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六話
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彼に手を引かれ、中庭へと出るとフワリと髪が揺れた。
火照る身体がほんのり冷たい風に晒されて気持ちが良い。
「綺麗……」
漆黒の夜空には美しい月が浮かんで見える。それは思わず感嘆の声が洩れる程美しい後継だった。
「気に入ったかい」
「は、はい」
噴水の縁に座る様に促され腰掛けると、彼も隣に腰掛けた。
ただ何故か、こんなに余裕があるのに密着する程近い。しかも先程よりも触れる面積が増えた。
彼を盗み見るが、別段気にした様子はない。彼にとってはこれが普通なのだろうか。
幾ら女性に反応しないと言っても、これだけ完璧であらゆる物を兼ね備えた方だ。噂に違わず女性達からは人気があり、こうやって女性と二人きりで過ごすなど些細な事に過ぎないのかも知れない。
自分だけ意識し過ぎている事が恥ずかしくなる。
「リーザ、私はもっと君の事が知りたい」
「それは……」
「私の身体は君にしか反応しない。確かにその事で君に興味があるのは事実だ。だがそれは、単なるきっかけに過ぎない」
端麗な彼の顔が月明かりに照らし出される。
真っ直ぐにリーザの瞳を見つめながら、ヴィルヘイムは髪や頬に触れて来た。
(目が、逸らせない……)
「私にもっと君を教えて」
瞬間口付けをされされるかと思ってしまった。それくらい距離が近い。
彼は不意に顔を近付けると、リーザの額に自らのそれを合わせた。額のみならず鼻と鼻が触れ、彼の熱い吐息が唇に掛かるのを感じて、まるで口付けをしているかの様な錯覚に陥る。
「君にも私を知って欲しい」
「ぁ……」
身体が震える。
彼の長く綺麗な指がリーザの首筋をなぞる。思わず声を洩らしてしまった。
(はしたないわ……)
羞恥心に耐えられなくなり、そのまま瞳を伏せた。
逃げ出したい衝動に駆られるが、身体が言う事を聞かず動かない。
「あぁ……君は可愛いな」
「っ……」
「はぁ……リーザっ……」
先程と比べて、彼の息遣いが荒いのが分かった。
ゆっくりと指が首から肩へ、肩から下へと徐々になぞりながら下りてくる。
優しい手付きではあるが、これまで感じた事のない感覚に身体を震わす。
(怖いっ……)
「ぃ、嫌……」
言い知れぬ初めての感覚に恐怖を感じたリーザが声を上げた瞬間意外にもサッと熱が離れていく。
恐る恐る目を開けてみると、そこには項垂れているヴィルヘイムの姿があった。
リーザから大分距離を取り、目が合うと逸された。
「あの……」
「すまないっ! 君を怖がらせるつもりは無かったんだ……。ただ君が余りにも可愛過ぎるから、その、抑えられ無かった……」
見るからに落ち込んでいる彼に罪悪感を覚える。だがそれだけでなく別の感情が沸き起こるのを感じた。
(可愛い……かも)
自分よりも幾分も年上の大人の男性にこんな事を思うのは失礼極まりないと分かっている。だが、普段隙がなく完璧であり凛とした佇まいの彼が、まるで少年の様に項垂れる姿はやはり可愛いとしか表現のしようがない。
(少年……ううん、わんちゃんみたい)
飼い主に怒られた犬が、普段ピンとしている耳や尻尾を萎れた様に垂らし落ち込む様子を想像する。
そんな風に考えていると、リーザに余裕が出て来た。内心くすりと笑ってしまったが、彼には内緒だ。
足を一歩踏み出す。今度は自ら彼へと近付いて行く。
男性不信が治った訳ではない。だが何故だろうーー。
彼の傍へ行きたい。
先程は怖くなってしまったが、嫌悪感は全く無かった。余裕が出来た今では、また彼に触れて欲しいとすら思ってしまう。
「ヴィルヘイム様」
歩幅分開けた場所で立ち止まり声を掛けると、一瞬だが彼は身体をピクリと震わした。顔は変わらずこちらから背けたままだ。
「私も触れて、良いですか……」
