彼の子を身篭れるのは私だけ

月密

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九話

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 お見合いは適当にやり過ごせば平気だと考えていた。

ーーお見合い前日。

 未だに部屋に積み上がっている資料が物語っている様に、お見合いなど貴族の令息、令嬢なら年頃になれば誰だってするものであり特別な事ではない。
 実際リーザも、元婚約者と婚約をする前は何度もお見合いをした事がある。殆どが体面を保つ為のものであり、結局は父の知人の息子とお見合いもなしに婚約が決まったくらいだ。
 それ故にヴィルヘイムとの事はその後に折を見て両親に話すつもりだった。母は不快感を示すだろうが、父はきっと快諾してくれる自信があった。それなのにーー。

「結婚って、どういう事ですか⁉︎」
「それがね、先方が甚く乗り気みたいでね。この際お見合いは取り止める事にして結婚の方が良いというお話になってしまったの」

 お見合いも婚約すら吹っ飛ばしてまさかいきなり結婚を言い渡されるとは思わなかった……。
 放心状態のリーザを余所に母は腹が立つ程に嬉々としながら話を続ける。

「明日、先方がお見えになり早速婚儀の話を進めます。あぁ、そうだわ! お母様たらうっかりしてて、とっても大切な事を忘れていたわ。実はね、リーザちゃん」

 部屋には自分と母、使用人しかいないのに何故かまた”ちゃん”付けをする母に嫌な予感がした。

「先方が、どうしてもをしたいと仰ってね。勿論お母様も流石にそれはお断りしたのよ? でも今時珍しくもないと余りにも食い下がるものだから……許可致しました」
「っーー」
「なので今日は確りとお肌のお手入れしておきなさいね?」

 含み笑いをしていた母は、抑え切れなくなったのか笑い声を洩らす。

「残念ねぇ、オードラン公爵に嫁ぐ事が出来なくて。可哀想なリーザちゃん。でも先方は一応侯爵家の三男だし、まあ女好きで婚約しては浮気を繰り返し破棄する様なしょうもない男で、侯爵夫妻も散々手を焼いてお困りみたいですけど。まぁ貴女にはそれくらいの男がお似合いよ。だってまるで貴女の元婚約者の様だものね? そういうの得意でしょう? あぁそれと、結婚したら出戻る事は絶対に許しません。ロワリエの家名に泥を塗る事だけはしないように」

 要するに、これから先どんなに浮気され酷い扱いをされようとも離婚はせずに我慢しろと言いたいのだろう。
 婚約破棄くらいならば、時間が経てば然程影響は及ぼさない。だが結婚して離婚ともなれば話は変わる。悪評が立ち生家にかなりの影響を及ぼし兼ねない。貴族社会は階級が全てであり、どちらに非があるにせよ低い方が被害を被る事が殆どだ。

「精々可愛がって貰いなさい」

 嫌らしい笑みを浮かべ捨て台詞を吐くと、母は部屋を出て行った。
 扉の閉まる音がやけに耳に付く。
 リーザは暫く無気力になりその場から動けなかった。





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