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第五話
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それはマリアとの婚約を解消してから数日後のことだった。
アンリエットは次期王妃として学園が終わった後王宮にて教育を受けることになった。
俺はもっと時間のある休日にすればいいのではないか、と思ったので教育係たちの所へ命令しにいくことにした。
「おい、アンリエットの王妃教育は休日にやるようにしろ」
「それは無理ですマティス様」
「なっ! 俺の言葉に逆らうのか?!」
「いいえ、王妃様からの命令ですので」
「なに、母上の?」
「はい、ですからいくら王子の言葉といえども従うことはできません」
母上の命令ならば、覆せることは無いだろう。
チッ、しょうがない。
ならせめてアンリエットを励ましに行くとしよう。
俺はアンリエットが王妃教育を受けている所へと向かった。
「おいアンリエット、だいじょう──」
「マティスさまぁっ! 私もう勉強したくありませんッ!」
扉を開けたとたん、アンリエットが俺の胸に飛び込んできた。
そしてグスグスと泣き始める。
「アンリエット、顔を……」
俺は泣いているアンリエットを慰めようと顔を上げさせて、固まった。
アンリエットの顔がとても酷いことになっている。
鼻水と涙出ぐちょぐちょになった顔は見れるものではなくなっていた。
しかもその鼻水が俺の服にべっとりとついていた。
正直、醜い顔も相まってかなり不快だった。
「……アンリエット、離れてくれるか」
「あ、申し訳ございません……」
アンリエットが俺から離れた。
このことを契機にして、アンリエットのちょっとしたことが鼻につくようになった。
例えば、一緒にランチへと行ったとき。
カチャカチャと音をたてて頬一杯に食べ物を頬張るアンリエット。
食べ物を噛むたびにクチャクチャと音がしている。
最近まで庶民だったのだ。テーブルマナーを知らなくてもおかしくはない。
しかし、アンリエットと食事している最中俺はずっとイライラしぱなしだった。
例えば、王妃教育の最中。
アンリエットは頑張っていた。しかし物覚えが悪く詰め込んでも次の日には全部忘れてしまう。
俺の成績は中の下だが、アンリエットは最下位だ。
この前教えたマコツユの花の名前だってさっぱりと忘れていた。
俺はアンリエットがただの馬鹿にしか見えなくなった。
アンリエットへの不満はどんどんと募っていく。
勉強もできなければダンスもできない。
そして俺は気づいた。
アンリエットは顔しか取り柄が女なのだと。
重大な過ちを犯してしまったのだと理解した。
俺は深く反省した。
少し欠点はあるが、マリアは俺の婚約者として有能だったのだ。
俺はすぐにでもマリアへと謝りにいくことにした。
学園がある平日、俺はマリアがいる教室へと向かっていた。
「あ、あのマティス様。どちらへ」
「うるさい愚図。俺の視界に入るな」
途中で横から入ってきたアンリエットを手で払い除けた。
「きゃあっ!」
アンリエットは大勢を崩して倒れるが、俺は気にせずマリアの元へと向かった。
こんな愚図に構っている暇は無い。
「おい、マリア! マリア・クレイヤはいるか!」
マリアの教室にくるとマリアを呼び出す。
「はい」
「大事な話がある。ついてこい」
「大事な話、ですか。……分かりました」
俺はマリアを学園の中にある庭園へと連れてくると、早速本題を切り出すことにした。
「マリア、俺との婚約を戻せ」
「は?」
マリアは何を言っているのか分からない様子だった。
俺はそのことにイライラする。
おいおいしっかりしてくれ。お前までアンリエットのようになったのか?