弾かれた様に顔を上げた彼が呆然とする様子が可笑しくて、リーザは我慢出来ずに笑ってしまった。
火照る身体がほんのり冷たい風に晒されて気持ちが良い。
「綺麗……」
漆黒の夜空には美しい月が浮かんで見える。それは思わず感嘆の声が洩れる程美しい後継だった。
「気に入ったかい」
「は、はい」
噴水の縁に座る様に促され腰掛けると、彼も隣に腰掛けた。
ただ何故か、こんなに余裕があるのに密着する程近い。しかも先程よりも触れる面積が増えた。
彼を盗み見るが、別段気にした様子はない。彼にとってはこれが普通なのだろうか。
幾ら女性に反応しないと言っても、これだけ完璧であらゆる物を兼ね備えた方だ。噂に違わず女性達からは人気があり、こうやって女性と二人きりで過ごすなど些細な事に過ぎないのかも知れない。
自分だけ意識し過ぎている事が恥ずかしくなる。
「リーザ、私はもっと君の事が知りたい」
「それは……」
「私の身体は君にしか反応しない。確かにその事で君に興味があるのは事実だ。だがそれは、単なるきっかけに過ぎない」
端麗な彼の顔が月明かりに照らし出される。
真っ直ぐにリーザの瞳を見つめながら、ヴィルヘイムは髪や頬に触れて来た。
(目が、逸らせない……)
「私にもっと君を教えて」
瞬間口付けをされされるかと思ってしまった。それくらい距離が近い。
彼は不意に顔を近付けると、リーザの額に自らのそれを合わせた。額のみならず鼻と鼻が触れ、彼の熱い吐息が唇に掛かるのを感じて、まるで口付けをしているかの様な錯覚に陥る。
「君にも私を知って欲しい」
「ぁ……」
身体が震える。
彼の長く綺麗な指がリーザの首筋をなぞる。思わず声を洩らしてしまった。
(はしたないわ……)
羞恥心に耐えられなくなり、そのまま瞳を伏せた。
逃げ出したい衝動に駆られるが、身体が言う事を聞かず動かない。
「あぁ……君は可愛いな」
「っ……」
「はぁ……リーザっ……」
先程と比べて、彼の息遣いが荒いのが分かった。
ゆっくりと指が首から肩へ、肩から下へと徐々になぞりながら下りてくる。
優しい手付きではあるが、これまで感じた事のない感覚に身体を震わす。
(怖いっ……)
「ぃ、嫌……」
言い知れぬ初めての感覚に恐怖を感じたリーザが声を上げた瞬間意外にもサッと熱が離れていく。
恐る恐る目を開けてみると、そこには項垂れているヴィルヘイムの姿があった。
リーザから大分距離を取り、目が合うと逸された。
「あの……」
「すまないっ! 君を怖がらせるつもりは無かったんだ……。ただ君が余りにも可愛過ぎるから、その、抑えられ無かった……」
見るからに落ち込んでいる彼に罪悪感を覚える。だがそれだけでなく別の感情が沸き起こるのを感じた。
(可愛い……かも)
自分よりも幾分も年上の大人の男性にこんな事を思うのは失礼極まりないと分かっている。だが、普段隙がなく完璧であり凛とした佇まいの彼が、まるで少年の様に項垂れる姿はやはり可愛いとしか表現のしようがない。
(少年……ううん、わんちゃんみたい)
飼い主に怒られた犬が、普段ピンとしている耳や尻尾を萎れた様に垂らし落ち込む様子を想像する。
そんな風に考えていると、リーザに余裕が出て来た。内心くすりと笑ってしまったが、彼には内緒だ。
足を一歩踏み出す。今度は自ら彼へと近付いて行く。
男性不信が治った訳ではない。だが何故だろうーー。
彼の傍へ行きたい。
先程は怖くなってしまったが、嫌悪感は全く無かった。余裕が出来た今では、また彼に触れて欲しいとすら思ってしまう。
「ヴィルヘイム様」
歩幅分開けた場所で立ち止まり声を掛けると、一瞬だが彼は身体をピクリと震わした。顔は変わらずこちらから背けたままだ。
「私も触れて、良いですか……」
弾かれた様に顔を上げた彼が呆然とする様子が可笑しくて、リーザは我慢出来ずに笑ってしまった。
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