45 / 78
四十四話
しおりを挟む遠征に出立してから一ヶ月程ーーレアンドル達は帰還すべく馬を走らせていた。この山道を抜ければ城下までは後少しだ。
今回の遠征は二ヶ月はみていたが、存外大した事はなく予定よりも早く帰還する事になった。
「レアンドル、また無茶をすると倒れますよ‼︎」
馬を飛ばすレアンドルの後方からルネが怒りながら叫んでくる。相変わらず口煩い。心配してくれているのは有り難いが、今は彼の要望を聞く程の余裕はない。
先程大した事はないと言ったが、確かに敵は造作もなく団員等に然程目立った負傷者は出なかった。だがそんな中、レアンドルは一人深手を負った。
敵からの攻撃を躱した時、後方からナイフが飛んできてた。躱そうとはしたものの気付くのが遅れ背中に食らった。後方には味方しかいないと、完全に油断していた自分の落ち度だ。だがナイフを食らっただけで倒れる様な柔な身体はしていない。深傷の理由は、刃先に塗られていた毒の所為だ。無論ある程度の毒には幼い頃より慣らされているので耐性はある。故に直ぐにどうこうなる事はないが、レアンドルも人間であり無傷とならない。直ぐにルネから手渡された解毒剤は服用したが、効果は感じられなかった。その事から服用した事のない毒という事が分かる。ブルマリアスにはない毒だ……。
ナイフを投げつけた人物は周りの団員等に拘束されるが、一瞬の隙をみて自害した。その団員はまだ新入りだったらしいが、通常ならばそんな人間を実戦には配置しない。意図的に紛れ込んだのは確かだ。所持品などから身元を特定出来るものは見つからず、諦める他なかった。此処は戦さ場で、長居するのは得策ではない。
ブルマリアスの騎士団員は今現在総勢三百人程で編成されている。今回連れて来たのはその内の半分程だが正直その半分でもいいくらいだった。遠征前には必ず事前に情報を元に連れて来る部隊や人数を選抜している。無論実際に戦さ場に赴き大幅に誤差が生じる事も稀にあるが、そうある事ではない。今回の事はその稀に当てはまるが、レアンドルが命を狙われた事を考えると情報操作された可能性が高い。その理由は騎士団の戦力を分散させる為と考えるのが妥当だろう。そしてそれを指示したのはーー。
(父上か……但し厳密には違うだろうがな)
遠征の少し前に、レアンドルは国王に会いに行った。その際に今一度リヴィエへ和平の申し入れをするべきだと進言した。実はベルティーユにはまだ話していないが、今現在リヴィエとは再び戦乱状態へと戻っている。その為リヴィエ側が素直に応じるかは分からないが試す価値はある筈だ。だが国王には「不要」だと言い捨てられてしまった。それでも尚レアンドルは食い下がった。ブランシュの事はリヴィエ側に非があるが、このままでは元の木阿弥となりそれこそ妹の死が無駄となる、憎み戦うだけでは意味がない事を伝えた。すると「暫し、吟味する」そう言ってくれた。だがーー。
(正直、期待はしていなかったが出した答えがコレか……)
何時か父と対峙する日がくるのではないかと、心の奥底では思っていた。それが今現実となった。
「ベルティーユっ……」
彼女が危険だーー。
父は分かっていた、自分がベルティーユに懸想していた事を……。だからクロヴィスとの事を兄弟喧嘩だと片付けた。その事からも父にとって彼女はもはや価値のない存在だろう。故に父が彼女をどうこうするつもりはない筈だが、問題は弟二人だ。国王がレアンドルを切り捨てるなら、次の王太子の座にはクロヴィスが就く事になる。今回の事、クロヴィスは加担……いや主導していると言ってもいいだろう。そしてクロヴィスが真っ先に狙うのはベルティーユだ。
「派手な出迎えだな」
「レアンドル、これは……」
翌日には城下の門が可視出来る場所まで辿り着いたが、そこには何百もの兵の姿があった。ざっと見た所此方の三倍くらいの数だろうか。
「随分と侮られたものだな」
思わず鼻を鳴らした。
普通ならば数で此方が圧倒的に不利だろう。だが冷酷非道と恐れられているレアンドル率いるブルマリアスの騎士団相手に高々これだけの数で挑もうとするとは、その程度だと思われている事だ。
「不調の癖に、良く言いますよ」
肩をすくめ呆れるルネを尻目に、レアンドルは手綱を力強く打つと先陣を切る。
「時間がない、さっさと終わらせるぞ!」
「はいはい、分かりましたよ」
内乱など一番最悪な事態だ。本来ならばこんな下らない事をしている場合ではない。だが大人しく引き下がるつもりも、首をやるつもりもない。
彼女と約束をしたんだ、必ずリヴィエと和平を結びブルマリアスを争いのない平和な国にすると。だがその為には今はまだ戦わなくてはならないんだ。
0
あなたにおすすめの小説
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
私の意地悪な旦那様
柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。
――《嗜虐趣味》って、なんですの?
※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話
※ムーンライトノベルズからの転載です
代理で子を産む彼女の願いごと
しゃーりん
恋愛
クロードの婚約者は公爵令嬢セラフィーネである。
この結婚は王命のようなものであったが、なかなかセラフィーネと会う機会がないまま結婚した。
初夜、彼女のことを知りたいと会話を試みるが欲望に負けてしまう。
翌朝知った事実は取り返しがつかず、クロードの頭を悩ませるがもう遅い。
クロードが抱いたのは妻のセラフィーネではなくフィリーナという女性だった。
フィリーナは自分の願いごとを叶えるために代理で子を産むことになったそうだ。
願いごとが叶う時期を待つフィリーナとその願いごとが知りたいクロードのお話です。
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
【完結】夢見たものは…
伽羅
恋愛
公爵令嬢であるリリアーナは王太子アロイスが好きだったが、彼は恋愛関係にあった伯爵令嬢ルイーズを選んだ。
アロイスを諦めきれないまま、家の為に何処かに嫁がされるのを覚悟していたが、何故か父親はそれをしなかった。
そんな父親を訝しく思っていたが、アロイスの結婚から三年後、父親がある行動に出た。
「みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る」で出てきたガヴェニャック王国の国王の側妃リリアーナの話を掘り下げてみました。
ハッピーエンドではありません。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる