冷徹王太子の愛妾

月密

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四十一話

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「二ヶ月ですか……」
「あぁ、遠征に行かなくてはならなくなったんだ。急だが明日の早朝に出立する」

 何時もの様にベッドに入り彼の腕の中に収まると、彼からそう告げられた。
 ベルティーユは急激な不安に襲われる。以前にも似た様な事があったのを思い出してしまう。あの時、彼は大怪我を負って帰って来た。次は、怪我では済まないかも知れない……。


「では、行って来る」
「お気を付けて……」

 翌日の夜明け前ーー辺りがまだ暗い中、騎士団員等が彼を迎えにやって来た。門の前まで見送りに出ると、レアンドルはベルティーユを一度だけキツく抱き締め直ぐに離れ騎乗した。

「レアンドル様っ!」
「ベルティーユ……」

行かないでーーそんな風に言えたらどんなにいいか……。

 耐え切れなくて思わず彼の名を叫んだ。鳥の声さえ聞こえない静寂の中、ベルティーユの声が辺りに響く。

「レアンドル様のご無事を祈りながら、お帰りをお待ちしております」

 こんな時でさえ、こんな陳腐な言葉しか掛ける事が出来ないと自分に幻滅する。
 すると彼は真っ直ぐにベルティーユの目を見つめ頷くと、安心させる様に笑った。
 
「必ず、君の元へ帰るから待っていてくれ」

 白々と夜が明けていく中、馬に乗り駆けて行く彼の背中が見えなくなっても暫くその場から動けなかった。




 窓際に小さく真っ白な愛らしい花が飾られている。これはベルティーユの誕生日にレアンドルから貰った花だ。ブルマリアスに来てから毎年、ベルティーユの誕生日にこの花を贈ってくれていたのはやはり彼だった。ベルティーユがこの屋敷に来て間もない頃、お茶の席でこの花を彼から渡されもしかしたらとは思っていた。

 私の事を、ずっと気に掛けてくれていたーー。

 彼は妹のブランシュと重ねていたと話していたが、それでも十分過ぎるくらい嬉しかった。胸がいっぱいになる。

「早く、帰って来て下さい……」


 彼が屋敷を明けてからまだ三日しか経っていないが、もう随分と会っていない様に思える。

「こんなに広かったのね……」

 一人で眠るのがこんなに寂しいなんて思わなかった。此処の所ずっとこのベッドでレアンドルと一緒に眠っていたので、寂しくて堪らない。こんなに自分が寂しがり屋だとは思わなかった。
 だがそんな泣き言ばかりを言っていてはダメだ。彼の無事を祈り、帰って来た時にはちゃんと笑顔で出迎えられる様にしたい。


 レアンドルが遠征に出掛けてから十日過ぎた。ベルティーユは何時も通り中庭で花達に水をあげていたが、屋敷の中が何やら騒がしい事に気付く。何かあったのだろうかと不審に思った矢先足音が近付いて来た。そして振り返ると、彼がいた。

「やあ、ベル。元気そうだね」

 目を見張るベルティーユの手からカランッと音を立て水差しが落ち水が地面に飛び散る。

(どうして、此処に……)

「クロヴィス様……」
「遅くなってごめんね。迎えに来たよ」

 不気味な程満面の笑みのクロヴィスに、ベルティーユは後退りする。だがそれと同じに彼はゆっくりと近付いて来た。

「だ、誰か……」
「あぁ、助けを呼んでも無駄だよ。既に使用人達は拘束したし、外の見張りの兵等はもう死んでるから」
「っ⁉︎」

 コツンと靴の踵が花壇に当たる感覚の後にベルティーユは尻餅をつく。レアンドルからベルティーユの為に植えられた花が潰れてしまった。

「さあ、ベル。一緒に帰るよ」

 手を差し出されベルティーユはそれを払い除けクロヴィスを睨み付けた。彼は余程驚いたのか目を見開き此方を凝視する。

「私は、貴方とは行きませんっ‼︎」
「ーー」

 その瞬間、彼の顔から笑顔が消えた。ヘーゼルの鋭い視線が突き刺さり、乱暴に腕を掴まれる。強引に立たされたかと思えばハンカチで口を塞がれた。

「んッ⁉︎」
「大丈夫だよ、少し眠たくなるだけだから」

 抱き寄せられ耳にクロヴィスの熱い息を感じた。
 息苦しさを感じながらも踠くが徐々に身体の力が抜けて意識が遠ざかっていく。そして程なくしてベルティーユの意識は途絶えた。

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