冷徹王太子の愛妾

月密

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五十九話

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 リヴィエから書簡が届けられた。
 結局頑なに譲らなかったベルティーユが出した書簡の返事だった。
 レアンドルはベルティーユがリヴィエに行く事に賛成は出来ない。だが正直手詰まりではある。此方がどんなに話し合いを申し入れても、リヴィエが首を縦に振らない限り進展は無いだろう。

「ベルティーユ、リヴィエ国王は何と?」

 封を開け中身を確認していたベルティーユは怪訝な表情のまま黙り込んでいた。

「もし話し合いがしたいならば、私だけでなくレアンドル様の同席が不可欠だと。そうでなければ話し合いには一切応じないそうです。ただ和平に向けて前向きには検討したいとも書いてあります」

 リヴィエ側の真意は分からない。だがどの道レアンドルは自ら赴くつもりだった。それもレアンドルが行った所で話し合いに応じて貰えるかすら分からなかった。それが向こうから提示してきたのだ。此方としては断る理由はない。ただ、気掛かりなのはベルティーユの事だ。やはり彼女を連れて行くのはどうしても躊躇われる。

「そうか。ならやはり、俺が直接赴くべきだろう。だが君は連れて行けない」

 


 半月後ーー。

 朝靄の中、城門の前に騎士団等が整然と並んでいる。そして旅支度を整えたレアンドルの隣にはベルティーユの姿があった。

「本当に一緒に行くつもりか?」
「勿論です」

 結局レアンドルが折れる事となり、ベルティーユを連れて行く事となってしまった。彼女はレアンドルが思っていたよりも遥かに頑固だった。将来尻に敷かれる未来が見えた気がした。

「叔父上、留守を頼みます」
「まあこうなったら仕方ないな。留守は任せておけ。但し、必ず帰って来い」
「はい」

 ジークハルトに留守を頼み、レアンドルはベルティーユと共に馬車へ乗り込みリヴィエに向けて出立をした。


「身体は大事ないか?」
「レアンドル様、そんなに心配なさらなくても大丈夫です」
「だが先は長いんだ。無理はするな」
「はい、ありがとうございます」

 城を出て早くも半月が経った。
 リヴィエ国までは陸路を一ヶ月、その後は海路を十日程だ。女性であるベルティーユには体力的にきつい筈だ。

「レアンドル様、見て下さい! 街が見えます!」

 だが今の所彼女は頗る元気だ。
 馬車の窓の外を眺め時折り子供の様に燥いでいる。普段物静かな彼女が珍しい。だが新たな一面を知れて嬉しくも思う。無意識に頬が緩む。
 こんな時に不謹慎ではあるがまるで二人で周遊でもしている気分になった。
 
「ベルティーユ、おいで」
「はい……」

 手招きすると、彼女はおずおずと身体を寄せてくる。本当に愛らしい。
 膝の上に乗せ抱き締めてその柔らかな身体を堪能する。
 きっとこれから先、朝から晩までこんなに長い時間彼女と過ごせる事はないだろう。ならば今の内に満喫してもバチは当たらない筈だ。


 城を出立してから一ヶ月程ーー。

「ベルティーユ、平気か?」
「申し訳ありません……」
「謝る必要はないが、少し休んだ方がいいな」

 馬車を止めさせ、ベルティーユを椅子の上に寝かせた。身体を冷やさない様に毛布を掛ける。
 朝から気分が優れず時折り気持ちが悪いと言っていた。今更だが馬車に酔ったのかも知れない。故に目的地まではもう直ぐだが、今日は此処で休む事にした。幸い野営には丁度良く森の開けた場所で近くに川もある。団員等もゆっくり休息を取る事が出来るだろう。

 翌日、ベルティーユの体調は回復した。
 そしてその日の夕刻には目的地である、港のある街へと到着をした。

 
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