「だから俺との婚約を戻せと言っているんだ」
「何故ですか?」
「何故って、アンリエットが俺に相応しくなかったからだ。アイツは俺の想像を超えるバカだった。分かるだろう? お前の方が俺に相応しいんだ」
ここまで言えばマリアも泣いて喜ぶだろう。
マリアは賢い。これで次期王妃の座に戻ってくるはずだ。
そう俺は確信してた。
しかし──
「残念ですが、それは出来ません」
「なに?」
「私には新しい婚約者がいますので」
マリアがそう言うと草花の影からとある人物が出てきた。
「やぁ、マティス兄さん」
その人物に俺は驚愕する。
なぜならその新しい婚約者とは、俺の弟のロマン・ジェレミーだったからだ。
アンリエットは次期王妃として学園が終わった後王宮にて教育を受けることになった。
俺はもっと時間のある休日にすればいいのではないか、と思ったので教育係たちの所へ命令しにいくことにした。
「おい、アンリエットの王妃教育は休日にやるようにしろ」
「それは無理ですマティス様」
「なっ! 俺の言葉に逆らうのか?!」
「いいえ、王妃様からの命令ですので」
「なに、母上の?」
「はい、ですからいくら王子の言葉といえども従うことはできません」
母上の命令ならば、覆せることは無いだろう。
チッ、しょうがない。
ならせめてアンリエットを励ましに行くとしよう。
俺はアンリエットが王妃教育を受けている所へと向かった。
「おいアンリエット、だいじょう──」
「マティスさまぁっ! 私もう勉強したくありませんッ!」
扉を開けたとたん、アンリエットが俺の胸に飛び込んできた。
そしてグスグスと泣き始める。
「アンリエット、顔を……」
俺は泣いているアンリエットを慰めようと顔を上げさせて、固まった。
アンリエットの顔がとても酷いことになっている。
鼻水と涙出ぐちょぐちょになった顔は見れるものではなくなっていた。
しかもその鼻水が俺の服にべっとりとついていた。
正直、醜い顔も相まってかなり不快だった。
「……アンリエット、離れてくれるか」
「あ、申し訳ございません……」
アンリエットが俺から離れた。
このことを契機にして、アンリエットのちょっとしたことが鼻につくようになった。
例えば、一緒にランチへと行ったとき。
カチャカチャと音をたてて頬一杯に食べ物を頬張るアンリエット。
食べ物を噛むたびにクチャクチャと音がしている。
最近まで庶民だったのだ。テーブルマナーを知らなくてもおかしくはない。
しかし、アンリエットと食事している最中俺はずっとイライラしぱなしだった。
例えば、王妃教育の最中。
アンリエットは頑張っていた。しかし物覚えが悪く詰め込んでも次の日には全部忘れてしまう。
俺の成績は中の下だが、アンリエットは最下位だ。
この前教えたマコツユの花の名前だってさっぱりと忘れていた。
俺はアンリエットがただの馬鹿にしか見えなくなった。
アンリエットへの不満はどんどんと募っていく。
勉強もできなければダンスもできない。
そして俺は気づいた。
アンリエットは顔しか取り柄が女なのだと。
重大な過ちを犯してしまったのだと理解した。
俺は深く反省した。
少し欠点はあるが、マリアは俺の婚約者として有能だったのだ。
俺はすぐにでもマリアへと謝りにいくことにした。
学園がある平日、俺はマリアがいる教室へと向かっていた。
「あ、あのマティス様。どちらへ」
「うるさい愚図。俺の視界に入るな」
途中で横から入ってきたアンリエットを手で払い除けた。
「きゃあっ!」
アンリエットは大勢を崩して倒れるが、俺は気にせずマリアの元へと向かった。
こんな愚図に構っている暇は無い。
「おい、マリア! マリア・クレイヤはいるか!」
マリアの教室にくるとマリアを呼び出す。
「はい」
「大事な話がある。ついてこい」
「大事な話、ですか。……分かりました」
俺はマリアを学園の中にある庭園へと連れてくると、早速本題を切り出すことにした。
「マリア、俺との婚約を戻せ」
「は?」
マリアは何を言っているのか分からない様子だった。
俺はそのことにイライラする。
おいおいしっかりしてくれ。お前までアンリエットのようになったのか?
「だから俺との婚約を戻せと言っているんだ」
「何故ですか?」
「何故って、アンリエットが俺に相応しくなかったからだ。アイツは俺の想像を超えるバカだった。分かるだろう? お前の方が俺に相応しいんだ」
ここまで言えばマリアも泣いて喜ぶだろう。
マリアは賢い。これで次期王妃の座に戻ってくるはずだ。
そう俺は確信してた。
しかし──
「残念ですが、それは出来ません」
「なに?」
「私には新しい婚約者がいますので」
マリアがそう言うと草花の影からとある人物が出てきた。
「やぁ、マティス兄さん」
その人物に俺は驚愕する。
なぜならその新しい婚約者とは、俺の弟のロマン・ジェレミーだったからだ。
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