冷徹王太子の愛妾

月密

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二十三話

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 時計の短針が十一の数字を指し示してから暫くすると、静かに扉が開きシーラが部屋へと入って来た。

「お待たせしました」

 これで何度目だろう。あれからシーラはこの時間になるとベルティーユの部屋を頻繁に訪ねて来る様になった。そして二人で色々な話をする。
 彼女は慣れた様子で椅子に座ると早速口火を切った。

「どうですか? 覚悟は決まりましたか?」
「……いえ、まだ」

 先日の話の返答を求められるが、ベルティーユはまだ迷っていた。

「そうですか……。ベルティーユ様。この前もお話しましたが、アンナさんはレアンドル様の恋人らしいんですよ。でも身分違いから結婚は出来ないそうで。ならば妾にと考えたみたいなんですけど、今はベルティーユ様がいらっしゃるじゃないですか。立て続けに妾を作るのも世間体が悪いし……。なので取り敢えず侍女として屋敷で働けば何時でも逢瀬が出来ると考えたみたいなんです」

 アンナがレアンドルの恋人……。それは納得出来る。美人で身体付きも女性らしくとても魅力的だ。立ち居振る舞いも完璧で、シーラが話す様に身分さえ釣り合っていたら直ぐにでも王太子妃になれそうだ。だが……。

「でも……それなら何故今なんでしょう」
「え」
「私を妾にする以前にアンナさんを迎え入れていても良かった筈なのに……」
「あー……それは確かに、ではなくて! 二人が出会ったは、ベルティーユ様が屋敷に来た後の話だからですよ」
「成る程」

 シーラは身振り手振りで必死に訴えてくる。少し不審には感じるが、一応彼女の言い分に納得は出来る。

「レアンドル様はお優しい方ですから言わないだけで、実はベルティーユ様には飽きてしまっていて、本心では早く屋敷から出て行って欲しいって思っていると聞きました」
「……」
「まだ迷われているなら、直接確かめましょう」

 シーラからの提案で、自分の目で確かめる事になってしまった。正直シーラの話の信憑性は測り兼ねていたので妙案かも知れない。だがもし真実だったらーー。

 数日後の夜中、シーラが何時もより少し早い時間に部屋を訪ねて来た。

 真っ暗な廊下をベルティーユは壁に手を付き、手探りの様な状態でシーラの後をついて行く。彼女の手にしている洋燈はとても小ぶりで頼りなく視界が悪い。

「普通の大きさだと見つかり易いので」

 シーラから何時になく深刻な面持ちでそう言われ、何だか泥棒にでもなった気分になる。
 廊下の角からアンナの部屋の様子を窺っていると彼女が本当に出て来た。慣れた様子で廊下を歩いて行く。追いかけなくてはと思うが、足がすくんで動けない。だがシーラは強引にベルティーユの腕を掴むと彼女の後を追った。
 途中何度も足を止めるか悩んだが、真実を確かめたい一心で前へ進んだ。
 そしてアンナがある場所の角を曲がった所で、ベルティーユの足は完全に止まってしまった。何故ならもう確認する必要などないからだ。アンナが向かっているのは明らかに彼の寝室だ。この先は彼の寝室しかない。

「ベルティーユ様」

 だがシーラはベルティーユの手を引くと強引に連れて行く。気力がなくなってしまったベルティーユは、なされるがまま結局は最後の曲がり角まで来てしまった。そしてーー。

「っーー」

 部屋の前に立ち止まり軽くノックをすると、自ら開けてアンナはレアンドルの寝室へと姿を消していった。

 あれから自室にどうやって戻って来たのか記憶が曖昧だったが、気付けばベッドの上に転がっていた。

 本当はシーラが嘘を吐いているのではないかと疑っている自分がいた。だがこうなった今、シーラの話の信憑性などもはや関係ない。自分の目で見た事が真実だ。私は無知だし、勿論博学なんかじゃない。でも流石に分かる。こんな時間に、男性の寝室を女性が訪ねてする事なんて一つしかない。
 私はただの妾で、妻でもなければ恋人でもない。 彼が誰と関係を持ったとしても口を出す権利などない。落ち込んだり悲しむなんて烏滸がましいにも程がある。分かっている、分かっているけど……。

『俺にっ触れるな‼︎』

「っ……」

 彼の気持ちを本当はもうとっくに分かっていたのに、分かりたくなくて悩んでいるフリをして誤魔化していただけだと気付いてしまった。

『お古の女なんて、男性からしたら邪魔でしかないらしいですよ』

 あの時、レアンドルの部屋に入って行くアンナを見て呆然とするベルティーユに、シーラが耳元でそう囁いた。
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