冷徹王太子の愛妾

月密

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四十四話

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 遠征に出立してから一ヶ月程ーーレアンドル達は帰還すべく馬を走らせていた。この山道を抜ければ城下までは後少しだ。
 今回の遠征は二ヶ月はみていたが、存外大した事はなく予定よりも早く帰還する事になった。

「レアンドル、また無茶をすると倒れますよ‼︎」

 馬を飛ばすレアンドルの後方からルネが怒りながら叫んでくる。相変わらず口煩い。心配してくれているのは有り難いが、今は彼の要望を聞く程の余裕はない。
 先程大した事はないと言ったが、確かに敵は造作もなく団員等に然程目立った負傷者は出なかった。だがそんな中、レアンドルは一人深手を負った。
 敵からの攻撃を躱した時、後方からナイフが飛んできてた。躱そうとはしたものの気付くのが遅れ背中に食らった。後方には味方しかいないと、完全に油断していた自分の落ち度だ。だがナイフを食らっただけで倒れる様な柔な身体はしていない。深傷の理由は、刃先に塗られていた毒の所為だ。無論ある程度の毒には幼い頃より慣らされているので耐性はある。故に直ぐにどうこうなる事はないが、レアンドルも人間であり無傷とならない。直ぐにルネから手渡された解毒剤は服用したが、効果は感じられなかった。その事から服用した事のない毒という事が分かる。ブルマリアスにはない毒だ……。

 ナイフを投げつけた人物は周りの団員等に拘束されるが、一瞬の隙をみて自害した。その団員はまだ新入りだったらしいが、通常ならばそんな人間を実戦には配置しない。意図的に紛れ込んだのは確かだ。所持品などから身元を特定出来るものは見つからず、諦める他なかった。此処は戦さ場で、長居するのは得策ではない。
 ブルマリアスの騎士団員は今現在総勢三百人程で編成されている。今回連れて来たのはその内の半分程だが正直その半分でもいいくらいだった。遠征前には必ず事前に情報を元に連れて来る部隊や人数を選抜している。無論実際に戦さ場に赴き大幅に誤差が生じる事も稀にあるが、そうある事ではない。今回の事はその稀に当てはまるが、レアンドルが命を狙われた事を考えると情報操作された可能性が高い。その理由は騎士団の戦力を分散させる為と考えるのが妥当だろう。そしてそれを指示したのはーー。

(父上か……但し厳密には違うだろうがな)

 遠征の少し前に、レアンドルは国王に会いに行った。その際に今一度リヴィエへ和平の申し入れをするべきだと進言した。実はベルティーユにはまだ話していないが、今現在リヴィエとは再び戦乱状態へと戻っている。その為リヴィエ側が素直に応じるかは分からないが試す価値はある筈だ。だが国王には「不要」だと言い捨てられてしまった。それでも尚レアンドルは食い下がった。ブランシュの事はリヴィエ側に非があるが、このままでは元の木阿弥となりそれこそ妹の死が無駄となる、憎み戦うだけでは意味がない事を伝えた。すると「暫し、吟味する」そう言ってくれた。だがーー。

(正直、期待はしていなかったが出した答えがコレか……)

 何時か父と対峙する日がくるのではないかと、心の奥底では思っていた。それが今現実となった。

「ベルティーユっ……」

 彼女が危険だーー。
 父は分かっていた、自分がベルティーユに懸想していた事を……。だからクロヴィスとの事を兄弟喧嘩だと片付けた。その事からも父にとって彼女はもはや価値のない存在だろう。故に父が彼女をどうこうするつもりはない筈だが、問題は弟二人だ。国王がレアンドルを切り捨てるなら、次の王太子の座にはクロヴィスが就く事になる。今回の事、クロヴィスは加担……いや主導していると言ってもいいだろう。そしてクロヴィスが真っ先に狙うのはベルティーユだ。


「派手な出迎えだな」
「レアンドル、これは……」

 翌日には城下の門が可視出来る場所まで辿り着いたが、そこには何百もの兵の姿があった。ざっと見た所此方の三倍くらいの数だろうか。

「随分と侮られたものだな」

 思わず鼻を鳴らした。
 普通ならば数で此方が圧倒的に不利だろう。だが冷酷非道と恐れられているレアンドル率いるブルマリアスの騎士団相手に高々これだけの数で挑もうとするとは、その程度だと思われている事だ。

「不調の癖に、良く言いますよ」

 肩をすくめ呆れるルネを尻目に、レアンドルは手綱を力強く打つと先陣を切る。

「時間がない、さっさと終わらせるぞ!」
「はいはい、分かりましたよ」

 内乱など一番最悪な事態だ。本来ならばこんな下らない事をしている場合ではない。だが大人しく引き下がるつもりも、首をやるつもりもない。
 
 彼女と約束をしたんだ、必ずリヴィエと和平を結びブルマリアスを争いのない平和な国にすると。だがその為には今はまだ戦わなくてはならないんだ。

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