冷徹王太子の愛妾

月密

文字の大きさ
61 / 78

六十話

しおりを挟む

 ブルマリアス国の支配下にあるユベルド国に目的の港があった。
 レアンドルは数人の配下を連れ、この土地を治める領主へと会いに向い残されたベルティーユや騎士団員等は暫くその場で待機する事になった。

「待たせてすまなかったな」

 数時間後、レアンドルが戻って来ると場所を移動する。着いた先は、今は使われていない屋敷だった。先に手紙で知らせを送り、受け入れ準備をしておいて貰っていたそうだ。

「港にリヴィエの迎えの船が来るまでの間、この屋敷で過ごす」

 早馬を近隣の元中立国であるルメール国へと向かわせた。そこからリヴィエへと知らせを出して貰う手筈となっていという。その為少し時間を要する。回りくどい感じがするが、敵対する国同士ならば普通の事だ。



「レアンドル、様……?」
「すまない、起こしてしまったか」

 この屋敷に滞在して十日余り。別段何かが起こる事もなく穏やかに過ごしていた。
 そんなある日の深夜、隣から温もりがなくなった事に気付いたベルティーユが目を覚ますと彼は窓辺で一人佇んでいた。

「いえ、大丈夫です。それよりどうされたんですか。眠れませんか?」
「まあ、そんな所だ」

 ベルティーユはベッドを抜け出し、苦笑するレアンドルの横に椅子を持って行くとそれに座った。そして彼に倣い窓の外の月を見上げた。漆黒の空は雲一つなく、少し欠けた金色の月が輝いている。それはとても美しい光景だった。

「なあベルティーユ……やはり君は」
「今更私を置いて行くなんて言わないですよね」

 不意に掛けられた言葉に先手を打つと、彼は眉根を寄せた。

「ベルティーユ、俺は心配なんだ。今ならまだ間に合う」
「……それは、私も同じです。それに、私よりもレアンドル様の方が遥かに危険なんですよ?」
「分かっている」

 兄の事は信じている。ただ一抹の不安はある。あの手紙を見た時に、確かに兄の筆跡ではあったが別人が書いたのではないかと一瞬疑ってしまった。兄は何時も必ずベルティーユを気遣う言葉を書いてくれていた。例え定例分の様な手紙でも、温かさを感じていた。だがあの手紙にはまるでそれが無かった。ベルティーユの事をブルマリアス国王の妾と称し、言葉遣いも冷たく突き放す様な感じを覚えたが思い違いだと信じたい。

「レアンドル様……私、もう一度リヴィエへ手紙を書きます。そして兄にはルメールへと出向いて貰える様に嘆願してみます」
「それこそ今更だろう。此方は言わば加害者の立場だ。余計な要求をすれば向こうが臍を曲げ兼ねない。そうなれば会談の機会は失われる。今回機会を逃せば、また数十年いや何百年も戦が続くかも知れない」

 レアンドルは、拳を握り締め顔を歪ませる。彼の怒りや悔しさがヒシヒシと伝わってきた。

「だからこそ、あの和平条約は希少な機会だったんだ。それなのにも関わらず、それをあの人は踏み躙った。あのままリヴィエと和平条約を結ぶ事が出来て入ればこんな事にはならなかった筈だ」

 確かに彼の言う通りだ。ただもしもあの時ブランシュが死ぬ事がなかったら、和平条約が問題なく結ばれていたとしたらーー今こうしてベルティーユがレアンドルの側にいる事もなかった。彼から愛される事も彼を愛する事も……なかった。もしかしたら、今頃クロヴィスと結婚していたかも知れない……。そう考えると何とも言い難い気持ちになる。

 私は自分勝手で酷い人間だ。そんな事は嫌だと思ってしまった。
 ベルティーユは、レアンドルの顔を見ていられず俯きキツく目を瞑った。

「だが、そうなれば君とこうして愛する事も愛される事もなかった。そんなのは、俺は嫌だ」
「っ⁉︎」

 まるで子供の様に言い捨てると、彼から抱き締められた。
 驚いて顔を上げると貪る様な激しい口付けをされた。


「すまなかった……」

 ベッドに腰掛け項垂れるレアンドルの背中にベルティーユは擦り寄り抱き付く。
 あの後、興奮した様子のレアンドルはベルティーユを窓辺で抱いた後そのままベッドに移動し更に二回程果てた。そこでようやく彼は正気を取り戻し今に至る。

「私はレアンドル様に抱いて貰えて幸せなんですから、謝らないで下さい」
「ベルティーユ……」
「ふふ、また元気になっちゃいましたね」
「っ……」

 寝衣の上からでも彼のものが反り上がっているのが分かり、ベルティーユは悪戯心が芽生え上から摩ってみた。するとまるで生きているみたいに、ピクピクと反応をする。彼の顔を覗き込めば悩まし気な表情を浮かべていた。

(レアンドル様、可愛い……)

「ベルティーユっ」
「え、あっ……‼︎」

 視界が大きく揺らぎ、気付けばまたベッドに組み敷かれていた。

「煽る君が悪い」

 結局その後、外が明るくなるまでレアンドルにベルティーユは貪られ続けた。
 
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

私の意地悪な旦那様

柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。 ――《嗜虐趣味》って、なんですの? ※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話 ※ムーンライトノベルズからの転載です

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

代理で子を産む彼女の願いごと

しゃーりん
恋愛
クロードの婚約者は公爵令嬢セラフィーネである。 この結婚は王命のようなものであったが、なかなかセラフィーネと会う機会がないまま結婚した。 初夜、彼女のことを知りたいと会話を試みるが欲望に負けてしまう。 翌朝知った事実は取り返しがつかず、クロードの頭を悩ませるがもう遅い。 クロードが抱いたのは妻のセラフィーネではなくフィリーナという女性だった。 フィリーナは自分の願いごとを叶えるために代理で子を産むことになったそうだ。 願いごとが叶う時期を待つフィリーナとその願いごとが知りたいクロードのお話です。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

【完結】夢見たものは…

伽羅
恋愛
公爵令嬢であるリリアーナは王太子アロイスが好きだったが、彼は恋愛関係にあった伯爵令嬢ルイーズを選んだ。 アロイスを諦めきれないまま、家の為に何処かに嫁がされるのを覚悟していたが、何故か父親はそれをしなかった。 そんな父親を訝しく思っていたが、アロイスの結婚から三年後、父親がある行動に出た。 「みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る」で出てきたガヴェニャック王国の国王の側妃リリアーナの話を掘り下げてみました。 ハッピーエンドではありません。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

処理中です...