同行するが戦闘は期待出来ない。ただその代わりではないが頭の回転が速く弁が立つ分、色々と助かる事もある。まあその所為で、たまに苛っとさせられる事もあるが。

「事前に彼女の現状は大まかだけど知らされてた筈。一見平気そうに見えたからって、勝手な判断をするのは頂けないよ。でも、もっとか弱いお姫様かと思ってたけど……見上げた精神力だね」

 情けないがルネの言葉に何の反論も出来ない。彼の言う通り、もっと気を配るべきだった。言い訳をするつもりはないが、あの時は余裕がなかった。内心、少しでも早く彼女をあの場から連れ出さなくてはならないと焦っていた。取り敢えず彼女の身柄は自分に一任される事にはなったが、不満に感じている者は少なくない。正直、何が起きても不思議ではなかった。

「熱も心配ではあるけど、兎に角身体の損傷が酷い。衣服で隠れているから気付かなかったかも知れないけど、全身打撲痕だらけだよ。骨折までしてなくても、これは何ヶ所か骨にひびが入っている可能性が高いね。この状態で自分で歩いて馬車にまで乗って来たんだろう? 全く信じ難いよ。こんなボロボロの身体で、きっと立ち上がるのだって辛かった筈だ」

 その後、ルネは処置を終えると明日また様子を見に来ると言い残し帰って行った。
 レアンドルはベルティーユの眠るベッドの横の椅子に腰掛けると深い溜息を吐いた。











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