冷徹王太子の愛妾

月密

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四十三話

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 この部屋に連れて来られてからどれくらい経ったのか正確には分からない。何しろこの部屋には窓も時計もない。ただクロヴィスが出入りする様子から十日程は経っていると思う。


「痛っ……舌を噛むなんて、酷いな」

 口付けられ舌を絡ませてきたが、その彼の舌に噛みついた。するとクロヴィスは身体を起こすと目を見張る。
 
「昔はもっと従順で良い子だったのに……やっぱり兄さんの影響かな? まあいいよ、時間はたっぷりあるんだからじっくりと躾けてあげる」
「……私は、貴方の思い通りにはなりません」

 そう言って睨み付けると、クロヴィスは心底愉快そうに笑った。

「強気だね、そんなベルも嫌いじゃないよ。でもきっとそんな風にいられるのは、兄さんが助けに来てくれるって思ってるからでしょう?」
「っ……」

 図星だった。でもそれだけじゃない。もしも彼が助けに来てくれなくても、もうクロヴィスに屈したくない。彼は約束してくれたーー必ずリヴィエと和平を結び平和な国を作り上げ、その象徴にベルティーユとレアンドルがなるのだと。どんなに身体を弄ばれ様とも決して心まで奪わせない。

「そんな健気なベルに、良い事を教えてあげるよーーレアンドル・ブルマリアスは戻らない」

 クロヴィスの徒ならぬ物言いに、急激に鼓動が速くなる。

「それは……どういう、意味ですか……」
「あぁそうか、ごめんね? すっかり言い忘れていたよ」

 揶揄う様にしてワザとらしい手振りを見せる。

「今この国のなんだ。正確にはまだだけど……きっと、もう直ぐだよ」

 この瞬間、ベルティーユは何を言われたのか理解出来なかった。
 彼は一体何を言っているのだろうーー王太子がクロヴィス? レアンドルは戻らない? これらの言葉から幾つか想像は出来るが、一番最悪な事が思い浮かんだ。

「レアンドル、様は……」
「兄さんは父上に見限られたんだ。まさかあんなに腰抜けの軟弱者だとは思わなかったみたいで、心底失望されていたよ」
「では今回の遠征は……」
「遠征は嘘じゃないよ、でもその所為で兄さんは破滅する事になるんだけどね」

 クロヴィスが、高揚しているのが見て取れる。
 ベッドから下り床に無造作に置かれたワインの瓶にそのまま口を付けた。

「もう少ししたら兄さんが率いる騎士団は、他国との激しい戦闘で疲弊し帰還するだろうーーその時を見計らい彼等を討ち取る。勿論城下に入る前だから、君が兄さんに会う事は二度とないよ」
「そんな、卑怯ですっ」
「戦術と言って欲しいな。君は知らないだろうけど、敵の戦力を削ってから責めるのは結構良く使う手法だよ」

 更にワインを煽り瓶を床に投げ捨てると、ゆっくりとまたベルティーユへと近寄って来る。

「心配はいらないよ。ベルはこれからもずっと僕が可愛がってあげるから。でも流石に正妃にはしてあげられないんだ、ごめんね? でも仕方がないよね……君は憎きリヴィエの人間なんだ、本来なら殺されたって文句は言えない。何しろリヴィエの国王は自らの欲の為にブランシュを陵辱し死に追いやったっ……。でも僕は、鬼畜の君の兄とは違って優しいからそんなことはしないよ?」

 クロヴィスは、レアンドルの身を案じ動揺するベルティーユの頬に触れると親指の腹で唇を撫でる。また彼の逆手は首筋に伝わされ、身体の輪郭をゆっくりとなぞっていく。

「あぁベル……そんな顔をして、可哀想に。大丈夫、例え他に妃を娶っても君は特別だから安心していいんだよ。ベルには僕の子供を産まさせてあげるからね……っ‼︎」

 唇に触れていた親指が口内へと侵入して来た時、ベルティーユはそれに力一杯噛み付いた。するとクロヴィスは顔を歪ませベルティーユから手を放した。彼の親指からは鮮血が流れ出している。

「ベルッ……」
「レアンドル様は、絶対にお戻りになりますっ‼︎」

 彼は強い人だから絶対に帰って来ると信じているーー絶対に。
 ベルティーユは、真っ直ぐにクロヴィスを見据えた。

「どうやらその前に、すべき事がある見たいだね」
「っーー‼︎」

 視界が大きく揺れ、気付いた時にはクロヴィスに馬乗りになられ首を絞められていた。

「ゔっ!……ん"ッ……」

 徐々に力が加わり段々と意識が薄れていく。肢体をバタつかせるが、それも次第に出来なくなった。

「ベルが悪い子だからいけないんだよ? これは躾なんだっ……分かるよね⁉︎」

 半笑いのクロヴィスが何かを話しているが、もう何も聞こえないーー。

(苦し、い……死ん、じゃ……レアン、ドル、さ……)

 ベルティーユの身体は力なくベッドへと沈んだ。



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